必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 お昼は何を食べたいかって聞かれた俺は、しばらく考えて出来合いでもいいからお弁当にしませんかって言ってみた。

 ここに来ると毎回ケータリングサービスで、確かに何もしなくても全部やってくれて味も間違いなく美味しいんだけど、あれが一体どれくらいのお値段なのか調べるのも怖くて、毎回そんなに気を遣わないでほしいとの思いだった。

 すると聖南はあんまり気乗りしない様子だったから、なんでだろって思ったら、


「せっかく葉璃と一緒にメシ食うんだからいいもん食べさせたい」


などと嬉しい事を言ってくれる。

 でも俺は一般庶民だし、そんないいものじゃなくてお弁当でも全然構わないってゴネた。

 俺は体が言う事聞かないし(聖南からはセックスの後だから外に出したくないって意味分からない事を言われた)、聖南はCROWN始動まで簡単には出歩けないしで、渋々ながら聖南が宅配サービスのアプリを開いてくれて、それを二人で見ながら注文した。

 付き合いたてのカップルみたいに、好き嫌いを言い合ったり食の好みの話をしたりでそれだけで数十分費やしたけど、何気ない会話もすごく楽しい。

 俺なんかってなるべく思わないようにしてから、目の前が開けたように聖南の顔も見られるようになってきたし、こうして自分のいい所や悪い所もちゃんと言えるようになってきた。

 それは多分に、春香と恭也のおかげもあるけど、変わろうとしたきっかけは何より聖南だったから。

 グジグジな俺ごと好きだと言ってくれた聖南は、俺にとっては何にも代え難い存在で、これから先もできる事ならずーっと一緒に居たい人。

 変わったな、蝶になった、と僅かだった変化にもいち早く気付いてすぐに受け止めてくれた大切な恋人。

 ソファで寛いでいる今も、離れたくないと言わんばかりに肩を抱き寄せられて俺と聖南はピッタリとくっついてる。

 大きなテレビでお昼のワイドショーが流れているのを、こんなにも穏やかに、しかも年上の男の恋人と見てるだなんて、数カ月前の俺は想像だにしてなかっただろうな。


「あ、この人……」
「ん?」


 幸せな微睡みの中、何となく視界に入れていたテレビの中に見た事のある顔を見付けて指差した。


「いえ、初めて事務所にご挨拶に行った時、この人がちょうど居たんですよ。 名前は分からないですけど」
「この人って、荻蔵斗馬(おぎくら とうま)?」
「そういう名前なんですね。 ジロジロ見てきて怖かったので、よく覚えてます」


 マネージャー(仮)の林さんと恭也と、事務所へ初顔合わせに行った時の事。

 応接間までの廊下で、この荻蔵斗馬という男とすれ違ったんだけど、不躾なほど上から下まで値踏みするように見てきて嫌な人だった。

 振り返ると、すれ違った向こうからもまだ見てきてて怖くなったところに、何かを察知した恭也が俺の背後に立ってくれて視界を遮ってくれたんだ。


「ジロジロ見てきた? 斗馬は年上だけど芸歴上は後輩だから今度会ったらぶん殴っとく」
「え!? やめてくださいよっ。 また聖南さん謹慎なっちゃいますよ! あ、殴って公になったら暴行したって事で捕まっちゃうんじゃ……!?」
「捕まったら葉璃と何日か会えなくなるからやめとくか。 てかまぁこいつ俳優だから、俺らとあんま接点ねぇし滅多に会わねぇと思うけどな」
「じゃあいいです。 もし会っても視線合わせないようにしますから」


 俳優だと聞いて納得するほどの背丈や顔立ちだとは思うけど、全体的に、男!って感じが強過ぎて俺は苦手だった。

 聖南は反対に、エッチの時はギラギラした瞳で俺を見てくるけど、普段はそんなの微塵も感じさせない、クールかつ穏やかで、どこかアンニュイな感じのある独特な雰囲気を漂わせてる。

 まるで正反対の荻蔵という男は、若干キツネ目のようでそれもちょっと怖かった。

 俳優だからってあんなジロジロ見てきていいわけない。


「大丈夫だ、俺がいる限り葉璃を嫌な目には合わせないから」
「…………はい。 あ、お弁当きた!」
「……腹減ってたのか? 受け取ってくるから待ってて」


 かわいーなぁ、と呟きながら玄関へ向かう聖南の背中を見て、もう一度テレビに視線を戻す。

 荻蔵斗馬が誰かと熱愛発覚かと報道されていて、関係ある人ない人が様々喋ってるのを黙って聞いていた。

 来クールから始まる、荻蔵が準主役のドラマの番宣用にわざと撮られたのかもしれないってのが一番濃厚らしく出演者がそうまとめてて、そんな事もあるんだ~と感心する。


「そんな熱心に見るもんじゃねぇだろ。 妬くぞ」


 宅配のお弁当を下で受け取ってくれていたコンシェルジュが玄関まで届けにやって来て、それをダイニングに置いた聖南がテレビにかじりついていた俺に「おいで」と手招きしてきた。

 インターホンに映ってたのは宅配の人っぽく無かったから誰かと思ったら、そんな人まで常駐するようなマンションだったのかって俺は今さら驚愕した。

 コンシェルジュなんていう言葉は、人生で一度言うか言わないかくらいのレアな単語だ。

 ジロジロ見てきて怖かったって言ってたわりには荻蔵の話題で持ちきりのテレビをジッと見てたからか、弁当を広げながら何気なく消されてしまった。


「俺が動けるようになったら色々メシ屋行こうな。 ノンアルあるとこ」
「もういいじゃないですか、それ……」
「よくねぇ。 間違っても未成年のうちは酒飲むなよ?」
「はーい。 じゃいただきまーす」


 耳の痛い事を言われてプイッとそっぽを向いた俺の髪をぐしゃぐしゃにした聖南は、いくらか機嫌が良くなっていて安心した。

 宅配とは思えないクオリティーの高いお弁当を、昨日の濃密な時間によって学校を休んだ背徳感での中、二人で味わいながら食べる少し遅めのお昼ごはんは格別の味がした。



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