必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 スマホを手にした荻蔵さんが中心となって三人が話し込んでるから、俺達は少しだけ離れた場所に移動した。

 壁を崩したアキラさんとケイタさんが俺に向き直って、優しかった二人ともが真剣な顔で同時に腕を組む。

 まったくタイプの違うカッコいい二人に凝視された俺は、あぁやっぱり二人も怒ってるんだって思うと悲しくなって、深く俯いた。

 ずっと優しく接してくれていた二人にも、こんなに心配と迷惑をかけたんだ。

 ぶん殴りたいくらいムカついてる、よね……。


「ハル、そんな泣きそうな顔するな。 怒ってねぇから。 でもな、ハルの気持ちも分かるけど突飛な事し過ぎ。 俺らも相当心配したんだからな」
「ほんとだよ。 ハル君もセナと同じで、思い詰めたら周りが見えなくなるタイプだって知ってたけどさぁ……昨日のセナの親父さんの事もあるし? もうこんな事ないだろうなって思ってたら今日これでしょ、焦ったのなんの」
「ごめ、……ごめんなさい……」


 二人は、怒ってなかった。

 我慢して怒ってないフリしてるのかもしれないって、俺が卑屈に思わないくらい優しかった。

 心配したんだぞって俯いた俺の顔を覗き込んでくれる二人のお兄さんを前に、俺はとうとう堪えきれずに涙を流した。

 怒られても当然な騒ぎを引き起こしたんだから、こんなにも優しくされたらどうしていいか分からない。

 こんなくだらない事で迷惑かけるな!って怒号が飛んできてもおかしくないのに、なんで……? なんで二人はそんなに優しいの……。


「ハル、セナを頼むなって言っただろ? なんで逃げたりしたんだよ」
「そ、……それ、は……」


 そうだ……。 俺、アキラさんから何度も「セナを頼む」って言われてたんだった。

 過去の聖南を知る一人として、そう何度も。

 二人が見詰めてくる前で、俺は蚊の鳴くような小さな声を絞り出す。


「……俺が聖南さんと一緒にいたら、不幸になると、思ったから……」
「なんで俺が葉璃と一緒に居て不幸になんだよ。 アホか」
「…………っっ! 聖南さん……っ」
「セナ、アホは言い過ぎ」


 向こうでの話が終わったのか、聖南がいつの間にか後ろに居て、背後からキツく抱き締めてきた。

 聞かれてたとは思わなくてハッとしたけど、数時間ぶりの聖南の温かさに思わず目の奥がもっと熱くなる。

 苦しい。

 聖南の事が大好きで、ほんとは離れたくなんかないのに、聖南を悲しませてしまうかもしれない原因が俺だと思うと、苦しくてたまらない……。


「よっ、ハル! 心配したんだぞー? 心配のお詫びはハグでいいよ」
「……荻蔵さん……」


 呑気な荻蔵さんは、そんな冗談を言いながら俺の前にやって来て両腕を広げてきた。

 空気が読めない人ではあるけど、今この場では荻蔵さんの脳天気さがちょっとだけありがたい。

 でも、背後からはそんな荻蔵さんを睨み付ける強烈な視線を感じる。


「……葉璃さぁ、社長がなんて言うと思ったわけ?」


 後ろから俺にしがみついた聖南が、首筋を嗅いでくる。

 さっきのキレた聖南じゃなく、耳元で問うてくるそれはいつもの聖南に戻ってて心の底から安心した。

 目前の荻蔵さんの両腕はまだ広がっててどうしようかと思ったけど、それに気付いた佐々木さんがそれとなくその腕を下ろさせている。


「……聖南さんの事を思うなら別れなさいって……」
「んな事言うわけないじゃん。 っつーか言わせねぇし」
「社長はセナの父親代わりみたいなもんだからね。 それに、ハル君が思ってるほど分からずやじゃないよ」
「ハルのネガティブが最大限に発揮されたって事だな。 こんな思い詰めさせて……セナがハルに甘え過ぎなんじゃないの?」
「自覚はある」


 あんのかよ、とアキラさんが笑って突っ込むと、ケイタさんまでクスクス笑い始めた。

 みんなが俺を取り囲んで、「大丈夫」って言ってくれてるような気がした。

 俺の行動を誰も咎めない。 もっといっぱい叱られて当然の事をしたんだよ、俺……。

 聖南だけじゃなく、ここにいるみんなが俺に甘過ぎる。

 みんな、……優し過ぎる。


「セナさんは葉璃のすべてを理解してくれていると思ってましたけど。 違ったようですね」
「眼鏡うるせぇよ。 逃げる前はいつも通りの葉璃だったんだから気付くはずねぇじゃん」


 俺が引き起こした事なのに、何故か聖南が責められている。

 親しみのこもった遠慮無しの口撃にいたたまれなくなった俺は、身を捻って聖南を見上げた。

 視線に気付いた聖南も、ふと俺を見下ろしてきて目が合う。


 …………聖南さん、……ごめんなさい。 逃げてごめんなさい。 心配かけてごめんなさい。 子どもでごめんなさい。 ひとりでぐるぐるしてごめんなさい。
 もう離れないよって誓ったのに、離れてしまって、……ごめんなさい。


 俺は、涙で滲む瞳で訴えた。

 気持ちが伝わるように、いっぱい想いを込めて謝った。




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