必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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「はーい、OK。 分かった。 二人ともお疲れさん」


 課題として与えられていた二曲を、交互にメロディーラインとハモリで歌い終えると、防音ガラス越しに聖南がそう声を掛けてきた。

 ヘッドホンを外していると、俺達のマネージャーになる予定だという林さんがすぐにまた水を持ってきてくれる。

 こういう事をされるのに慣れてなくて、俺も恭也も「すみません、すみません」としか言えない。

 memoryの時はほとんど佐々木さんはノータッチだったから、余計に恐縮した。

 スーツの大人達がたくさん居る、機械がたくさんある方の部屋へ戻ると、自己紹介した時に社長と副社長だと名乗っていたものすごく偉い人が近付いてきて、ほんの二曲歌っただけの俺達を大袈裟に労ってくれた。


「お疲れ、恭也! 君が倉田葉璃君かぁ、いやぁ、アイツの見立てはやはり完璧だな」
「本当ですね。 どこからこういう逸材の情報を聞きつけるんでしょうか」


 俺と恭也は、事務所のトップ達の存在に今さら緊張感を覚え始め、恭也は無表情のままだったけど、笑顔を作ろうとした俺は無理が祟って変な顔になってしまった。

 すると聖南が椅子から立ち上がり、社長達みんなに向けて追い返すような身振りをした。


「社長と副社長、そんでここにいるみんなの圧に二人がビビってんじゃん。 二人は慣れない事してすげぇ疲れてるはずだから、ほら、今日はもうお偉いさん方は帰った帰った」


 聖南の言葉に、仕方ないなぁ、と溢しながら社長が退散したのを皮切りに、そこにいた大人達がぞろぞろと帰っていってくれて、人に酔いそうなほどに密集していたこの部屋にやっとスペースが生まれた。

 残ったのはCROWNのマネージャーの成田さんと、俺達のマネージャー(仮)林さん、編曲チーム(?)だと紹介された四人の男性だ。

 聖南は先程の椅子に座り直すと、眼鏡をクイッと上げてパソコンをいじり始める。

 シンプルなあの眼鏡をかけてるところは……初めて見た。 いかにも ″できる男″ って感じで、カッコいい。


「とりあえず二人、そこ座って。 えーっと、何から話そうかな。 まず、デビューおめでとう。 突然だけど、恭也と葉璃のデビュー曲は俺が作った曲になる。 だからこうして俺が指揮取ってんだけどな、仕上げは編曲チームの彼ら四名がやるし、今後も世話になるだろうからしっかり挨拶しとけ」
「……はい、よろしくお願いします」
「はい。 ありがとう、ございます。 よろしくお願いします」


 聖南がそう言うので、俺と恭也は同時に立ち上がって彼らにペコッと一礼し、また椅子に掛けた。

 俺は、自分から距離を置いたはずなのに、パソコンをいじる聖南の横顔に釘付けだった。

 久しぶりだからか、眼鏡を掛けているからか、聖南の髪が少し短くなっているからか、金色っぽい茶髪のチャラかった髪色が落ち着いているからか、どれだか定かじゃないけど……認めないわけにいかない。

 私情は挟まないつもりだったのに、こうも何もないような素振りを通されると、勝手だって分かってても、やっぱり少し寂しかった。


「ほんとはここで粗方決めちまおうと思ったんだけどな、二人の実力侮ってた俺がいる。 今歌ってくれたのは録ってあるから、マジで何日かかけてパート割り練りたい」


 ひとまず今日は解散で、と聖南に矢継ぎ早に追い返され、ここに到着してから瞬く間に一時間ほどが経っていた事に気付く。

 学校帰りでここに寄ったため、辺りは寒そうに暗くなり始めていた。

 前髪を暖簾に戻した恭也と、緊張を引き摺ったまま狭い廊下をトボトボと歩く。

 また、聖南と会えない日々がやって来るんだ。

 突然忙しなくなった日常に、戻るんだ。

 ……俺は……時間をかけて何を考えて、今後どうしたいんだろう。

 いざ聖南に会ったら、ぎゅってしたくてしょうがなかった。

 車が正面玄関前に停車し、林さんが駆け寄って来る。

 帰らなきゃいけないのに、まださっきの部屋に聖南が居ると思うと足が動かなかった。

 戻りたい。

 聖南の声が聞きたい。

 もう連絡しないと言った聖南が、まだ心変わりしていないのなら、俺は、───。


「葉璃は俺が送るから」
「っっ」


 立ち竦んで動かずに居た俺の背後から、聞きたかった聖南の声がした。 腕を掴まれて、慌てて振り返る。

 現れた聖南と俺の関係が見えない林さんは、戸惑いを隠せない様子でオロオロしていたけど、隣りに居た恭也は暖簾の奥からジッと聖南を見ていた。


「……もう痛い事、しないであげてくださいね」


 すると何を思ったか、恭也が林さんには聞こえないようにわざわざ聖南の耳元で妙な事を口走った。

 俺と聖南の仲を知る恭也は、頑張って、と言ってるかのように薄っすらと笑顔を浮かべ、林さんと去って行く。

 フッと聖南も不敵に口元だけで笑ったあと、腕を掴まれたままだった俺は誰も居ない応接間のような場所へ連れ込まれた。

 グッと壁に押し付けられ、俺はその強引な動作に聖南を睨み上げようとしたけど、眼鏡姿のチャラくない聖南は前にも増して色気ムンムンでたじろいでしまった。


「……っ、ちょっ、聖南さんっ、ほんとこういうとこに俺引っ張り込むの好きですよね」
「あぁ、そういう趣味があんのかもな。 てか、痛いことすんなよって恭也言ってたけど、どういう事?」
「たぶん見られたからです。 ……キスマーク」
「はぁ!? なんで裸見せてんだよ!」
「見せたくて見せたわけじゃないですよっ。 恭也、マジック使ったんです! 一瞬でこのボタン全部外れたんですもん!」
「何だそれ……マジック……? はぁ、……二度と誰にも裸見せるなよ」


 目の前の聖南は、怒ったりため息を吐いたり忙しい。

 そんな色男を前にして、ついさっきまで寂しいなんて思っていた俺はこの状況が嬉しくてたまらなかった。

 目の前に聖南がいる。

 会話をしている。

 どんなに会いたかったか。

 触れられたかったか。

 今この瞬間にも、うっかり泣いてしまいそうなほどの喜びを感じていた。



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