必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 震える手足と唇をどう制御したらいいか分からない。

 約二時間みっちりと叩き込まれた春香の完コピダンスは何とか形にはなったものの、完璧などでは到底ないだろう。

 memoryのメンバーとマネージャー、ヘアメイクさん、衣装さんのみが、俺と春香が入れ替わっている事を知っていて、後から激励にやってくる事務所のお偉いさん方らは知らないんだ。

 無理を言ってフォーメーションを分からない程度に変えてもらって、なるべく映らないように後ろの配置にしてはもらったけど、それでもバレるかバレないかヒヤヒヤもんで……胃が痛い。

 おかげで、バレたらどうしようという罪悪感には押しつぶされそうだし、テレビに出るというとてつもない緊張感のせいで至るところが震えて止まらない。

 手のひらに人という字を書いて飲み込んでも、効果はゼロだ。


「葉璃くん、がんばろうね!」
「何かあっても私たちがカバーするから安心して!」


 俺の緊張がダダ漏れなのか、メンバーである同い年の小雪と里菜が気を遣って背中を叩いてくれる。

 メンバー全員とはスクールでの同期と言っていいので、年齢が上下していてももはや家族のような間柄だから、この件に関してみんな積極的に協力してくれている。

 春香のプロ意識を欠いたドジも、心配と呆れを交えて笑い飛ばしてくれたし、俺の完コピ練習にもほとんど休憩ナシで付き合ってくれた。


「ありがと……でも何をどうしてもすっごい緊張するんだけど……」
「そりゃそうだよ。まともに振り付け覚えたの初めてでしょ?  しかもその初舞台が生放送だよ」
「そうそう、緊張しないはずないって」
「私たちだって緊張してるんだから、葉璃くんはもっとだよね」


 すっかり硬くなってしまった肩を揉んでくれ、気持ちを分かってくれるだけでもいくらか心が軽くなるから不思議だ。

 ついさっき最終リハーサルは終わったから、生放送まであと二十分くらい……かな。

 前室への待機のお呼びがかかった事で、硬直しかけた心と体がさらに動揺した。

 びっしょりな手汗はいくら拭ってもサラッとしない。

 無理だ、こんなの緊張するなって方が無理だ……!


「葉璃くん、おっぱい大丈夫?」
「だ、大丈夫なわけないでしょ。これは要らなくない……?」
「要らなくないよ!  春香と同じにしなきゃなんだから」


 衣装は、ダンスで動きやすいように下はホットパンツで、体毛の薄い俺は処理する事なく履けたのだが問題は上だ。

 春香と同じバストサイズにしなければ、事務所の人間もファンも怪しむかもしれないとの理由で、スポーツブラというやつにパッドを三枚も入れられ、見事な胸が完成している。

 違和感ありまくりの身体で、初めての踊りを、初めてのテレビで、この胸を付けたままやり切らなければいけない……そして絶対に失敗は許されないなんて、俺いま一体、何重苦背負わされてるんだろ……?


「memoryさん、前室にお願いしまーす!」


 来てほしくなかったADさんの呼び出しに、もう逃げられないと小さな覚悟を決める。

 メイクまですべて整ったメンバーが口々に励ましの言葉をかけてくれつつ、すぐ丸まってしまう俺の背中をパシッと叩いてもくれながら控え室を出て行って、そこでまた若干なりとも気合も入った。

 俺は一人残って、衣装さんとメイクさんにササッと最終チェックを受ける。

 セミロングのエクステを付けた髪を直して、唇はぷるぷるに仕上った。


「……春香ちゃんより可愛いかも」
「男の子だからほんの少し鼻筋と目尻が違うもんね。 あ、この事、春香ちゃんには内緒ね」


 春香ちゃんヤキモチ焼いちゃうから、と二人にウインクを投げかけられたが、その前に男の俺が可愛いって言われて喜ぶと思ってるのかな……。

 似合い過ぎてるこの見た目は、誰がどう見てもさながら仕上がった売れっ子アイドルだけど。

 今は、可愛いってのは褒め言葉だと受け取っておこう。

 そうやって自分に暗示をかけていくしか、俺にはこの時を乗り切る方法が思い付かなかった。



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