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世界は残り、三秒半
第六話
しおりを挟む止めに行く……? 止めに行くって、そんな事が出来るのか?
ていうかそもそも、終末時計がどこにどんな形で存在してるか、リアムは知ってるっていうの?
その針を止めたところで、争いが終わらない限り根絶やしにはならないんじゃないの?
「祖父と父が各国と情報共有をした結果、間もなく戦争は継続出来なくなると見てるんだ」
「そんな事、分かんないじゃん」
「今言っただろ? 最前線で戦っているのは百%がベータ性の者達だ。私達協力国のベータ性の者達も、いつ自分が最前線に立たされるか分からない状況下で精神的に追い詰められ、自害するものがあとを絶たない。そうなると争い自体が物理的に不可能になる」
「…………」
「貧困国はすでに巻き添えを食って国としての機能を失っている。争いに直接関与していない国の人口も減り続け、経済も何もあったものじゃない。こんな事が続けば本当に地球は終わってしまう」
俺が心の中で思っていた疑問なんて、リアムも当然調べ尽くしていた。
だからっていちいち耳に口付けて喋ってくるのやめてほしい。
こんな大事な時に、あの時の思い出が蘇ってきて無性にドキドキする。
「で、でも、終末時計の針を止めても、現実で起こってることは止められないんじゃない?」
「……一縷の望みに賭けている」
「一縷の望み……?」
どうやってこの、世界規模で最悪な事態を止めるって言うんだ。
リアムはすんごいお金持ちで、お爺ちゃんとお父さんも情報通だって事は分かったけど、だからって世界を救うヒーローになんてなれっこないだろ。
戦争なんて何千人……いや何万人ものヒトが関わってる。
そのトップには、カースト上位のアルファ様が机上で無情な指示を出してる。
そんなのどう考えても……。
「ユーリ、お前は神の存在を信じるか?」
「え?」
「神の存在証明は四種とも理にかなう。よって、私は神は存在していると信じている」
「う、うん、宗教にとやかく言うつもりはないよ。俺にはよく分かんないし」
「フッ……可愛いな」
「えっ? ちょっ、リアム……!」
今のどこに可愛い要素あった!?
耳に口付けていたリアムの唇が、異国の紳士らしく俺のほっぺたやおでこに、あの頃みたいにいくつもキスを落としてきた。
ガタガタと揺れる飛行機の硬い椅子の上で、気持ちばかりのシートベルトが腰に回ってる状況で狼狽えても、ただジッと胸をドキドキさせて瞳を瞑ってる事しか出来ない。
リアムが別人のようになって戻って来たんだ。
こんな事をされると、恥ずかしくてかなわなかった。
「昔とちっとも変わらないな、ユーリ。とても綺麗になっていたから驚いたよ」
「リアム! そんなに顔を近付けないでくれ!」
この飛行機がオンボロで良かった。
顔が熱くてしょうがない上に、リアムの強引な腕が鼓動を激しくさせる。
世界には色んな国があって、その国内にも様々な宗教があるって事くらいしか分からない。神を信じるかと聞かれても、「分かんない」としか言えないのは俺が単に無知なだけだ。
無神論者ってわけでも、「可愛い」わけでもない。
「昔から、その少し馬鹿なところが可愛かった。草木や花や虫……命すべてを無邪気に愛でていたよな。鼻水を垂らしながら」
「そ、そんな事は覚えてなくていい!」
異国の色男にクスッと笑われて、顔面が熱くなる。
花を咲かせたかった思い出話というより、それは消したい恥ずかしい過去だ。
俺はとても綺麗な思い出だけ覚えてるっていうのに、リアムの中の俺は「鼻水を垂らした馬鹿な子」だったなんてショック過ぎる。
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