必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
303 / 541
46❥

46❥8




 聖南は、救いを求めるようにもう一度葉璃の肩口に甘えた。


「…………愛してる……大好きなんだよ、葉璃……」
「分かってます。 ……聖南さん、俺ちゃんと分かってるし、聖南さん以上に大好きの気持ち与えてあげるよ。……大丈夫。 俺は聖南さんから離れない。 聖南さんを傷付けたくない」
「大好き、葉璃……大好き……」


 葉璃は離れないで。 ずっと一緒に居ると約束して。

 小さな子どものように同じ言葉を繰り返す聖南の頭を、慣れない手付きで葉璃が優しく愛おしむように撫でてくれた。

 聖南は頭を撫でられた事がない。 成長するともっと、誰も撫でてはくれなかった。

 アイドル「セナ」として、事務所を引っ張る大きな存在として、無意識に肩肘を張って生きてきた聖南は常に悲しい気持ちを押し殺していた。

 葉璃がそうしていたように、誰にも聖南のプライベートを悟られまいと生きてきた。

 それがよもや六つも年下の恋人に縋る事になろうとは、今でも少々の恥ずかしさがある。 けれど、聖南の広い背中を撫で続けてくれる葉璃は鼻を啜りながら、愛を持って羞恥をかき消してくれた。

 どれくらいそうしていただろうか。

 聖南は背中を撫でられる温かさと、あまりの出来事にショックが大きかったせいもあって、葉璃に凭れたまま柔らかな世界に堕ちていた。


「……やべっ、漏れる」
「え?」


 相当な時間が経過したように感じたが、堕ちていたのはほんの数分だったようだ。

 さっきから我慢していた尿意にハッとして、葉璃の頭を撫でて立ち上がる。


「トイレ行ってくる。 ……葉璃、一緒にラジオ付いてきてくれる?」
「当然ですっ」
「ありがと。 ……また敬語復活してやがる」
「漏れるんでしょ、早く行って下さい」


 いつもの葉璃の反応にフッと笑みを溢すと、聖南はお手洗いへと向かった。

 道中、聖南に気付いた一般の者からいくつか握手を求められ、漏れそうなのに、と内心走り去りたい心境ではあったが、そつなく対応しておいた。

 さすがに老舗料亭さくらの顧客ともあって騒がれはしないが、静かに握手とサインを求められてそれにも丁寧に応じていく。

 それもこれも、打ちのめされた直後に、一番会いたかった葉璃から抱き締めてもらえて心が安定したからである。

 ただ、こんな事で時間を要しても、この部屋を出てからほんの五分くらいしか経っていないはずだ。


「……なんでいねぇの」


 戻ってきた聖南が襖を開けると、そこに葉璃の姿は無かった。

 つい先程だ。 あれだけ、あれだけ、「聖南さんから離れない」と言ってくれていたのは。

 がらんとした個室を目にした聖南の心に、突如として冷風が吹き荒ぶ。

 この後の生放送のラジオ番組にも付き添ってくれると食い気味に頷いてくれた葉璃が、聖南の断りもなく帰るなど信じたくなかった。


「…………~~それでも親ですか!?」

 焦燥感たっぷりにスマホを取り出し、すぐさま連絡しようとした聖南の耳に葉璃の怒号が届いた。

 その声は、どうやら社長と父親の居る隣の個室から聞こえているようだ。


「…………ッ!?」


 何がどうなって葉璃があちらの個室に居るのか。 一体どういう事なんだと、慌てて隣の襖を開けようと手を掛けるも、聖南はその襖を開ける事は出来なかった。

 なぜなら襖の向こうから、泣きながら聖南の気持ちを代弁する切ない声が聞こえてきたからだ。


『…………葉璃……』


 人見知りのあの葉璃が聖南の居ない場にたった一人で向かい、確実にこれまでの人生で出したことのない怒声で、我が父親へ怒る言葉に耳を傾ける。

 情けなくも、聖南は立っていられなくなった。


『葉璃……葉璃…………葉璃……』


 嬉しくて嬉しくて、葉璃の事が愛おし過ぎて。

 しゃがみ込んだ膝の間に顔を埋め、心の中で葉璃の名前を呼び続けた。




感想 3

あなたにおすすめの小説

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185