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第3話(終)
しおりを挟む複合商業施設内にあるペットショップは、二十一時まで開いている。店内をウロウロと忙しなく見て回り、時折女性店員に話し掛けてドギマギさせながら、有馬先輩はほんの数分でもここに寄りたがる。
その帰り道、二人の気分にあった店に入ってやっと晩飯。ただこの日は二人とも疲れていたせいか、食欲があまり無かった。
駅までの薄暗い道を並んで歩いていた最中、帰り際に聞こえた台詞がチラついて複雑な心境だった俺は、ついポツリと溢してしまった。
「〝飲みに連れてってほしいな~〟」
「ん? いいけど、田中は下戸だって言ってたじゃん」
「そうですね」
「妙だな。話が噛み合わねぇ」
隣を歩く先輩が、背中を丸めて「どうした?」と心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「俺と有馬先輩が毎晩飲み歩いている、と専ら噂になっています」
「ふーん?」
「激しく興味無さそうですね」
「あるわけねぇじゃん。誰がどんなこと言ってようが俺は気にしない。でもそれで田中がイヤな思いしてたらゴメン」
それは……生き物好きでやや敬遠されているのを自覚してるって事なのか。
本人はまったく気にしていない素振りを見せていたけれど、そうではないというのが声のトーンで分かった。
いい機会だと、これまで喉まで出かかって聞けなかったことを俺は尋ねてみた。
「有馬先輩、どうしてそういう仕事に就かなかったんですか?」
「分かんねぇ」
まさかの即答に、俺の足が止まる。同時に有馬先輩も立ち止まって、即座に愛想笑いを向けてきた。
「いや、ウソウソ。本当はな、怖いんだよ」
「怖い?」
「生き物は大概が短命だろ。稀に百年単位で生きる亀、クジラ、トカゲもいる。それに寿命って概念が無いロブスターなんかもいるが……」
「先輩、ものすごく興味深い話なんですが脱線してます」
「脱線してねぇよ。俺はな、好き好き言っときながら自分では何も飼えやしない臆病者なんだ」
有馬先輩は、普段のお調子者な雰囲気を消して俺に話してくれた。
まだ読み書きも出来なかった幼少時代、飼っていた犬を亡くしてしまいとてつもない悲しみに暮れた体験談と、その胸中。
悲しくて悲しくて、でもいくら泣いても命は戻ってこなかった。ふわふわで温かった体が徐々に硬直していく様が、目に焼き付いて離れないのだ、と。
別れを経験して以来、有馬少年はそれを打ち消すように様々な生き物についてを子どもながらに調べ尽くした。
俺はふと、ペアになった初日に「無体な殺生はできない」と黙って蚊に血を吸わせ、飛び立っていくそいつに話し掛けていた有馬先輩の横顔を思い出した。
「だからいつも眺めるだけ、なんですか」
「……命を預かるのは荷が重い」
初めて耳にする神妙な声だった。
飼えないから脆弱だとは思わないし、臆病者だとも思わない。
それどころか、その優しさはひどくいたいけで愛おしい。
「……有馬先輩、モテるのに」
「どういう意味?」
「その分じゃ、結婚はおろか恋人さえも居たことなさそうですよね」
「居なくても生きていけっから」
そのルックスで人生を達観するとは、何とも勿体無い。
おそらく誰にも話さなかったから、皆は有馬先輩の生き物好きのルーツを知らぬまま……いいや、知らなくていい。
それは俺だけが知ってればいいんだ。
臆病者だと自らを卑下する有馬先輩こそ、俺にとっては〝尊い〟。
「あの、こんなことを言うと笑われてしまいそうなんですけど……」
「なんだよ、……痛てっ」
俺は唐突に、先輩の左胸辺りにコツンと右拳を当てた。
言うなら今だと思った。
「俺、結構長生きする予定なんで、飼ってもいいですよ」
「……えっ?」
病気もめったにしない、おまけに働き者で手がかからないと付け加えると、有馬先輩は驚愕した表情から一転、目尻を下げて破顔した。
探究心旺盛な有馬先輩なら、この無鉄砲な提案を笑わないと踏んだ俺の予想は大当たり。
だって有馬先輩、俺の髪を褒めた直後にこう言ってたもんな。
『知ってるか、田中。動物界において同性愛行為ってのは珍しいことじゃないんだぜ』
──うん。これはナンパだよな、明らかに。
あなたと共鳴できるのは、たぶん俺くらいなもんだ。
終
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