必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 滅多に会うことの出来ないCROWNが居る事で、彼女達は非常に落ち着き無く口々に話し掛けてきた。

 当然と言えば当然なので、聖南もアキラもケイタも律儀に一人一人と会話をしてやる。

 話をしながらふと葉璃の姿を探すと、聖南達から少し離れた場所で恭也と共に佐々木と何やら親密そうに至近距離で会話をしていた。

 恭也がそばに居るから問題ない、……などとは到底ならず、葉璃と佐々木の距離が異様に近い事に聖南は目を見開いてカッとなった。


『……あ!! あれはダメなやつ! 俺割り込んでもいいやつ!!』


「あーっと、ごめんな、佐々木マネと話してくるわ」
「え~~!!」
「まだお話したかったですー!!」
「またな。 今日はマジでお疲れさん」


 単なるヤキモチ焼きな彼氏を発揮しているだけだが、外面のうまい聖南はクールなフリで彼女達の輪から抜けると、葉璃の元へ気持ち早歩きで向かった。

 今日の聖南は葉璃直々にノックアウトされていて、いつも以上に心が狭くなっている。 少しの余裕もありはしない。


「おい眼鏡。 今日のこれはどういう事なんだ?」
「たった今まで名前で呼んで下さっていたのに。 切り替え早いですね、副総セナさん」
「こんなとこでそれ言うなっつの!」


 この控え室が賑やかしい場所で良かった。

 眼鏡と呼ぶと場所も構わず「副総」と言われるので、また別のあだ名を考えなくてはならない。

 このくだりを何度も見ている葉璃は可笑しくてたまらないようで、口元に手をやって俯き、肩を揺らしている。

 ひとしきり笑った後、真顔に戻った葉璃は恭也に向かって、


「恭也、トイレ付いてきて」


と聖南をまるで見てくれないまま言った。


「いいよ」


 連れションなら俺が一緒に、と言いかけて、そういえば今トイレは鬼門だったと我に返る。

 二人の背中を視線で追う聖南の胸がザワザワしてきた。

 そういえば葉璃が戻ってきてから一度も視線が合っていないので、どういう事なんだと地団駄を踏みたい気分だ。


「今日の事は後ほど葉璃からじっくり聞いて下さい。 あ、あとこれ。 衣装とブーツが入っています」
「……あぁ。 ……なぁ、葉璃なんか様子変じゃね? 俺ライブ中はしゃぎ過ぎた?」


 ジッパー付きのナイロンバッグを受け取った聖南は、相手が佐々木だという事も関係なくそう問うていた。

 あんなにもドキドキワクワクさせてくれた葉璃が、何故か一度たりとも聖南を見てくれない理由が分からなくて狼狽え始めている。

 あまりの可愛さに大興奮で、聖南も一緒になって踊っていたのは葉璃にも見えていただろうから、引かれたのかもしれないと考えると目の前でクスクス笑う佐々木に腹を立てるどころではなかった。


「はしゃぎ過ぎだったのは否定しませんが、葉璃は喜んでいると思いますよ。 日付けが変わらないうちに早いところ葉璃と帰宅してやる事です」
「んなの当たり前だろ。 ……葉璃、引いてねぇといいけど」
「引いてはいないでしょう。 ……私はドン引きでしたが」
「眼鏡にドン引かれてもどうでもいいんだよ」
「あ……オペラグラスを貸してあげた事、忘れました? 副総セナさん」
「うるせ! 衣装代倍振り込んでやるから貸しだとか思うなよ!」
「お、ありがたい。 差額分は私の懐に頂いておきます」
「おーよ。 取っとけ取っとけ」


 佐々木と聖南がしょうもない言い合いをしていると、葉璃達が戻ってきた。

 目を合わせてくれと願うもそれは叶わず、葉璃は恭也を見上げてヒソヒソと何事かを話している。


『なんなんだよ……さっきまでウキウキだったのにな……』


 天敵である佐々木と普通に会話をしていた事からも、聖南の動揺は絶え間なくなってきていた。

 そんな狼狽中の聖南の元へ、春香がそろりと伺いながら目の前にやって来て突然ペコッと頭を下げられる。


「セナさん、今日は来てくれてありがとうございました! 葉璃、完璧だったでしょうっ?」
「おぅ、春香。 お疲れ。 完璧だったよ」
「葉璃、大塚でのレッスンの後に私達のリハに来てたから、この一ヶ月すごーーく無理したと思います。 たくさん褒めてあげてくださいね」
「…………?」


 え?と、聖南の思考が止まった。

 葉璃は十九時のレッスン後にmemoryと合流していた、……春香はそう言った?


『……なんだ、そういう事だったのか。 ……そりゃ忙しいわけだ。 寝落ちも無理もねぇ』


 体力が付いたと言い張るわりに、スマホにも触れないほど疲労困憊とは腑に落ちなかったのだ。

 ゆっくり春香から葉璃へと視線を移すと、春香の顔の前で慌てたように腕を振っている。


「ちょっ、春香っ。 いいよ、そんな事言わなくて」
「なんでよ! 葉璃が頑張ったのは事実じゃないの。 みんなも、最後に葉璃と踊れて楽しかったって言ってるよ? 葉璃がデビューしちゃったら、こんなチャンス二度とないじゃない。 ……ありがとう、葉璃」
「そ、そんな……こちらこそ」
「ふふっ。 葉璃、このあともう少し頑張ってね」
「…………っっ!」


 仲睦まじい双子のやり取りを見ていると、春香が葉璃に何かを耳打ちして、その直後、葉璃の顔面がりんごになった。

 何を囁かれたのか分からないけれど、どこか照れているように見える。

 聖南が葉璃から視線を反らせずにいると、佐々木が二度手を打ったのを合図にmemoryのメンバーとバックダンサー全員が静かになり、聖南、アキラ、ケイタへとそれぞれに向かって一斉に頭を下げた。

 賑やかだった控え室内が空調の音のみ響く。

 すると目の前の春香が顔を上げないまま、喋り始めた。


「あのCROWNが、お忙しい中三人揃って来てくれるなんて緊張したけど、最高の気分でした。 私達の初ワンマンライブに来て下さって、本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」


 春香の言葉の後に続いて、全員がお礼を述べたのを聞いていた聖南とアキラとケイタは、一瞬顔を見合わせて……それから笑み合った。

 そんなに畏まらなくてもいいというのに、彼女達は三人の観覧を相当に喜んでくれた事が伝わって、非常に感慨深くなる。

 葉璃のパフォーマンスの余韻で、終盤ロクに観てやれていなかった事を聖南だけは少し懺悔した。



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