必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 付き合っている事も早々に話してしまいたいが、それは葉璃の高校卒業やデビューが落ち着くのを待つ方が絶対に良いので、今日は先輩後輩の間柄を強調して葉璃ママを安心させてあげる方を選んだ。


「はい、スマホ。 良かったな。 葉璃ママ超いい人じゃん」
「……葉璃ママ? いや、聖南さんがちゃんとした話し方してたからですよ。 あんな風にも喋れるんですね」
「どういう意味だよ」


 遠慮なく、さも意外だと言いたげに苦笑している葉璃のほっぺたをプニッと摘んでやる。


「痛っ、いひゃい!」
「こりゃ」


 さらにもう片方のほっぺたも摘んで両サイドに引っ張ると、聖南の腕をパタパタと叩いて「ギムギム(ギブギブ)!」と言っているので余計笑ってしまった。


「もうっ、聖南さん、自分が思ってる以上に力強いんですから、容赦なくしないで下さい!」


 痛かった~と言いながら両頬を擦っている素直な葉璃があまりに可愛くて、毛布ごとぎゅっと抱き締める。


「将来マジで葉璃を貰いに行かなきゃなんねぇからな。 少しでも印象良くしときたかった」
「心配しなくても大丈夫ですよ。 母さんのあのはしゃいだ声聞いたでしょ? CROWNのセナに面倒見てもらえるなんてラッキーね!って言われましたよ」
「それは良かった。 あんなスキャンダルあった後だから、どんな反応くるかってビビっちまったよ」


 警察沙汰の怪我で入院し、その後すぐの聖南バッシングは今や鎮火の一途ではあるが、ついこの間までの荒れっぷりは良い印象とはかけ離れているので、少なからず罵倒されても仕方ないと覚悟していた。

 そう心配していた聖南も、とても好意的だった葉璃ママの声色によって不安要素が消え、安堵したのだ。

 抱き締めていた腕を離し、持ってきた冷えたミネラルウォーターを手渡すと、それを受け取りながら葉璃は言う。


「あのスキャンダルは、悪い事言って話を大きくしようとしてたの、聖南さんの事知らない人だけだったじゃないですか。 その……過去の人とかもインタビュー受けてるの見ちゃったけど、みんな悪く言ってなかったです」
「あー……それ見たからか。 葉璃がここでなんかゴチャゴチャ言ってたもんな」


 過去の人達みたいに綺麗じゃない、自分にはおっぱいがない、一回だけならいいです、などと恋愛に慣れていない葉璃が思い付きそうにはないような事を様々口走っていて、妙だと思っていたのだ。


「え、あ、いや……インタビューのやつはあの日の後で、家のテレビで見ましたよ」
「は? じゃあ何で急にあんな事言ってたんだよ。 あれ確か眼鏡マネの佐々木とメシ行った日だったよな?」
「……それは……ご飯行く前に、佐々木さんの仕事でテレビ局に寄った時、偶然その……女の人達が三人廊下を歩いてきて、そういう話してたから……」
「あぁ? マジで? 三人って……」
「はい。 あ、でも一人はまだみたいな感じでした。 あとの二人がもう一回お願いしたいって言ってたから、みんな聖南さんとは一回だけの関係なのかなって、思って……」


 もはやどこの誰と関係を持っていたかなど思い出せもしないので、それが誰だったのか聖南には検討も付かなかった。

 誰が聞いているか分からない局の廊下で、そんな下品な話をしていたなど誰とも覚えていない女達に相当に腹が立つ。

 ただ、偶然その場に居合わせてしまった葉璃がそんなにも生々しい聖南の過去を知ってしまった時の気持ちを考えると、すべては大元である聖南が悪い。


「だからあの時、一回だけなら、とか言ってたんだな。 ……ごめんな、嫌な事聞いちまったよな」


 聖南の想いを受け入れてくれようとしていた矢先にそんな話を聞き、実際にその女性の姿を見たのならば、葉璃がネガティブだとか卑屈だとか関係なく、悪い方へ考えて当然だろう。

 聖南は非常に面食いなので、一夜限りでも気に入った者しか抱いてこなかった。

 見てくれだけは抜群に良かったであろうその女性達を見てしまったのであれば、葉璃の卑屈さに火を付けてしまうのも致し方ない。

 佐々木と食事に行った事を責め立てる資格など、聖南には無かったのだ。

 ……可哀想な事をした。

 葉璃は言い表せないほど傷付いたに違いないのに、聖南はその理由も知らずに「またネガティブ発揮してる」と思い込んでしまっていたあの日の自分を、ぶん殴ってやりたい。


「もういいんです。 過去は過去ですもんね。 聖南さんが浮気しないでいてくれれば、ちゃんと信じます」
「こんなに葉璃の事好きなのに浮気なんかするかよ。 ……って言っても、今の俺じゃ説得力ねぇだろうから、態度で示すっきゃないな」
「そうです。 だから、信じさせて下さいね」
「言うようになったな、マジで」


 過去を過去として受け止めてくれた葉璃が、別人のように気丈に凛としていて、口で聖南が負かされる日がこんなに早くやって来るとは思わなかった。

 タジタジな聖南を見て、葉璃が不意打ちでフッと小さく微笑んだ。


「────っっ!」


 そのあまりの可愛さに聖南はまたも心臓を撃ち抜かれてしまい、胸元を押さえて大袈裟にドサッとベッドに転がる。

 以前のような、卑屈でネガティブな葉璃もビクビクしている小動物のようで可愛かったが、この素直で真っ直ぐな葉璃もまた違う愛らしさがある。

 本当の葉璃が、聖南の前でにこっと微笑んでいる。

 幸せだ。

 幸せという言葉しか思い付かない。

 なぜそんなに可愛く笑うのだろうか。

 顔は元々タイプだ。 やや細過ぎるが男性らしさがあまりない、かと言って女性的でもない危うげな体の線も好きだ。

 聖南に向けられる愛おしい声は確かに変声期を迎えているはずが、喉仏は何処。

 しかし性器はちゃんとある。 小ぶりで、何も知らないピンク色の可愛らしいものが、聖南と同じ場所にある。

 同性だからなんだと、性別を知ってすぐから聖南の思いも考えも何も変わらない。

 とにかく葉璃は可愛い。 全部だ。

 要するに、葉璃ならば何でも可愛いのだ。



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