恋というものは

須藤慎弥

文字の大きさ
73 / 139
◆ 好きな人 ◆ ─潤─

第七十三話※

しおりを挟む



 潤が全身を洗い終わってようやく、天がおずおずと浴室内に入ってきた。

 羞恥と戦っていたせいか先程よりも濃厚なフェロモンを漂わせ、顔を真っ赤にした天は大事なところをタオルで隠しているのだが、潤は目のやり場に困った。


「遅かった、ね……」
「……友達と風呂入るなんてした事ないし……。 これでも勇気出したんだからな」
「そ、そっか」


 全裸を晒した潤同様、天の生まれたままの姿を見たのは初めてだ。

 こんなに色が白かったのか。

 こんなに華奢だったのか。

 隠すべきは上半身にもあり、ピンク色の二つのそれがフェロモンも相まって潤を激しく誘惑してくる。

 潤はどこに視線をやっていいか分からず、とりあえず天の手を取って後ろ向きにさせた。

 うなじは見ないようにして、ふわりと後ろから抱き締める。

 ───滑らかな肌だった。 ずっと撫で回していたいと、今の潤にはとてつもなく贅沢な欲求が湧いた。

 きちんと "危険な予防" をしている潤が、これはマズかったかもしれないと己の好奇心に歯噛みしたくなるほど、天の裸に欲情した。


「天くん、……綺麗だね」
「え、っ?」
「あ……ごめん。 深い意味は無いよ。 うん、……綺麗な肌してるねって言いたかった」
「えぇっ、男にそんな事……っ」
「キスしたい」
「へっ!? いやちょっと待っ……、マジでここで!?」
「……だってもう……フェロモンすごいんだもん……」


 色々な意味で堪えきれなくなった潤は、振り返ってきた天の顎を取った。 顔を傾けると、それだけで天の目蓋がキスの了承を伝えてくれる。

 そっと唇をあて、何度か方向を変えて柔らかな子ども染みたキスをした。

 触れるだけ。 触れるだけ。

 潤は天の唇をささやかに堪能しながら、一生懸命、理性に言い聞かせた。

 華奢な体が狼狽え始め、足をもぞもぞとクロスさせたのを合図に天の中心部へと手を伸ばす。

 我慢強くない掌が、胸の突起に触れたいと指先をソワソワさせたけれど、ほんの少しの差で理性が上回った。

 天の色付いたうなじから、興奮を知らせるフェロモンが大量に放出されていてまともに目を開けていられない。

 それを止める術は、どういう理屈なのか天が絶頂を迎えるしかなく、───。


「天くん……気持ちいい?」
「……ん、……んっ……」
「中は? 触っていい?」
「う、……っ、ごめ、……あの……っ、こわいんだ……なか、……」
「怖くないよ。 大丈夫」
「あっ……潤くん、……っ」


 背後から天の体を支え、ヒクつく孔に指先でちょんと触れてみる。

 ビクッと全身を震わせながらも、潤の侵入をまったく拒まない天の秘部。 くぷっと指先を挿れてしまうと、そこはすでにしっとりと濡れていて温かかった。

 左手では性器を扱き、右手の中指は恍惚の最中。

 腕だけで支えられる天の華奢さにも、あらゆる薬剤の入った身体さえ脅かすフェロモンにも、奥から湧き出す彼の愛液にも、潤は耐えなくてはならない。

 男性のΩ性である天がこれまで自慰もまともにしなかったのは、この男性らしからぬ欲情の証を受け入れられなかったからなのだと、昨晩触れてみてすぐに分かった。

 天自身も未開の地に、潤が踏み込んでいる事がさらなる興奮を煽る。


「中……熱いね」
「ぁっ……っ……潤、くん……っ」
「なーに?」
「あっ、……あっ、……やば、……潤くんっ」
「……天くん、声抑えないと」
「う、ん……ごめん……っ」


