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◆ 初体験 ◆※
第百三話※
しおりを挟む触れ合う場所すべてが熱く、のぼせたように頬を上気させた天があまりにも汗をかき始めたので、潤は暖房を消した。
みっちりと内壁に収まった性器の感触はもはや分からない。
自らのものとはかけ離れた質量のそれを、時間をかけてゆっくり挿入してくれ、「全部入ったよ」と囁かれた後はしばらく動かないでいてくれただけでもありがたいと思った。
「ん、むっ……」
浅く呼吸をする、天の薄く開いた唇から潤の温かな舌が滑り込んでくる。
ぺちゃ、と唾液の交わる音にも、羞恥を感じなくなった。 このキスで天の意識はたちまち飛び始める。
潤のフェロモンを間近に嗅ぎ、こっそりと腰を動かして性器を挿抜されている事にも気付けないほど、頭の中は真っ白だった。
とにかく熱くて、苦しくて、潤の背中や二の腕にしがみついてもすぐに力尽きる。
あまり見えなくなったボヤケた視界の向こうには、いつからか微笑む余裕のない潤が居た。
「潤、くん……っ、くるひぃ……」
「苦しい? どこが?」
「おなか、……! おなか、くるひ……っ」
「お腹苦しいの?」
「ん、ぅん……っ」
「奥、突いたら、もっと、苦しく、なっちゃうかな?」
「あっ、あっ、あっ、あぅっ、ぅんぁっ!」
言いながら、天の背中ごと抱き締めた潤がぐんっと腰を突き上げる。 中を抉られるごとに、ぐちゅ、ぐちゅ、と絶え間なく溢れる愛液が淫らな音を立てた。
抱え上げられた左足がぷらぷらと宙を泳ぐ。
時折気まぐれに触れられては白濁液を飛ばし、腹の上は天の放ったそれと汗が混ざり合ってシーツに垂れ落ちた。
潤は普段の穏やかな表情とはかけ離れた、欲にまみれた男の顔をしている。
ぐぐっと性器を突き入れられた天は、自らも知らないところまで体を拓かれたせいで嬌声もあげられない。
「すごいな。 分かるもんだね、奥」
「ひぇ……っ?」
「気持ちいい? 天くん、どう? 苦しいだけ?」
「ん、んっ、んっ……っ、わかんな……ぃっ……潤くん、おれ、……っ」
「ベロどこ行ったの」
「んむっ……!」
舌っ足らずな天を、潤が愛おしげに眺めた。
胸の突起を弄られ、ぺろっと悪戯に舐められた後に唇を甘噛みされる。
天は、舌を吸われて食まれるのが好きだ。 今日が初めてなので詳しい事は知らないけれど、キスにも種類があるのだと同じく初体験らしい潤から無言で教わった。
性器を挿抜している合間に上顎を舐められると、それだけで背中から震えが走るほど気持ちがいい。
「もっと上手くなりたいから、これからいっぱいちゅーさせてね、天くん」
「はぅっ……ぅぅ……っ」
「……天くん?」
「いま、したい……いっぱい、……いっぱいちゅーしよ」
「え、……っ」
目の前で妖しく微笑む潤の後頭部を抱き締めた天は、自らキスを催促した。
離れているのが惜しい。
繋がった場所以外で、潤を感じられる唇と舌が天の想いを膨らませている。
広い背中を抱き寄せ、たどたどしく撫でながら、汗ばんだ素肌がもっと密着するように腕に力を込めた。
呼吸さえ惜しいと、天の方から舌を差し出した。
セックスが初めてである天は、そのほとんどが無意識だった。
自らの性別が嫌だ、恋人も番も要らないと豪語していた天の求愛に、潤は苦笑を漏らす。
「これがΩちゃんなのか……」
「潤くん……っ、もっと、ぎゅーしろっ」
「えぇっ? もう、……っ」
「あ、っ……うごくのは……ぁあっ……はんそく!」
「そんなに甘えてくれるとは思わなかったんだもん。 我慢出来ないよ」
甘やかな吐息を零す潤は力いっぱい天の体を抱き締め、想いを込めて「好きだよ」と囁いた。
突如耳を犯された天は、キスの余韻と内側を抉られた快感の波に襲われ、逞しい腕に爪を立てる。
「可愛いね、天くん。 エッチな天くん、とっても可愛い。 大好き」
「ん、っ……んっ……すき、っ? 潤くん、っ……おれのこと、……すきっ?」
「うん、大好き。 大好きだよ」
「ふぁ……っ、すきーっ」
「………天くんの方が反則だってば……」
困り果てた潤の呟きごと、すぐに力尽きる事が分かっていながら再度広い背中を抱いた。
恋しかった潤の匂いがたまらない。
視線も、声も、腕も、「好き」の言葉も、電話越しとはまったく深みが違う。
貫かれて全身が火照りきった天は、無我夢中で潤の動きに任せる事しか出来なかったが、潤が気持ち良さそうなのでそれだけで心が満たされた。
絶え間なく腰を動かす潤に向かって、揺れながら腕を伸ばす。
その腕を、潤は必ず掴んでくれる。
そして───。
「天くん、目を開けて。 僕のここ噛んでほしいんだけど」
動きを止めた潤が、自身の鎖骨に浮かび上がったしるしを指差した。
「なん、っ? なんれ? いやだ……っ」
「ごめん、僕……噛みたい」
「んん……っ、はむ、? なんれはむっ?」
「噛ませて」
「んやっ……らめっ! はんだら……潤、くん……、おれとしか、できなくなるよ……!」
虚ろだった脳が直ちにそれを拒んだ。
あれほど「天くんを傷付けたくない」と言っていた潤が、絶頂が近くなると次第に瞳を据わらせて手付きが荒くなり、しきりに天の首筋に顔を埋めていた。
天にもそれを強要した、α性のオーラを滲ませる潤の視線が怖い。
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