296 / 541
46❥
46❥
しおりを挟む
─聖南─
朝から胃のムカつきが治まらない。
異常な緊張とストレスで、日々水代わりに飲むコーヒーすら喉を通らなかった。
『チクショー……平気じゃねぇって事か』
先延ばしにしても一緒だ、俺には葉璃がついてるから大丈夫、そう自身を奮い立たせて覚悟を決めたつもりでも、面と向かうとなると聖南の心はすでに崩壊寸前だった。
運転する手も心なしか震える。
情けない。
葉璃にもこの事を打ち明けないままだから、これが終わっても寄り添ってもらえない。
あえて言わなかったわけではなかった。
はじめは、伝えようとしていた。 弱いところを見せたくはないけれど、「頑張ってくるから」と強い自分を演じようとした。
それから、葉璃には会食直後に存分に甘えさせてもらおう。
そう決めていたのに、迫り来る嫌事が目前に迫ると、単に聖南に余裕が無くなりこの事を匂わせる術も思い付かなかった。
忘れていたわけではないのに、無意識に今日の日を記憶から消してしまうほどには動揺している。
料亭さくらの駐車場に車を停めた聖南は、ハンドルに両手を掛けて項垂れた。
『どんな顔してりゃいいんだよ……』
父親は一体、どんなつもりで聖南と会食をしたいなどと言い出したのだろうか。
仕事を名目に会食をするならば、社長や副社長、幹部が顔を出せば良かったのではないか。
二度も三度も聖南を交えた会食の打診があったとなると、どうしても疑ってしまう。
父親は、自らの立場を利用し聖南との関係の修復を目論んでいる。 今さら何度頭を垂れても許す気などない。 もはやその次元ですらない。
過去には蓋をしていたのだ。
今がとても幸せだから、悲しかった事も寂しかった事もわざわざ思い出させてほしくない。
顔を見てしまうと、きっと、どこまで苦しめるつもりなのだと罵倒したくなるだろう。 感情を抑えられる自信は皆無である。
「うぉっ……」
頭痛と吐き気が同時に襲ってくるほど思い詰めていたところに、突然運転席側のドアを開けられた聖南は驚いて変な声を出した。
犯人は難しい顔をした社長で、車中で項垂れていた聖南を心配そうに見ている。
「……セナ、大丈夫か」
「あぁ、大丈夫。 いやそんなわけねぇだろ。 全然、……大丈夫じゃねぇ」
「だろうな。 早めに切り上げるよう頃合い見てやるから、セナはとにかく渡辺の方と話をしていればいい」
「……分かった」
運転席から降りた聖南は、会食ともあってきちんとビジネススーツでやって来ていた。
仲居に案内されている最中、聖南は不安げに社長の後ろを付いて歩く。
「なぁ、もう来てんのかな」
「恐らくな」
「社長さぁ、アイツとトモダチなんだろ? なんであんなのとトモダチなんだよ」
「あれは昔から不思議な男なんだ。 友人の一人ではあるが、私もそれほど親しかった覚えはない。 以前からほとんど連絡も取り合わない」
「……ふーん……」
会話をしているとあっという間に個室の前にやって来てしまい、聖南は一度大きく深呼吸した。
この襖の向こうに父親が居る。 まだ対面してもいないうちから、考えただけでグロッキーだ。
『落ち着け、落ち着け、……葉璃、……力貸して』
立ち止まり、瞳を閉じて数秒。
聖南は脳裏に、葉璃の笑顔やぷぅと膨れた可愛い顔を思い浮かべた。
そんな葉璃はアキラと共にすぐそばに居るのだが、そんな事など知らない聖南は想像上の可愛い恋人からここ一番の力を注いでもらうしかなかった。
朝から胃のムカつきが治まらない。
異常な緊張とストレスで、日々水代わりに飲むコーヒーすら喉を通らなかった。
『チクショー……平気じゃねぇって事か』
先延ばしにしても一緒だ、俺には葉璃がついてるから大丈夫、そう自身を奮い立たせて覚悟を決めたつもりでも、面と向かうとなると聖南の心はすでに崩壊寸前だった。
運転する手も心なしか震える。
情けない。
葉璃にもこの事を打ち明けないままだから、これが終わっても寄り添ってもらえない。
あえて言わなかったわけではなかった。
はじめは、伝えようとしていた。 弱いところを見せたくはないけれど、「頑張ってくるから」と強い自分を演じようとした。
それから、葉璃には会食直後に存分に甘えさせてもらおう。
そう決めていたのに、迫り来る嫌事が目前に迫ると、単に聖南に余裕が無くなりこの事を匂わせる術も思い付かなかった。
忘れていたわけではないのに、無意識に今日の日を記憶から消してしまうほどには動揺している。
料亭さくらの駐車場に車を停めた聖南は、ハンドルに両手を掛けて項垂れた。
『どんな顔してりゃいいんだよ……』
父親は一体、どんなつもりで聖南と会食をしたいなどと言い出したのだろうか。
仕事を名目に会食をするならば、社長や副社長、幹部が顔を出せば良かったのではないか。
二度も三度も聖南を交えた会食の打診があったとなると、どうしても疑ってしまう。
父親は、自らの立場を利用し聖南との関係の修復を目論んでいる。 今さら何度頭を垂れても許す気などない。 もはやその次元ですらない。
過去には蓋をしていたのだ。
今がとても幸せだから、悲しかった事も寂しかった事もわざわざ思い出させてほしくない。
顔を見てしまうと、きっと、どこまで苦しめるつもりなのだと罵倒したくなるだろう。 感情を抑えられる自信は皆無である。
「うぉっ……」
頭痛と吐き気が同時に襲ってくるほど思い詰めていたところに、突然運転席側のドアを開けられた聖南は驚いて変な声を出した。
犯人は難しい顔をした社長で、車中で項垂れていた聖南を心配そうに見ている。
「……セナ、大丈夫か」
「あぁ、大丈夫。 いやそんなわけねぇだろ。 全然、……大丈夫じゃねぇ」
「だろうな。 早めに切り上げるよう頃合い見てやるから、セナはとにかく渡辺の方と話をしていればいい」
「……分かった」
運転席から降りた聖南は、会食ともあってきちんとビジネススーツでやって来ていた。
仲居に案内されている最中、聖南は不安げに社長の後ろを付いて歩く。
「なぁ、もう来てんのかな」
「恐らくな」
「社長さぁ、アイツとトモダチなんだろ? なんであんなのとトモダチなんだよ」
「あれは昔から不思議な男なんだ。 友人の一人ではあるが、私もそれほど親しかった覚えはない。 以前からほとんど連絡も取り合わない」
「……ふーん……」
会話をしているとあっという間に個室の前にやって来てしまい、聖南は一度大きく深呼吸した。
この襖の向こうに父親が居る。 まだ対面してもいないうちから、考えただけでグロッキーだ。
『落ち着け、落ち着け、……葉璃、……力貸して』
立ち止まり、瞳を閉じて数秒。
聖南は脳裏に、葉璃の笑顔やぷぅと膨れた可愛い顔を思い浮かべた。
そんな葉璃はアキラと共にすぐそばに居るのだが、そんな事など知らない聖南は想像上の可愛い恋人からここ一番の力を注いでもらうしかなかった。
12
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる