個人授業は放課後に

須藤慎弥

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(察しろ、って……何を……?)


   由宇がつい浮かれてしまいそうなほど甘い言葉をぽろぽろと言ってくれていたけれど、あまりよく聞き取れなかった。

   確かに耳には入ったのだが、覚えていられなかったのだ。

   下半身のいやらしい摩擦によって脳内までもが熱を帯びている。

   その熱を逃がそうと射精したくても、性器からは色味のない透明な液体が絶えず零れ落ちて由宇の腹部を汚した。

   橘の息遣いがこの行為の生々しさに拍車をかけていて、何も考えられなかった。

   途中、「正常位の方が気持ちいいじゃん、な?」と唐突に同意を求められたが、頭が働かないのでシカトした。

   そんな事はどうでもいい。

   早く熱を鎮めてほしかった。

   ずっと、ずっと、体が震えて苦しい。

   内からと外からの刺激が重なり合って、おまけに橘は憎いほどの色気を放ち続けている。

   橘の乱れた前髪をかき上げてやりたくても、二人の性器を握らされて啼くので精一杯な由宇は、ひたすら橘を喜ばせている事に気付かない。


「あ、やべぇ。  ……零すなよ」
「んふっっ!?  んくっ……!」


   何度も腰を打ち付けていた橘の動きが急に止まり、今のうちに酸素を吸い込もうと唇を開きかけた時──。

   橘の巨砲がぬるっと口腔内へと侵入し、先ほどより少しだけ奥まで突っ込まれた。


「んんんんっっ──!  ……ん、……」


   と同時に、温かいものが三回ほどに分けて舌に乗り、由宇は訳も分からず反射的にそれを嚥下していた。

   独特な風味が鼻から抜ける。


「先、舐めろ」
「……っ?」
「そうそう、うまいじゃん」


   上半身を起こされ、膝立ちした橘は射精後の性器を舐める事まで由宇に強いた。

   口腔内が生々しい香りでいっぱいな中、橘の巨砲からも同じ味がして顔を背けたくなったが、精液を飲んでしまった由宇は、背けたところでどうなるものでもないと開き直った。

   未だ反り勃つ橘の性器を大事そうに両手で持ち、先端を舌先で舐め上げていく。

   されるがままな由宇へのささやかな情としてなのか、バイブのスイッチを切ってくれた事だけは感謝した。


(あとで目いっぱい文句言ってやるんだから──!)


   初心者である由宇にここまで強要するなんて、とんでもない悪魔を好きになってしまったとかなり後悔した。

   快楽に流されて、橘の方が力が上だからと蹴り付けなかった自分にも非がある。

   そんな事は分かっているが、納得出来なかった。

   橘と心が通った以上は、もう少し優しくレクチャーしてくれるものだとばかり思っていて、その期待をものの見事に打ち砕かれて「唖然」の一言しか浮かばない。

   そうやって内心は不満たらたらでも、歯を立てないように気を配る由宇を見下ろして微笑む橘には、由宇の不満など届きようもないが──。


「よくできました」
「………………」


   橘を気持ち良くするためではなく、濡れそぼったそれを綺麗にするべくペロペロと舐めていた由宇の髪を優しく撫でた橘が、ゆっくり腰を引いた。

   もういい、という合図なのだろうとホッとして、やっと深呼吸する事が出来た由宇だ。

   ベッドの上で胡座をかいた橘の上に、ちょこんと座らせられる。

   ありったけの文句をぶつけてやろうとしたものの、橘の無表情を見るとしばらく口なんて利きたくないという衝動に駆られた。

   鼻から抜ける橘の精液の風味はまったく消えてくれないし、それどころか喉元にはまだ彼の放ったものが張り付いているような感覚がある。


「おい、何を怒ってんだよ」
「………………」
「それがたった今愛し合った恋人にする態度か」


   ぷいと顔を背けて橘からの視線を交わし続けていると、するりと右手が伸びてきて無理やり三白眼を拝ませられる。

   これが経験値の差なのか、あんなにいやらしい事を次々としてきておいて橘は少しも恥ずかしそうではないし、悪びれてもいない。


(ムカつく……っ!)


   バスルームから続いたこの二時間ほどの間に、一生分の羞恥と困惑を味わったかもしれない。

   由宇には橘の気が知れなかった。


「……恋人だって思うんなら優しくしてよ」
「……拗ねてんのか」
「拗ねてない!  めちゃくちゃ怒ってる!」
「なんで怒んだよ。  訳分かんねー。  あ、これ抜くぞ」
「えっ?  え、?  ……んんっっ……!」
「すげ……こんな解れるもんなのか。  明日が楽しみなんだけど」


   まったく悪びれない橘は、由宇の体を支えて少しばかり腰を浮かせると、じわじわとコードを引っ張ってバイブを取り出し、コンドームを外した。

   それをベッド脇に置いて、油断していた由宇の中に指を二本挿入してぐちゅっと掻き回す。

   ローションと、不本意に挿れられていたバイブによって内襞は何の躊躇もなく橘の指を受け入れた。


「ぅあぁっ……!  も、やめっ……!  明日なんてないよ、もうしない!  先生意地悪だからもうやだ!」
「は?  俺まだ挿れてねーのにそういう事言う?」


   くちゅ、と音を立てて指を引き抜いた橘は、ローションでぬるぬるになった指先を見てニヤついた。

   この悪魔は、どこまで由宇を狼狽させれば気が済むのだろう。


「お、俺のお尻にはもう何も挿れさせない!」
「何言ってんだ、気持ち良かっただろ。  お前何回イった?  三回?  四回?  腹ベトベトにしてんのは誰だよ」
「~~っっうるさいっ」
「さーて。  風呂入って寝るか」
「切り替え早いよ!  俺の気持ち……もうちょっと考えてくれたって……っ」
「分かった分かった、喚くなよ。  由宇」
「……!  卑怯者ーーっっ!」


   意地悪な悪魔に抱き上げられて、耳元で甘く名前を呼ばれただけで頬を染めてしまう由宇に、はなから勝ち目など無かった。



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