世界は残り、三秒半

須藤慎弥

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世界は残り、三秒半

第九話

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 キスの余韻冷めないまま、俺とリアムはグレッグの操縦する轟音飛行機に乗り込んで再度飛び立った。

 正式な航路だと、本当は俺の祖国からリアムの目的地まで五、六時間もあれば行けたらしいが、争い真っ只中な国の上空は飛べないから遠回りしてるのだそうだ。
 会話らしい会話もそこそこに、三時間ほど薄暗い空を飛んで二つ目のチェックポイントに到着するも、さっきとあまり変わらない光景に息を呑んだ。

 ただここには建物がいくつかあった。
 以前は三階建てだったと思しき場所に案内された俺は、崩れかけた天井を見上げる。

「なぁリアム。終末時計ってどこにあるんだ?」

 コンクリートの破片を避けながら、てのひらサイズの電子機器を操る長身のリアムに寄って行く。
 あとどれくらいあの轟音飛行機で移動するのか、気になったんだ。

 思わず見惚れるほどの立ち姿にドキドキしていると、しばらく機器の方にあったエメラルドグリーンの瞳が急に俺を射抜く。

「終末時計はここから一時間ほど飛んだ先の山頂だ。正確には、山頂よりもさらに高い位置で浮いている」
「う、浮いてるって!? ど、どうやって?」
「さぁ?」
「さぁ!?」
「写真撮ったんだ。見てみるか」
「浮いてるのにどうやって撮ったんだよ!」

 にわかには信じ難い話だ。
 物体を浮遊させ続ける動力は地球には存在しないし、ヒトがそんなエネルギーを開発してたら世界規模のニュースになるよ。
 馬鹿な俺でもそれくらい知ってるぞ。
 とても信じられないと眉を顰める俺に、ささっと機器を操作したリアムが見せてくれたのは一見作り物めいた前述のそれだった。

「ほ、ほんとだ……浮いてる! これが終末時計……」
「神の創造物だと信じた私の気持ちが分かるだろ」

 ……分かる。 これは信じる。
 宙に浮かぶそれは、俺もよく知る時計に似てるがどこか異様だった。
 数字の代わりに丸い点が九つあって、針は一本しか無い。
 何より不気味なのは、色味がよく分からないところ。点と針はくっきり写ってるのに、それ以外は半透明で向こう側の雲が透けていた。
 勝手に動いてるとされる針は、この写真では確かにてっぺんの丸い点の少し左を指していて全身に鳥肌が立った。

 誰も見た事のない、明らかに宙に浮いた終末時計の現物をとらえたリアムは一体何者なんだろう。
 てのひらサイズのこれも、最新の携帯電話かと思ったらそうじゃない。タブレット端末をギュッと小さくしたような、少なくとも俺は見た事のないハイテク機器だ。

 再度その機器に視線を落としたリアムは、俺の頬をひと撫でして不意打ちのドキドキを仕掛けてくる。

「終末時計の残秒数に変動があれば、すぐに私のコレに情報が送られるようになっている。父の会社とも連携を取り、随時監視を……おっと、まずいな」
「え、どうしたの」
「数分前に変動があった」



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