必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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63・ETOILE初舞台当日

〜犯人との対峙 Ⅲ〜

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 葉璃の台詞に、聖南と佐々木は揃って絶句した。


「…………いや、されたじゃん」
「…………葉璃は何を言ってるのかな?」


 この場面でそれを言う意味が分からない二人ではない。

 計り知れない恐怖を与えられたはずなのに、またしてもお人好しが発動しているのか。

 立ち上がって葉璃を諭そうとした聖南だが、何故かポケットに手を突っ込まれてスマホを奪われた。


「さ、されてないって言ったらされてないんです!! ……あ! 聖南さん今まだライブ中じゃないんですか!? も、戻りましょう! こんなとこでのんびりしてられないです!」


 スマホで時刻を見た葉璃が慌てて聖南を見上げ、ライブに戻ると言い張り始めた。

 ライブどころではないから聖南はここに居るのであって、たとえ葉璃の望みだとしてもそう簡単にこの場を後にする事など出来ない。

 咄嗟に、歩もうとした葉璃の腕を取り「待てよ」と引き止める。


「葉璃、何を言い出してんだお前は! ここ出るとしてもまず病院だろ! その脇腹!」
「…………葉璃、もしかしてコイツらを野放しにしようとしてないか……?」
「そんなんじゃないです! あの人を殴ったの誰っ? 聖南さんでしょ! だとしたら聖南さんも警察に連れて行かれるじゃないですか! そんなの俺は嫌です!」


 佐々木に踏まれていくらも経つ男の右頬を指差し、葉璃が爛々と聖南を見上げてくる。

 確かに殴ったが一発だけだ。

 その後、右手首がしばらく使いものにならないようにはしたし、男の前髪を数十本抜きもした。 何より、未だ聖南の指先の跡が残る喉元の圧迫。

 これらを総合すると、葉璃が案じている事態になるのかもしれないが、それらをやった事の後悔はない。

 理性が飛んだ状況だったにも関わらず、かなり被害が少ない方だとすら思う。

 どう答えたらいいんだと聖南が葉璃を見詰めた横で、ヤケクソ気味の麗々が鼻で笑った。


「…………フッ……甘っちょろいガキね」


 刹那、ヒクついていた聖南のこめかみに血管が浮き上がる。

 ギリッと奥歯を噛んだせいだ。


「……なんつった?」
「…………キャッ……!? や、やめ……苦し……!!」


 まるで顔の印象が変わってしまった麗々の元へゆらりと歩み、首を握って持ち上げる。

 麗々の足のつま先が浮き上がり、締め上げる格好になった。

 先程は気絶していてこの聖南の姿を見ていなかった葉璃はギョッとなり、慌てて聖南の背中に飛び付く。


「せ、聖南さんっっ!?! 何やってるんですか!!」


 キレた聖南には、憎たらしい麗々の顔しか目に入らなかった。

 ここまでの悪事を働いておきながら、さらに葉璃を侮辱した一言に再び理性が飛んだのだ。


「もう一回言ってみ?」
「……甘っちょろい、ガキよ……!! 殺せるもんなら、殺してみなさ、い……!! 望み通り、あんたの……すべてを……奪ってやるか、ら……!! 地位も、金も、捨ててくれ、るんで、しょ……!! うぐっ……!」
「セナさんダメだ!!  堪えろ! 挑発に乗るな!!」


 麗々の首を締め上げ続ける聖南へ、佐々木も思わず声を張るが先ほどからまったく思いは届いてくれない。

 キレた日向聖南は昔もこんな風だった。

 誰の制止も聞かず、ただただ相手を降伏させるために自らの力を全力で誇示し、満足するまで痛め付ける。

 まるで、情け容赦のない子どもの喧嘩を見ているようだった。

 佐々木が聖南を止めようと男の顔から足を退けようとした次の瞬間、被害者であるはずの葉璃が、声高に麗々に向かって叫んだ。


「俺の前で聖南さんがあなたを殺せるわけないじゃないですか!! なんであなたは一言謝れないんだよ! こんな事しといて開き直るなんて、やっぱりあなたは頭がおかしいです!! あなたの方がよっぽどガキですよ!」
「……ッッ……」


 聖南が自らの頭上を越えて麗々の首を掴んで持ち上げており、そのため葉璃はかなり上方を向かなければならなかった。

 背後からの葉璃の怒声に、聖南の意識が徐々に戻り始める。


「警察に何を聞かれても俺は何もされてないって言います! それはあなた方を救いたいからとか情けをかけてやるつもりはまったくありません! 聖南さんがこれからも輝き続けるためにはこうするしかないんです!! この事が公になったら困るのは聖南さんだけじゃない! あなた方も二度と再起できなくなるんですよ! 再起できなくなってもそんなの俺は知らないけど、聖南さんが困る事になるなら俺は何もされてないって言い張る!」


 勢いは止まらず、聖南の父親にブチ切れていたいつかの葉璃の再来であった。

 我に返った聖南が葉璃を振り返ると、真っ赤な顔で怒りも顕に、地に足を付いた麗々を睨み付けている。


「あと、甘っちょろくて結構です! ついでに俺は卑屈でネガティブで最低ランクの人間です! そんなのあなたに言われなくても自分で分かってる! 一ミリも傷付いてないですからね! ナメないでください!」


 フンッと鼻息荒くした葉璃は、怒りに任せてスタスタと扉の方まで大股で歩んでいく。

 呆然とその様子を見ていた聖南と佐々木は、今自分達は「か弱く脆い、傷付いた葉璃」を救出しに来たのではなかったかと同じ思いに囚われている。

 ふと扉前で立ち止まった興奮状態の葉璃が振り向き、聖南と佐々木を交互に見た。


「聖南さん、ライブ戻りますよ! 佐々木さんも、いつまでもその人の顔踏んでないで行きますよ!」
「なっ……マジでこいつらこのままにしとくのか……っ?」
「は、葉璃? 葉璃……? そんな大声出してたら脇腹にさわるぞ……?」
「俺は今日ETOILEとしての初舞台なんです! この時間だから今向こうがどんな状況か分からないけど、それでも、戻らなきゃいけないんです! この人達のせいで大事な初舞台を邪魔されたくない! もう邪魔されてるけど!」


 怒った葉璃はそう言うと、ひとりでスタスタと扉を出て行ってしまった。

 その向こうで、康平から通報を受けて駆け付けた警官が葉璃と接触したようだが、「何もされてないです!」と葉璃はプンプンしたまま答えているのが聞こえた。


「………………俺のネガティブな姫が怒ってっから……行くか」
「そうだな。 ……あ、こいつらの写メ撮って昔の舎弟に送っとく」


 怒り心頭の葉璃を追い掛けるべく、聖南は歩き出した。

 嫌がる三人の顔を無理やりスマホのカメラで撮影した佐々木も、聖南に続く。


「それどうすんの?」
「さぁ、どうすんのかな。 とりあえず殺しはしないんじゃね?」


 聖南と佐々木は、この三人が辿る末路を鼻で笑い同時に振り返った。


「お前ら、拉致る相手間違えたな。 俺への復讐なら俺自身を狙わねぇと。 葉璃の用心棒、何人居ると思ってんの?」
「ついでに言うと、あんたらみたいなカスが何人集まってもCROWNのセナは失脚させらんねぇから。 這い上がりてぇなら自分の行い改めて自力でのし上がれよ」


 扉前でそう捨て台詞を吐いた二人は、複数の警官達をかき分けて急ぎ足で階下へと降りた。



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