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◆ 潤の性別 ◆
第九十話※
しおりを挟む互いに惑わすフェロモンを放ち、抱き合って触れた肌がしっとりと汗ばんだ。
二度目の絶頂を迎えさせようと、潤が執拗に天の内襞を弄る。
気付いてしまった潤の香りを嗅ぎ続けた天は、彼からのフェロモンによって脳内が薄いピンク色に塗れていた。
「潤くん……っ、だめ、俺……イきそ……っ」
「うん。 指ちぎられそう」
何分か前に性感帯に加わった乳首を、潤は美味しそうに舐めている。 腰を揺らめかせ、潤の肩をギリッと握った天は彼の指も同時に締め付けていた。
内襞に伝わる、潤の蠢き。
瞳を瞑ると、よりその感覚がリアルだった。
「指がふやけてきた」といやらしい発言をされて頬を染めた天が、はたと気付いて潤の顎を取る。
「あっ、……ねぇ、潤くんも、……一緒に……」
「一緒に、なに?」
「イこ……? 潤くんも、……」
「一緒がいい?」
「……う、んっ……んっ、はやく、っ……俺もう……っ」
挿れられないと言うなら、せめてこの快感を共有したかった。
潤はいつも、天に気を使ってひとり寂しく処理している。 せっかく気持ちが通ったのだから、今日までそんな事はさせられない。
真っ赤になった天の頬にキスをした潤が、とても言いにくそうに唇を窄め、我慢が窺える片目を細めた。
「天くん。 僕の……握れる?」
「え……触っていいのっ?」
「いいけど、そんなに期待されると恥ずかしい……」
「き、期待はしてない! 大丈夫!」
「それはそれでショックだな……」
「潤くん、ベルト外すから少し離れて。 指は入れたまんまでもいいけどジッとしててほしい」
「離れたくない。 指も動かしてたい」
これが好きな人から発せられたのでなければ、ただただ怖い台詞である。
自らの性器をΩ性特有のサイズだと自覚している天にとって、α性である潤の性器がどんなものなのか、興味と期待しかない。
同じ男として愕然となるサイズ感なのは、風呂場で腰に押し付けられた感触で何となく分かっている。
まだ実物を拝んだ事のないそれに触れ、今まで我慢してきた潤を天自らが気持ちよくしてあげられるとは、興奮以外の何ものも湧かない。
「でもそれじゃ握れないもん。 早く早く」
「天くん……その土壇場で積極的になるの何なの? 僕、天くんに触られたらすぐイっちゃうかもしれないから、恥ずかしくなってきたよ……」
「俺なんてずっと潤くんの指が入ってるんだぞっ。 真っ裸でマフラー巻かれてるし! 俺の方が恥ずかしいよっ」
「……分かった」
離れたくないと体を寄せていたはずの潤は、あっさりと天の羞恥が上回る件について納得した。
そろりと僅かに天から離れた潤の腰辺りを、感覚だけを頼りに掌で探る。
ベルトを探し当て、カチャカチャと軽い金属音が聞こえてくると、なんてはしたない行為をしているのだろうと頭の片隅が嘲笑していた。
おずおずと潤の膨らんだ下着をズラす天には、そんな嘲笑などあっても気にならない。
左手を伸ばして握ってみたそれが、あまりにも規格外だったからだ。
「……すご……おっきい……」
「ちょ、やめてよ、恥ずかしいよ。 そんなに見ようとしないで。 指動かしちゃうよ?」
「ぁんっ……も、もうっ、潤くん!」
思わず上体を起こそうとした天の襞をぐちぐちと擦られ、あえなく仰向けに舞い戻る。
実物を見る事は叶わなかったが、天が性器に触れるや本当に質量が増したのは、彼の言うように余裕が無い証拠だ。
性欲とは無縁そうな綺麗な顔立ちからは想像も出来ない、立派としか言い様がないものを潤は持っている。
力の加減が分からず、とりあえず掌で握って上下に動かしてみた。
すごい……と漏らす天の声と、潤の吐息が混ざり合う。
「おっきい……っ」
「……天くんの手、あったかい……」
「に、握ってるだけじゃ気持ちよくないよな? 下手くそだけど、このまま扱いていい?」
「……っ……、天くん……っ……」
「一緒にイけるかな? ……イきたいな」
「僕も指、動かすね。 一緒にイこうね」
「んんっ、……んっ……」
自慰の経験さえ少ない天が、たどたどしく掌を上下させて潤の快感を引き出そうと頑張った。
しかし、潤が気持ちいいと思う場所が分からない。
甘い吐息とフェロモンの香り、微かな性器の反応で少しずつ昂ぶらせていくしかない行為が、焦らしになっていないか心配になってきた。
するとふと、両手が塞がっている潤が右足を上げ、天の腰を持ち上げる。 横向きにされた天はというと、性器を扱きやすくなった事で夢中になって掌を動かした。
「……っ、天くん、上手だよ。 両手使って、天くんのと僕のを合わせて握ってみて」
「う、ん……っ」
「わぁ、あったかい……。 ピクピクしてるの伝わるね」
「ん、ん、……っ、気持ちいい、かも……っ」
「かも、じゃないよ。 気持ちいいの」
「うん、……! ……気持ちいいっ」
指先で秘部を犯される天の腰が震えていた。
両手を使い、大きさのまるで違う性器を握った天は、二人を拙く絶頂へと駆け上がらせる。
互いの先走りで掌は滑った。
愛液で満たされた孔は難無く潤の指先を迎え入れている。
第一関節を曲げて前立腺を押される度に、扱く手が止む。 背中をしならせるほどの強い快感と、男性的な二つの性器を握った天の思考が再び虚ろになってきた。
だがそれは、挿入をひたすらに我慢している潤も同じだ。
「天くん、……僕もうイきそう……」
「お、れも……っ、」
「……はぁ、……挿れたい……」
「…………っっ」
「天くんのなかに入りたい……」
「……っ、潤くん、……っ」
「次はちゃんと準備しとくから。 ……こんなの……苦行だ……」
「あ、っ……潤くん……っ、潤くん、!」
「天くん、僕のこと好き? 一番?」
「ん、一番……っ、一番に好き……!」
「…………っ」
「あ、っ……や、ぁあ────っ!」
腹に散った二人の精液で、芳しいフェロモンの香りは一瞬にして生々しい匂いへと変わる。
確かに潤の精液は、多かった。
二度目の射精である天の二倍以上はあった。
これを何分もかけて内側に注がれると、発情期間を選べばあっという間に新しい命が宿るだろう。
呼吸もままならないうちからキスをねだられて応えた天は、真っ白な頭の中で、この期に及んでもまだこんな事を思っていた。
"挿れて良かったのに"
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