必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
69 / 541
15♡

15♡5




 まだあの女性達の話が尾を引いてる俺は、何となく聖南との連絡を避けたくてスマホの電源を落としてポケットにしまった。

 もしかしたら今この瞬間にも、アキラさんが俺と佐々木さんに会った事を伝えてるかもしれないし、そうなると現状を説明するのは物凄くややこしいってのもある。

 けど、俺は逃げたに過ぎない。


『あんなにすぐ抱いてくれるなんて思わなかったよぉ』


 女性特有の、高くて上機嫌で甘い声が耳にこびり付いていて、まったく離れてくれなかった。

 あんなに綺麗な人達と関係を持ってきたのに、聖南はどうしてとてつもない方向転換して男の俺を好きになったのか、到底理解出来ない。

 聖南の気持ちに嘘なんてないはずだと思ってるけど、俺はやっぱり「聖南」という、高みにいる人間に愛されてはいけない気がする。

 そうだよ……俺も、愛しちゃいけない。

 おこがましくも、俺なんかが好きになっていい相手じゃなかったんだよ、最初から。

 分かってたつもりなのに、どうしてこんなに気持ちが前のめりになってから気付くんだろう。

 余計にツラくなるだけじゃん……。


「葉璃? 大丈夫? 口に合わなかった?」
「あっ、いえ! すごく……美味しいです」


 そうだ。今は目の前の事に集中しよう。

 嫌な事が頭の中を支配してて味はほとんど分からなかったけど、せっかく佐々木さんが俺なんかのために個室を予約して、ご馳走してくれてるんだから。


「本当に? 良かった」


 眼鏡の奥が優しく微笑んでくれて、それを見ると少し緊張も和らいだ。

 目の前に広がる和食のフルコースを黙々と平らげてると、佐々木さんが一旦箸を置いて俺をジッと見詰めてきた。

 そして、俺にとっては朗報と言っていい台詞を紡ぐ。


「葉璃にしてたあの話、もう気にしなくていいよ」
「……えっ? あの話ってあの話? それは……嬉しいですけど。どうしたんですか、急に」


 近頃は会うと毎回俺のデビューの話をされてたから、もう断るしんどさを味わわなくていいと思うと単純に嬉しい。


「まだ会社側は諦めてないと思うけど、俺がもうストップかけるから安心して。春香のフリしてくれた時、葉璃物凄いプレッシャーだったろ? 緊張し過ぎて心ここにあらずって感じでさ。可哀想な事したなってずっと俺なりに気にしてたんだ」
「……佐々木さん……」
「葉璃に表舞台は荷が重過ぎるよな。芸能界を目指してるのならともかく、嫌だって断り続ける葉璃の気持ちを考えたら、俺にはもう無理強いなんか出来ない」


 そうそう、まさにそうなんです!

 春香の影武者してみて改めて分かったんだ。

 俺なんかのどこを買ってくれてデビューさせようとしてくれたのかは知らないけど、俺には絶対に向いてないと断言できる。

 緊張を緩和してくれると聞いてた、手のひらに人の文字……こんなに効果がないもんかってあの時ちょっとイラッとしたくらいだ。

 無茶な事を頼んでくるなぁって、春香はもちろん佐々木さんにも、俺のこと全然分かってない!って怒ってしまいそうだったけど、佐々木さんはちゃんと見ていてくれたみたいだ。

 冷や汗が背中を伝うあの嫌な緊張感、大勢の人に見られながらのパフォーマンス。

 きちんとそれを夢として描いてる人なら乗り越えられる壁かもしれない。

 けど俺にはそんな大それた夢も無ければ意気地もないんだから、金輪際ごめんな環境と職場だった。


「そうです、俺にはあんな世界は眩し過ぎます。だから……ほんとに良かったです。佐々木さんが分かってくれて」
「眩し過ぎるよね。俺も同感。それに、葉璃の事をたくさんの人の目に晒したくないしね……出来ることなら俺の手で育てたかったんだけど」
「………………?」


 茶碗蒸しの最後の一口を食べ切り、ふぅ、とお腹が満たされて椅子の背凭れに背を預けたところで、目の前の佐々木さんが的外れな事を言っている。

 意味が分からなくて首を傾げて佐々木さんを見ると、彼は眼鏡をクイッと中指で押し上げて一息ついた。


「葉璃を誰にも渡したくないなぁ」
「……ん?」


 伏し目がちにそう言う目の前の佐々木さんは、ご飯にあまり手を付けてなかった。

 二人用にしては広過ぎるテーブルの上には、半分ほど残った料理達が寂しげに皿に残っている。

 佐々木さんの瞳が俺を射抜いた瞬間、この手の事に疎い俺でさえも、雲行きが怪しくなってきたのを察知した。


「佐々木さん? それ、アルコール入ってました?」


 俺は咄嗟に、佐々木さんが飲んでいたノンアルコールビールを指差して下手くそに笑った。

 俺にも初めてのノンアルコールカクテルを頼んでくれて、それがまるでジュースみたいでやけに美味しくておかわりしたくらいだ。

 運転のために佐々木さんはノンアルコールビールにしてたのは知ってたけど、実は普通のビールだったんじゃ……と指摘するも、あっさり否定された。


「いいや、ノンアルだよ。俺はずっと前から葉璃の事が好きだった。ちゃんと態度にも出してたつもりなんだけど。気付かなかった?」
「──へっ??」
「俺ね、男しか好きになれないんだよね。葉璃がもうドストライクなんだ。でも葉璃はまだすごくおこちゃまだろ? 時間を掛けてじっくり押そうと思ってたのに、突然掻っ攫われるんだもんなぁ」
「…………」


 ── 何だろう、……この状況。

 佐々木さんって男しか好きにならない人だったんだ、っていう新事実と共にどうやら今俺は……告白されたらしい。

 意味を理解しようと、呆然と佐々木さんの眼鏡の奥を見詰めた。

 頭の中で、春香の『モテ期到来だね』って声がエコー付きで聞こえて、俺は開いた口が塞がらなかった。



感想 3

あなたにおすすめの小説

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

【完結】優しい嘘と優しい涙

Lillyx48
BL
同期の仲良い3人。 ゆっくり進んでいく関係と壊れない関係。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。