 潤の好奇心と性欲のせいでこうなっているのに、天は自らの失態だとばかりに慌てて掌で口元を覆った。

 建前上は繋がるためでなく射精を促すための行為なので、自身の膨張は無視して天の欲情を最優先に考える。

 中指をやや回して押し拓きつつ、前立腺を探した。 昨日の今日では、この手の事に経験の無い潤では感覚がまだおぼつかない。

 それが天にとっては掻き回されているように感じるらしく、奥からどんどんと温かな液が湧いてくる。

 指先の滑りが良くなるごとに甘やかな声も浴室内に反響して届き、潤の忍耐は今にも壊れそうだった。

 隣近所にこの声を聞かせる事も嫌だが、何よりも潤の性器に響くのだ。

 嬌声を生み出している事は素直に嬉しい。 けれどそれと同時に「これ以上煽らないで」と内心で懇願してしまうのは、まだ理性が残っている証拠でもあった。

 潤は、少しでも天の羞恥心が消えるよう、水量の弱いシャワーを出しっぱなしにした。

 先走りが性器を滑らせ、扱いているとくちゅくちゅと擦れる音が浴室内に響き、天が恥ずかしそうに耳を塞いでいたからだ。


「潤くん、……っ、潤くんも、勃って……?」


 掌で口元を塞いだ天が、振り返ってきた。

 濡れた瞳と視線が合うとたまらなくなり、耳に口付けながら潤は苦々しく吐露する。


「当たり前でしょ。 こうして……中ぐちゅぐちゅしてて興奮しない男は居ないよ」
「あぁっ……ンッ……んっ……んぁぁ……」
「天くんは男の子だから、……ここ、気持ちいいね?」
「あぅぅ……そ、それ、なに……っ? 何して……っ?」


 ようやく探り当てた、中のわずかな膨らみ。

 擦ってみると天の膝が崩れかけ、必死に声を殺していた唇がだらしなく緩んだ。


「おっと……、立てなくなっちゃうほどいいの? もっと擦ってあげるね」
「んやっ……やっ……やだ、っ……こわい、気持ちいいの、こわい……!」
「怖くないよ、天くん。 ここが気持ちいいのも、感じちゃうのも、普通の事なんだからね」
「潤くん……っ、……だめ、だ……も、……っ」


 崩れ落ちそうな体をしっかりと抱き留めて、中を重点的に刺激して射精を促した。

 濃厚なフェロモンは潤の体を覆い尽くすようにして放出されていて、意識なく後ろ髪から覗く桃色のうなじに吸い寄せられる。

 ダメだ、ダメ、───。

 今噛んでしまったら、天に嫌われる。

  "二番目" でも居させてもらえなくなる。


「天くん、……イって。 お願い、……早く……」
「ん、……ッ、んんん……ッ!」


 潤に指先を突き立てられた天は、全身をぷるぷると震わせて脱力した。

 中がギチギチと激しい収縮を繰り返す。 そのキツい締め付けが心地良くて、なかなか指を抜く事が出来なかった。

 湿った床に放たれた精液はお湯と共に流れていき、それをぼんやり眺めていた潤はくたりとなった性器に触れてみる。


「……気持ち良かった?」
「……ん、……っ」


 問うと素直に頷く天が、愛おしくてたまらなかった。

 フェロモンは余韻を残し、潤によって翻弄された天の息遣いが心を揺さぶる。


 ───天が欲しい。
 天の心も、体も、欲しい。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

青い炎

瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。 もともと叶うことのない想いだった。 にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。 これからもこの想いを燻らせていくのだろう。 仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。

愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜

立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時 いつの間にかクラスメイトたちの 配信する動画に映りこんでいて 「誰このエンジェル?」と周りで 話題になっていた。 そして優心は 一方的に嫌っている 永瀬翔(ながせかける)を 含むグループとなぜか一緒に 動画配信をすることに。 ✩.*˚ 「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」 「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」  そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。 見た目エンジェル 強気受け 羽月優心(はづきゆうしん) 高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。 × イケメンスパダリ地方アイドル 溺愛攻め 永瀬翔(ながせかける) 優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。 恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸 *** お読みくださりありがとうございます 可愛い両片思いのお話です✨ 表紙イラストは ミカスケさまのフリーイラストを お借りいたしました ✨更新追ってくださりありがとうございました クリスマス完結間に合いました🎅🎄

処理中です...