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54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備中〜
─恭也─
可愛い事を思い付くもんだなぁ、と思ったら、原案は春香ちゃんらしい。
レッスン終わりに、葉璃から神妙な顔で「ファミレスに付き合って」って言われた時は何事かとドキドキしたけど、打ち明けてくれた話は何とも乙女チックなものだった。
「恭也にしか頼める人居なくて。 ……こんな事めんどくさって思ったんなら、正直に言ってくれていいから!」
「めんどくさいなんて、思うわけないよ。 喜んで、協力します」
「ほんと!? ありがとー!!」
その場でmemoryの新曲を聴かせてもらったけど、葉璃の想いそのままな歌詞だったから、これがうまくいけばセナさんに気持ちは伝わると思う。
春香ちゃんの意向としては、初めての単独ライブだから同じダンススクール出身の葉璃に応援してほしいって思いで出演を頼んだみたいだ。
ちょうどその日がセナさんの誕生日だという事、ネガティブな葉璃がセナさんとの付き合いに悩む恋心を忠実に表してる歌詞をmemoryが歌ってるという事、葉璃がセナさんの誕生日に何を贈ればいいのか悩んでた事…。
すべてが合致したサプライズプレゼント計画に、俺に協力できる事があるならどんな事だってしてあげるよ。
ただ一つだけモヤモヤっとしてる事があるから、それだけは葉璃に分かっておいてほしい。
着々とデビュー日へのカウントダウンが始まっている今、葉璃との何気ない時間を過ごすのもあと少しだと思うとすごくすごく寂しくて。
きっと、デビューしたら、今みたいにのんびりファミレスで話をしたりも出来なくなる。
俺はそれが嫌だった。
ETOILEとして葉璃を繋ぎ止めておきたいわけじゃなくて、素の葉璃との時間も俺には必要なんだ。
「でも葉璃、一つ条件……ていうか、お願いがあるんだ。 ……これから、お互い忙しくなると思うけど、セナさんより俺を、優先する日も作って。 空いた日に、一緒に映画に行ったり、ご飯行ったりしてくれるなら、喜んで協力するよ」
自分でも、無茶苦茶な事言ってるって分かっている。
恋人でもないのにこんな事を言うと相手を困らせてしまうと思うんだけど、俺の大好きな葉璃はちょっとだけ普通じゃない。
俺と同じ、「普通」じゃない。
「それ俺には得しかないけど……そんな事でいいの?」
「もちろん。 俺にとっては重要」
「そっか……」
条件、なんて大それた言葉で葉璃を驚かせてしまったかな。
そんな心配をよそに、葉璃は俺を安心させてくれる一番欲しい台詞をくれた。
おかしいって思われてもしょうがない事でも、葉璃は受け止めてくれて、真っ直ぐに返してくれる。
俺もつくづく、卑怯だと思う。 葉璃がそう言ってくれるって分かってて、「条件」付けたんだから。
へへっと照れたように、伏し目がちにオレンジジュースを飲む葉璃をジッと見詰める。
このサプライズ、セナさんなら絶対に喜んでくれると思うな。
春香ちゃんの影武者じゃない、葉璃本人のセナさんだけに披露するパフォーマンスは、何にも代えがたいプレゼントになる。
打ち明けてくれたのは嬉しかったけど、葉璃が無理をしそうで心配だ。
学校帰りにETOILEとしての準備諸々と、いつものレッスンでCROWNの振付を叩き込んだ後にmemoryの曲練習をするだなんて、かなり無謀だ。
このサプライズを決意した意思は尊重したいし応援してあげるけど、葉璃が倒れてしまわないか……。
「恭也が協力してくれるなら、もう何も心配ないなー」
そうニコニコして俺を見詰めてくる瞳はキラキラで、心配なんかしなくていいよって風にも聞こえる。
確かにあのセナさんへの誕生日プレゼントだなんて、悩まない方がおかしいよね。
そこへこんな名案を春香ちゃんから出されたら、二つ返事なのも頷けた。
いくらセナさんとの付き合いが順調でも、根っから卑屈な葉璃はすぐによくない考えを始めてしまう。
ちょっと前に、葉璃がセナさんの元から去ろうとした事件を春香ちゃんから聞いた時は、どうしようもない気持ちになった。
大好きな人だからこそ、葉璃はセナさんを苦しめたくない一心だった事、ちゃんと俺は分かってる。
それが最善の策だったとは思えないけど、葉璃の不安や葛藤は手に取るように理解できた。
芸能界、事務所内でのセナさんの立場を目の当たりにした今、葉璃はセナさんの隣に居ちゃいけないって愕然としたに違いない。
それが社長にバレたとなったら、いても立っても居られなくなって姿をくらました葉璃の心情を思うと、可哀想でたまらなかった。
その時俺は何も知らないで居たから、手を差し伸べる事も出来なくて、あとからその話を聞いて歯痒くて……。
甘いのかもしれないけれど、葉璃には可愛い可愛いと愛でられる存在であり続けてほしいんだ。
何も悩まず、不安のないポカポカした温かい毎日を送ってほしい。
その一件でさらにセナさんとの絆が深まったみたいだから、「普通」じゃない葉璃が通らなきゃいけない道だったのかなって、丸く収まった今なら思う。
「葉璃、セナさんから、逃げたって言ってたじゃない? あれから気持ち、落ち着いてるの?」
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