必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 聖南は、救いを求めるようにもう一度葉璃の肩口に甘えた。


「…………愛してる……大好きなんだよ、葉璃……」
「分かってます。 ……聖南さん、俺ちゃんと分かってるし、聖南さん以上に大好きの気持ち与えてあげるよ。……大丈夫。 俺は聖南さんから離れない。 聖南さんを傷付けたくない」
「大好き、葉璃……大好き……」


 葉璃は離れないで。 ずっと一緒に居ると約束して。

 小さな子どものように同じ言葉を繰り返す聖南の頭を、慣れない手付きで葉璃が優しく愛おしむように撫でてくれた。

 聖南は頭を撫でられた事がない。 成長するともっと、誰も撫でてはくれなかった。

 アイドル「セナ」として、事務所を引っ張る大きな存在として、無意識に肩肘を張って生きてきた聖南は常に悲しい気持ちを押し殺していた。

 葉璃がそうしていたように、誰にも聖南のプライベートを悟られまいと生きてきた。

 それがよもや六つも年下の恋人に縋る事になろうとは、今でも少々の恥ずかしさがある。 けれど、聖南の広い背中を撫で続けてくれる葉璃は鼻を啜りながら、愛を持って羞恥をかき消してくれた。

 どれくらいそうしていただろうか。

 聖南は背中を撫でられる温かさと、あまりの出来事にショックが大きかったせいもあって、葉璃に凭れたまま柔らかな世界に堕ちていた。


「……やべっ、漏れる」
「え?」


 相当な時間が経過したように感じたが、堕ちていたのはほんの数分だったようだ。

 さっきから我慢していた尿意にハッとして、葉璃の頭を撫でて立ち上がる。


「トイレ行ってくる。 ……葉璃、一緒にラジオ付いてきてくれる?」
「当然ですっ」
「ありがと。 ……また敬語復活してやがる」
「漏れるんでしょ、早く行って下さい」


 いつもの葉璃の反応にフッと笑みを溢すと、聖南はお手洗いへと向かった。

 道中、聖南に気付いた一般の者からいくつか握手を求められ、漏れそうなのに、と内心走り去りたい心境ではあったが、そつなく対応しておいた。

 さすがに老舗料亭さくらの顧客ともあって騒がれはしないが、静かに握手とサインを求められてそれにも丁寧に応じていく。

 それもこれも、打ちのめされた直後に、一番会いたかった葉璃から抱き締めてもらえて心が安定したからである。

 ただ、こんな事で時間を要しても、この部屋を出てからほんの五分くらいしか経っていないはずだ。


「……なんでいねぇの」


 戻ってきた聖南が襖を開けると、そこに葉璃の姿は無かった。

 つい先程だ。 あれだけ、あれだけ、「聖南さんから離れない」と言ってくれていたのは。

 がらんとした個室を目にした聖南の心に、突如として冷風が吹き荒ぶ。

 この後の生放送のラジオ番組にも付き添ってくれると食い気味に頷いてくれた葉璃が、聖南の断りもなく帰るなど信じたくなかった。


「…………~~それでも親ですか!?」

 焦燥感たっぷりにスマホを取り出し、すぐさま連絡しようとした聖南の耳に葉璃の怒号が届いた。

 その声は、どうやら社長と父親の居る隣の個室から聞こえているようだ。


「…………ッ!?」


 何がどうなって葉璃があちらの個室に居るのか。 一体どういう事なんだと、慌てて隣の襖を開けようと手を掛けるも、聖南はその襖を開ける事は出来なかった。

 なぜなら襖の向こうから、泣きながら聖南の気持ちを代弁する切ない声が聞こえてきたからだ。


『…………葉璃……』


 人見知りのあの葉璃が聖南の居ない場にたった一人で向かい、確実にこれまでの人生で出したことのない怒声で、我が父親へ怒る言葉に耳を傾ける。

 情けなくも、聖南は立っていられなくなった。


『葉璃……葉璃…………葉璃……』


 嬉しくて嬉しくて、葉璃の事が愛おし過ぎて。

 しゃがみ込んだ膝の間に顔を埋め、心の中で葉璃の名前を呼び続けた。




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