必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 カーステレオから流れてくる陽気なラジオDJが、静か過ぎる車内を賑やかにしてくれている。

 佐々木さんは普段から喋る方じゃないし、俺も変わらないようなもんだから一緒に居ても楽しくないだろうに、なんで春香じゃなく俺を誘い出すんだろ……。


「あ、悪い。電話取るね」


 急に何かと思ったら、佐々木さんが俺に断って耳に嵌めているBluetoothイヤホンのスイッチを押した。

 運転中だからイヤホンしてたみたいだ。


「はい佐々木です。……え? 今からですか? ……はい、えぇ。近くには居ますけど……」


 どうやら仕事の電話のようで、チラと俺に視線をよこす。

 様子を窺っていた俺は、佐々木さんと一瞬目が合った。


「連れが居るので対応したらすぐ出ても構いませんか? ……はい、はい、……分かりました」


 電話が終了したのかイヤホンスイッチを押した佐々木さんが、右折のウインカーを出してため息をついた。


「悪い。ちょっと局に行ってもいい?」
「仕事ですか?」
「そう。うちのタレントの収録予定の番組からでね」


 苦々しく言う佐々木さんに気を使わせたくなくて、この辺の土地勘はまるで無いけど帰れない事もないし、俺は佐々木さんの横顔を見て言った。


「俺帰りますから駅で下ろしていいですよ」
「そんな事できないよ。すぐに終わるから待っててほしいんだけどな」


 仕事だから仕方ないし、と思って言った事だったけど、そう佐々木さんに押し切られては一緒に行くしかなさそうだ。

 時間の問題とかじゃないのに、ちょっとめんどくさいと思ってしまった。


「……わ、分かりました」


 着いたのは、以前ハルカの代わりに収録のために来たテレビ局で、何となくロビーも楽屋廊下もスタジオの位置も覚えてる場所だった。


「ここで待ってて。すぐ戻るから」


 自販機でミネラルウォーターを買って俺に手渡した佐々木さんは、いつものタブレット片手に颯爽と去って行った。

 収録スタジオがある五階のロビーに残された俺は、どれくらい待つのか分からないから、とりあえず併設された窓際の固い椅子に落ち着く。

 ミネラルウォーターを一口飲んで窓の外を見ると、雲が翳ってきていて今にも雨が降りだしそうなぐずついた天気だ。

 それに引き替え、社内は活気に満ち溢れていて忙しなく人が行き交っている。

 何気なくそんな人達を眺めていると、見覚えのある廊下に目が止まった。

 そうだ、確かこの先の廊下で聖南が「ハルカ」だった俺をプチ拉致したんだ。

 誰もいない楽屋に連れ込まれて、何が起きたのか分からないまま必死な形相の聖南に告白されたっけ。


「……懐かしいな」


 もうあの日から何日も時は経ってるのに、今でも鮮明に思い出せる。

 聖南の第一印象は最悪だったけど、彼の人となりを知れば知るほど好きになっていって。

 今じゃ俺の方が聖南の事好きかも、なんて、春香が聞いたらまた少女漫画みたいと笑われそうな事を思ってしまう。

 自分で自分が恥ずかしくなってきて、気紛れにもう一口ミネラルウォーターに口を付けていると、廊下の向こうから背の高い女性が三人歩いて来ていた。

 さすがテレビ局なだけあって、俺は名前とか全然分かんないけど、三人ともすごく美人でスタイル抜群だから、モデルやグラビアタレントというやつなのかもしれない。

 興味がない俺はその三人を特に気に留めずに視線を窓の外に向けると、会話の中で「聖南」の名前が出てきたのが聞こえてピクッと体が固まった。


「えーそれで記者になんて言ったの?」
「もぉ最高でした♡って」
「私もー! あのセナの腕に抱き締められたんだよ?  それだけでヤバくない?」
「いいなぁ~私もお相手してもらえば良かったぁ」
「私ももう一回お願いしたいけど、こんな騒動の後じゃ、しばらくセナ遊ばないだろうなー」
「ほんとほんと~。あ~セナに触られたぁい」
「ダメ元だったのに、あんなにすぐ抱いてくれると思わなかったよぉ」


 キャー♡と、彼女らは危ないヒソヒソ話を継続させながらエレベーターに乗り込んで行った。



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