458 / 541
62・ETOILE初舞台前日
〜同室争奪戦Ⅲ〜
四つ目の弁当を食べていると、聖南を含めて言い争う三人の声に驚いた葉璃が、恭也に耳打ちした。
「恭也、アキラさんとケイタさん何してるの? たこ焼き食べるって?」
「葉璃を巡っての、熾烈な戦い……かな。 どっちかが、葉璃と、今夜同室みたい」
「え!? 聖南さんじゃなくて?」
「葉璃……分かりやすいね。 ……可愛い。 ほんとは、俺と同室が良かったな」
「う、うん……でも俺と同室になるのとたこ焼き食べるの、どう関係あるの?」
弁当に夢中でまるで会話を聞いていなかった葉璃は、二つしかないたこ焼きを先輩二人がそれぞれ口に運んでいる様をジッと見詰めた。
聖南も恭也も、二人が咀嚼する様子を固唾を呑んで見守る。
そして───。
「うっっ!!」
「うっっ!!」
三度ほど咀嚼して味を感じた途端、アキラとケイタは同時に口元を押さえた。
……妙である。
聖南は長机に肘を付き、首を傾げて二人を見上げた。
「は? なんで二人とも同じ反応してんだよ」
「………っっ!!」
「…………!!?」
同時にギッと睨まれた聖南も訳が分からず見詰め返したが、二人の顔がみるみる真っ赤に染まってゆく。
そうかと思えば二人は、口元を押さえたままダッシュで控え室を飛び出していった。
すると入れ代わりに成田がやって来て、「お疲れー」と言いながら呑気にコーヒーの入った紙コップに口を付けている。
あのたこ焼きを仕込んだのは成田なので、聖南はもしやと思い苦笑した。
「成田さん、もしかしてやっちゃった?」
「何が?」
「たこ焼きだよ、たこ焼き。 何か入れたろ」
「あぁ! あれな、アキラに言われて一つだけにワサビ入れたよ。 たっぷり!」
「……それ多分……両方に入ってたぞ」
「なんだって!? …………あ、でも心当たりが……」
成田のしまった顔に、聖南と恭也は笑いをこらえきれなかった。
「あはははは……!! マジかよ! ロシアンたこ焼きになんねぇじゃん!」
「ふふふふっ……!」
両サイドが凄まじく爆笑していて、一人だけ置いてけぼりの葉璃は膨れた。
なぜアキラとケイタが真っ赤な顔をして飛び出して行ったのかも分かっていない。
「ね、ねぇ、なんでそんなに笑ってるの??」
葉璃は、爆笑し過ぎて目尻まで拭う聖南と恭也を交互に見て問うが、二人から手のひらで「ちょっと待って」と制されてさらに頬を膨らませた。
「しまったなぁ……。 あのたこ焼き、誰が食ったんだ?」
「アキラとケイタ」
「あー……だから走ってトイレ行ってたのか」
成田の苦笑を見るとさらに笑いが込み上げてきた聖南と恭也は、珍しいほどに腹を抱えて笑っている。
頬の膨れた葉璃を置き去りにして爆笑していた数分後、件の二人が微妙な表情で戻って来た。
そしてアキラが成田の姿を見付けた途端、「おい!」と声を荒げる。
「成田さん勘弁しろよ! 一つだけに入れてって言っといたじゃん!」
「ごめんごめん! ちょうどそれ仕込んでる時に電話鳴ってな、対応してたら……そうなってしまったようだ」
「ようだ、じゃないよ! これじゃロシアンたこ焼きにならない! あー辛かった!」
「まだ鼻の奥おかしいよな」
「うん。 口の中も変な感じ」
「悪かったって! で、あのたこ焼きは何の意味があったんだ?」
「成田さんのせいで意味が無くなった! 結局ハル君とどっちが同室なのか決まんないままじゃん……」
ケイタがため息混じりに腰掛けた。
鼻や口に違和感が残るのか、アキラは何度もお茶を飲んでそれを誤魔化そうと躍起になっている。
二人が意気込んでたこ焼きを口に運んでいた様を思い出し、聖南はまたも盛大に吹き出した。
葉璃との同室を賭けてのギャンブルが、成田によって潰されてしまった事実も相当可笑しい。
「ぷっ……! しょうがねぇな。 ツインにシングルベッド三つ入れてもらってトリプルルームにすりゃいい」
二人に爆笑を提供させてもらった事に免じて、聖南はそう提案した。
そして、隣で弾けんばかりに頬を膨らませた葉璃の肩を抱いて「機嫌直せよ」と耳打ちしてやる。
聖南の声に弱い葉璃は、その一言だけでヘラッと表情を崩した。
「そんな事できんの!?」
「出来るだろ。 無理って言われたら俺が運んでやる」
「セナ様カッコイイ!」
「ただし葉璃は窓際な」
「全然いいよ! ダブルとかツインに一人はマジでしんどい! 二人一組で楽しくやってる中で一人あぶれんのはしんど過ぎる!」
ここに居る誰もが、何となくケイタがあぶれそうな予感を感じていたからか、必死で「しんどい」を繰り返すケイタに恭也までも吹き出してしまう。
恭也がこんなにも笑う姿は珍しくて、訳が分からないながら葉璃も嬉しくなった。
聖南も恭也も、イケメンはやはり笑顔もイケメンだ。
「あ~~マジで今年一番笑ったわ。 成田さんナイス」
「そう思ってるのはセナだけみたいだぞ……。 見てみろ、アキラとケイタのあの目を……」
「そりゃ睨まれるだろ。 ワサビ入れてる時に気付きそうなもんだけどな」
「気付いてたらこんな事にはなってねぇ! ケイタが悶絶するとこ見て爆笑してやるつもりだったのに」
「なんで俺が食うって決め付けてんだよ! 俺だってアキラの悶絶見て笑いたかった!」
「俺の悶絶よりケイタの悶絶の方がウケんじゃん」
「なんだとーっ? 聞き捨てならないなぁ!」
同じ痛みを分かち合ったはずの二人が、たかだか両者ともワサビ入りのたこ焼きを食べただけで言い合いを始めた。
聖南に肩を抱かれた葉璃は心穏やかでいられない。
本当に喧嘩が始まってしまったらどうしようと不安で聖南を見ると、彼は未だ素敵な笑顔を浮かべていた。
「不毛な言い争いしてんじゃねぇ。 俺と恭也は超笑わせてもらったからそれでOK」
「セナも食ってみれば分かるよ! 死ぬかと思ったんだからな!」
「いやケイタ、セナは辛いの強えから意味ないかも。 刺し身食うときのワサビの量見た事あんだろ」
「そうだった……!!」
「俺はワサビくらいじゃ悶絶はしねぇな。 葉璃には悶絶するけど♡」
「……聖南さん、みんなの前……」
「何今さら恥ずかしがってんの。 かわいーな。 そんなかわいーと食っちまうぞっ」
視線を寄越してきた聖南の瞳がギラついているように見えて、咄嗟に腕から逃れようとしたのだが遅かった。
葉璃の頬をパクっと唇で食む聖南に全員の視線が集中する。
「まーた二人の世界か……」
聖南と葉璃にあてられたケイタが、やれやれと言わんばかりにそう呟いた。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【R18】兄弟の時間【BL】
菊
BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。
待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!
斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。
「じゃぁ結婚しましょうか」
眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。
そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。
「結婚しましょう、兄さん」
R18描写には※が付いてます。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。