世界は残り、三秒半

須藤慎弥

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世界は残り、三秒半

第四話

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 感動的な再会……とはならなかった。
 目覚めて間もない俺に、これからの事を矢継ぎ早に説明してくる異国の男。
 ブロンドの髪をキラキラさせ、難しい顔で俺を見詰める紳士は記憶とは程遠い。

 一緒に鬼ごっこしたり、俺に有利なかくれんぼをしたり、水風船をぶつけ合ってびしょ濡れになったり、子どもらしい遊びをした思い出が一瞬にして過去の遺物となった。
 なぜなら──。

「ユーリ、聞いてるのか」
「んえ? いや、ごめん。全然聞いてなかった」
「はぁ……」

 面影は、この髪色とエメラルドグリーンの美しい瞳だけ。
 親しげに「ユーリ」と呼んでくる紳士は、どこからどう見てもアルファ様のオーラを漂わせながら「リアム」と名乗った。
 まるで同い年には見えない、横顔でさえセクシーな誰の目にも上質ないい男に成長したリアムは、子どものまま止まってる俺の記憶とは重ならない。
 何度も苦しそうに重たい溜め息を吐く男から、「ユーリ」と呼ばれる違和感ったらなかった。

「致し方ないか。ユーリ、あそこに囚われて何年経った?」
「んー、多分一年くらい」

 俺の返事に、「そうか」とまた濃い溜め息を吐く。
 変声期前のリアムしか知らない俺は、成長しきった体躯に目を奪われ、落ち着いた低い声に心がキュンとした。
 ふと右手を取られて、握り締められる。
 俺の倍はありそうな大きな掌も、以前はこんなに男らしくなかった。

「すまなかった。 もっと早く救い出したかったんだがな、このご時世だ。飛行機がなかなか手に入らず動きようがなかったんだ」
「……うん?」
「時間がない。とにかく乗ってくれ」
「おぉ……! ほんとに飛行機で迎えに……」
「ユーリ、急げ」

 やっぱり、あの時の約束を覚えててくれたのか。
 喜び勇んでリアムを見上げた俺の言葉は、俺の腰を抱いたリアムに遮られてしまう。

 よくよく見回してみると、ここは廃れた飛行場だった。
 遠くに見えるフェンスはボロボロで、伸びきった雑草は枯れる寸前、辺りも何だかジメジメしていて気味が悪く、ヒトの姿が全くない。
 いつかの飛行場とは雲泥の差だ。

 その中央でエンジン音を轟かせている、あまり豪華とは呼べない小型のそれに、俺はリアムに抱えられるようにして乗り込んだ。
 ずっと狭くて暗い牢獄に閉じ込められて、少しでも動いたら見張り人が飛んでくるような生活をしてたんだ。
 走る事はおろか歩く事もままならず、立ってるのでやっとなのに急げと言われても体がフラついてどうしようもない。

「乗り心地は悪いが、手っ取り早い移動手段が今はこれしか無い。少しだけ我慢してくれ」

 互いの声も聞き取れないほどの轟音により、リアムは俺の耳元で流暢な俺の母国語を操った。
 乗り込んだ飛行機の椅子は、確かに直にその振動が響くほど硬い。
 でも今はそんな事はどうでも良くて、俺が知りたいのは、なぜリアムが俺をあそこから救い出してくれたのか。これからどこに向かうのか、だ。
 さっきリアムが一生懸命説明してくれてたのは、きっとその事なんだろうけど……目覚めてすぐの俺にこの状況を把握しろって、到底無理な話だよ。




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