16 / 206
七海さんは魔性の男 ─和彦─
1
しおりを挟む● ● ●
僕、佐倉和彦は、一流企業と謳われるSAKURA産業株式会社の跡取り息子だ。
ちなみに三代目。
国内外に取引先を持つ、扱う品は日用品から電化製品、細かなもので言うと文房具や雑貨、宝飾アクセサリーまで手広く扱う有名グループ企業のトップ。
そんな実家は一般的な家庭とは言い難い、控え目に見てもお金持ちな家柄で、僕は悠々自適に順風満帆な日々を過ごしてきた。
特に頑張らなくても勉強もよく出来たし、おまけに外見にも恵まれている。
何の弊害もなく、心を掻き乱される事もないまま現在に至っているけど、恵まれている自覚があるからお金持ち故の不満なんて何一つない。
肩書きに箔が付くからという名目だけでこの大学に入って約二年、僕は卒業までなるべく正体を知られたくなくてマスクと眼鏡で容姿を隠し、……自身の過去を内に秘め毎日をひっそりと過ごしていた。
そんなある日のお昼時、僕の正体を知る先輩に見せられた一枚の写真。
それには、一見何の変哲もない、飲み会ではしゃぐ今時の若者達の姿が写っていた。
これは……男五人、女五人のコンパ?かな。
「占部さん、これが何なの?」
「佐倉和彦、お前は合コンってものを知ってるか」
「もちろん。行った事はないけど、名前くらいは聞いた事あるよ」
「和彦はお坊ちゃんだからこんな安い居酒屋なんて経験ないだろう」
「あー……まぁ」
占部さんは、大学では先輩でありながらSAKURA産業で働く父親を持つ手前、僕に敬語を使わせる事を許してくれない。
何だか不気味な笑顔を浮かべている占部さんは、僕の肩を抱いて「行ってみないか?」と誘ってきた。
「え? 合コン、?」
「そう。今日ダチに誘われたんだよ」
「そうなんだ。僕も行っていいの?」
「いい。てか来てほしい。面白い話があってな」
「……面白い話?」
そのニヤニヤした顔は、面白い話っていうよりよくない話をしたがってるように見えるんだけど。
食堂に居た僕達の元に、占部さんの友人二人も合流した。
「おーっす、占部」
「占部、今日例の合コン行くんだって?」
「三浦、椛島、よっす! 行くぜ~和彦連れてくぜ~」
「マジで!」
「……あの……例のってどういう意味?」
訝しむ僕の前で、先輩達もニヤニヤし始めていた。
何なの? 気味が悪い。
「この男の顔よーく覚えとけよ、和彦」
そう言った占部さんにもう一度スマホの画面を見せられて、ある人物を指先で拡大した。
──あ、可愛い。
何ともナチュラルで可愛らしいその人物の容姿に、僕は釘付けになった。
でも占部さん、この子の事……。
「この人……男なの?」
「あぁ、めちゃくちゃ可愛いだろ。実物はもっと女に見えるらしいぜ」
「そうなんだ……」
こんなに可愛い男の子がいるの?
ボーイッシュな女の子……って言われても分かんないよ、これは。
「和彦、この男落とせるか」
「落とせるか? 落とせるか、って……」
「俺はなぁ、和彦。お前が裏で女を食い散らかしてんの知ってんだぞ~」
「人聞き悪いなぁ。誘われたら断らないだけだよ」
……僕の性生活はどうでもいいでしょ。
男なんだからセックス好きに違いはないけど、食い散らかしてるって表現はよくない。
二十歳になったばかりで飲みに行く事も少ないし、出会うのは会社関係のパーティーで知り合う年上の女性ばかりだ。
決して付き合いを迫ってこない、一夜限りの大人のセックスが僕は気に入っているだけ。
「それそれ! この男も、誘われたら断らないらしいんだ。仲間だな!」
「えぇ? 誘われたら断らないって、この子、周りの女の子達より可愛いのに女の子から誘われるの?」
「違うって。合コンで女探しに来たはずの男が、この男にメロメロになるそうだ」
「男が男にメロメロ……?」
よく分からない。
首を傾げる僕の隣で、占部さんのニヤニヤはさらに強みを増す。
「すげぇよな。この男をお持ち帰りした男に聞いてみたら、「あいつは魔性の男だ」って言ってたんだぜ。っつー事は悪魔だな。メロメロにしといて一切付き合わないって悪魔だろ」
「悪魔? 魔性の男? ど、どういう事? 男なんだから、付き合わないのは当然でしょ?」
「そいつ、今でも忘れられないって言ってたんだ。普通に女が好きだったのに、あいつだけは……みたいな?」
「そ、そんなに? 見た目だけでそんなにメロメロになるもんかなぁ? 男でしょ?」
「だろ! 俺もそこがめちゃめちゃ気になってんだよ。ものすげぇテク持ってるのかも。今日の合コンにこいつも来るらしいから、百戦錬磨の和彦が接触してみてほしいんだ。落とせるもんなら落としてみてよ」
「そんな……ゲームみたいに……」
占部さんの言いたい事がようやく分かった。
この可愛らしい男と接するとどんな男でも何故かメロメロになっちゃうらしいって噂を、僕で試してみてほしいんだ。
メロメロにするわりには付き合わないって、相当な強者だと思うけど……男同士が付き合うというのも僕には考えられないから、分からない話でもない。
それにしても……うーん……この子が悪魔?
とてもそんな風には見えない。
でも人は見かけによらないって言うしね。
女性しか相手にしてきてない僕が落とせるかは分からないけど、ちょっとだけ興味はある。
この子は男が好きなのかな?
そんなにたくさんの男をメロメロにしてきたのなら、セックスの経験もいっぱいあるんだろうか。
悪魔。魔性の男。
……大人しそうな顔して、そんな異名を付けられるとは。
写メだけでもちょっとドキッてしたのに、実物はもっと可愛いだなんて──色んな意味で緊張してきた。
2
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる