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───今までを悔いている。
父親のその言葉で聖南の中の記憶の蓋は閉じられ、さらには頑丈な鍵がいくつも掛けられた。
それに形があったなら、力いっぱい蹴たぐってやりたい心境だった。
こんなもの、もう要らない。 暗くて寂しい過去の記憶など、持っているだけ損だ。
気付いてしまったから尚の事、苛立った。
心のどこかで、小さな頃から変わらない父親への期待が未だに胸に燻っていた事を。
複雑な事情があって聖南を手放すしか方法が無かった……、嘘でも弁解してほしかった。 理解できる年齢になった聖南は「だから何だ」と嘲笑い、大人しく下手な話を聞いていたかもしれない。
だが父親は一言、悔いていると言った。
何も弁明しないまま、忘れてはいなかったと言った。
聖南を愛する事は出来たはずなのに、それをあえてしなかったと捉えた。
薄っぺらい言葉を並べられても、そうとしか聞こえなかった。
「……聖南さん……」
「俺は未練たらしい男だな。 ……無駄だって分かってんのに、まだ欲しがろうとしてたんだよ」
「そんな事ない! 欲しがって当たり前です!」
「……めんどーだから嫌だ、覚悟出来たから行くわ、なんて、俺も相当踏ん切りつけきらねぇよな。 ……無駄だったんだけど。 何もかも」
聖南の中で、恐れていた過去との対峙は本当の意味で終わった。
会食に聖南を呼んでいると分かった時点で、心のどこかで薄っすら期待してしまったのは息子としての最後のあがきだったのだ。
どうか、今までの寂しさを分かってほしい。
聖南が悩み苦しんできた孤独の毎日を、少しでも鑑みてほしい。
そして後悔の言葉ではなくダメな父親の方便で構わない、「仕方なかったんだ、ごめんな」その言葉が欲しかった。
「葉璃、もう俺にはお前しか居なくなった。 ……めいっぱい愛してみせるから、……葉璃は同じだけ返さなくてもいいから、……お願いだから……一緒に居てくれ……頼む……」
葉璃を抱き締めた聖南は、恥ずかしげもなく懇願した。
もう、ひとりぼっちには戻れない。
聖南のすべてを受け止めてくれた、葉璃が居なければ───。
「……聖南さん……」
葉璃さえ居れば、何も要らない。
ぼんやりとした毎日を明るい色で照らしてくれた、大好きな葉璃さえ居れば、もう何も。
今まで思い出しもしなかった父親との決別など、最初から無かった事にすればいい。
物心ついたあの時から、両親共に居なかった、それで済む話だ。
何も恐れなど無かったはずなのに、葉璃を想う気持ちが芽生えてから色んな感情を知ってしまい、ついつい良い方へと考えてしまった。
己の欲深さを嘆き、二度と同じ思いを味わいたくない聖南の懇願は、葉璃の涙をまた誘発した。
「聖南さんからの気持ちを貰うばっかりの俺が言うのも変かもしれないけど、俺は同じだけ聖南さんの事思ってるよ。 ……だから泣かないで、俺には見えるから……その涙……」
ポロポロと頬を伝い続ける涙はそのままに、葉璃が聖南の両頬を小さな手のひらで包み込んだ。
綺麗で澄みきった瞳と数秒見詰め合う。
泣けない聖南の代わりに、葉璃の涙のタンクが空っぽになってしまいそうだ。
『葉璃……好き。 ……お前しかいらない。 ……お前以外全部いらない……何も要らない……』
心の中で、聖南はたくさん泣いていた。
本当は、……本当は、親に捨てられるのがどうでもいいなんて、嘘だった。
葉璃に見破られて、呆気なく認めざるを得ない。
寂しかった。
親の愛を感じてみたかった。
優しく唇に口付けると、泣き笑う葉璃が上向いて応えてくれる。
───愛し方が分からないから、俺は一生、誰も愛せない。
過去の自分がひどく可哀想に思えた。
未来の自分はこんなにも幸せで、愛情を知れている。
───今葉璃を見詰めているのは、幼い頃の聖南の面影だったのかもしれない。
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