4 / 13
世界は残り、三秒半
第四話
しおりを挟む感動的な再会……とはならなかった。
目覚めて間もない俺に、これからの事を矢継ぎ早に説明してくる異国の男。
ブロンドの髪をキラキラさせ、難しい顔で俺を見詰める紳士は記憶とは程遠い。
一緒に鬼ごっこしたり、俺に有利なかくれんぼをしたり、水風船をぶつけ合ってびしょ濡れになったり、子どもらしい遊びをした思い出が一瞬にして過去の遺物となった。
なぜなら──。
「ユーリ、聞いてるのか」
「んえ? いや、ごめん。全然聞いてなかった」
「はぁ……」
面影は、この髪色とエメラルドグリーンの美しい瞳だけ。
親しげに「ユーリ」と呼んでくる紳士は、どこからどう見てもアルファ様のオーラを漂わせながら「リアム」と名乗った。
まるで同い年には見えない、横顔でさえセクシーな誰の目にも上質ないい男に成長したリアムは、子どものまま止まってる俺の記憶とは重ならない。
何度も苦しそうに重たい溜め息を吐く男から、「ユーリ」と呼ばれる違和感ったらなかった。
「致し方ないか。ユーリ、あそこに囚われて何年経った?」
「んー、多分一年くらい」
俺の返事に、「そうか」とまた濃い溜め息を吐く。
変声期前のリアムしか知らない俺は、成長しきった体躯に目を奪われ、落ち着いた低い声に心がキュンとした。
ふと右手を取られて、握り締められる。
俺の倍はありそうな大きな掌も、以前はこんなに男らしくなかった。
「すまなかった。 もっと早く救い出したかったんだがな、このご時世だ。飛行機がなかなか手に入らず動きようがなかったんだ」
「……うん?」
「時間がない。とにかく乗ってくれ」
「おぉ……! ほんとに飛行機で迎えに……」
「ユーリ、急げ」
やっぱり、あの時の約束を覚えててくれたのか。
喜び勇んでリアムを見上げた俺の言葉は、俺の腰を抱いたリアムに遮られてしまう。
よくよく見回してみると、ここは廃れた飛行場だった。
遠くに見えるフェンスはボロボロで、伸びきった雑草は枯れる寸前、辺りも何だかジメジメしていて気味が悪く、ヒトの姿が全くない。
いつかの飛行場とは雲泥の差だ。
その中央でエンジン音を轟かせている、あまり豪華とは呼べない小型のそれに、俺はリアムに抱えられるようにして乗り込んだ。
ずっと狭くて暗い牢獄に閉じ込められて、少しでも動いたら見張り人が飛んでくるような生活をしてたんだ。
走る事はおろか歩く事もままならず、立ってるのでやっとなのに急げと言われても体がフラついてどうしようもない。
「乗り心地は悪いが、手っ取り早い移動手段が今はこれしか無い。少しだけ我慢してくれ」
互いの声も聞き取れないほどの轟音により、リアムは俺の耳元で流暢な俺の母国語を操った。
乗り込んだ飛行機の椅子は、確かに直にその振動が響くほど硬い。
でも今はそんな事はどうでも良くて、俺が知りたいのは、なぜリアムが俺をあそこから救い出してくれたのか。これからどこに向かうのか、だ。
さっきリアムが一生懸命説明してくれてたのは、きっとその事なんだろうけど……目覚めてすぐの俺にこの状況を把握しろって、到底無理な話だよ。
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡
濃子
BL
ぼくの初恋はいつまでたっても終わらないーー。
瀬戸実律(みのり)、大学1年生の冬……。ぼくにはずっと恋をしているひとがいる。そのひとは、生まれたときから家が隣りで、家族ぐるみの付き合いをしてきた4つ年上の成瀬景(けい)君。
景君や家族を失望させたくないから、ぼくの気持ちは隠しておくって決めている……。
でも、ある日、ぼくの気持ちが景君の弟の光(ひかる)にバレてしまって、黙っている代わりに、光がある条件をだしてきたんだーー。
※※✖✖✖には何が入るのかーー?季節に合うようなしっとりしたお話が書きたかったのですが、どうでしょうか?感想をいただけたら、超うれしいです。
※挿絵にAI画像を使用していますが、あくまでイメージです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる