必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 思わぬ再会で滅入った気分が、葉璃との甘酸っぱい電話で聖南の心は無事持ち直した。

 スマホを握ったまま、葉璃が恋しくてしばらく動けずに居たが、編集担当からの「何時頃到着されますか?」との電話で途端に仕事モードへ切り替えざるを得なくなった。

 鬱々とした気持ちのままでは乗り切れなかったであろう午後からの仕事にも、葉璃が力強く背中を押してくれたので頑張れる。

 そして家に帰れば可愛い可愛い葉璃が聖南を待っていてくれているなんて、夢心地であった。

 きっと午前様になるだろうから、待ちくたびれて葉璃は眠ってしまっているだろうけれど、それでもいい。

 葉璃の存在を感じられるのであれば、聖南は何が起きても耐えられる。


『っしゃ。 がんばろ』


 撮影スタジオの現場へ、聖南は走り出した。

 三十分ほどで到着し、中へ入るとよく知る担当者が嬉しそうに駆け寄ってきて、「いよいよ仕事再開だ」と二ヶ月ぶりの感覚に気合いを入れ直す。


「セナさん! お久しぶりです!」
「この度はめちゃめちゃ迷惑掛けてほんとにすみませんでした」


 本来なら入院していた時期に入っていた仕事で、不可抗力とはいえ内容の差し替えを余儀なくさせてしまった馴染みの雑誌なため聖南は礼儀正しく頭を下げた。

 この担当者と出版社の社長には目覚めてから早々に詫びを入れていたが、それで聖南の気が済むはずもない。


「いいんですよ! セナさんも大変でしたね」
「まぁ大変っつーか、俺が全部悪いっすから」
「この波に乗って売り上げも超々見込めるんで、こちらとしてもセナさんが戻ってきてくれて嬉しいですよ!」
「そう言ってもらえてありがたいっす。 傷跡生々しいんで半裸は無理なんだけど。 先に演出確認していい?」
「そうですね! アカリとサオリももう控え室で準備して待ってます」


 すでにヘアメイク担当の二名もスタンバイしているらしいので、演出確認もその場でやる事にした。

 所謂、時短だ。


「あー今日も麗々(ララ)となんだ。 なんか俺とのマッチング多くね?」


 演出企画書の表の欄に聖南と麗々の文字があって、「そう言えばそうですね」と言うメイク担当のサオリと鏡越しに苦笑し合った。

 前回もこの麗々という女性モデルとタッグを組み、かなり際どい密着シーンもいくつか撮影した気がする。

 以前、深夜にまで及んだ撮影が終わるや意味深な麗々の視線がビシビシ飛んで来ていた鬱陶しい記憶を思い出して、聖南はさらに渇いた笑みを溢した。

 傍で聞いていたヘア担当のアカリが、聖南の髪を撮影用にセットしながら頷く。


「確か前回も前々回もご一緒だったと思いますよ~。 もしかしたらHotti側がカップル撮影でお二人を選んでるのかもですね」
「カップル撮影か……」


 それで似たようなコーディネートが多かったのかと納得した。

 それならそうと、そこまで説明してくれよとちょっとだけ不満を覚えたが、口に出すほどでもない。


「それよりセナさん、髪型でだいぶ印象変わりましたね」
「あ? だろ? チャラいって言われたから大人しめにしたんだよ」
「確かに! 以前のセナさんをほんの少しいじったら、ギャル男雑誌の表紙でしたもんね」
「ギャル男!? マジで? そんなチャラかった?」
「はい」
「はい」
「同時に頷くなよ」


 周りからそんな風に思われていたとは知らなかった。

 明るい髪色に慣れ過ぎていて、単に気に入っていたからずっとそれだっただけなのだ。


「今のもすごく似合ってますよ。 色気増しましたもん」
「うんうん。 印象がガラッと変わって、また素敵になりましたね!」


 聖南の第一印象が最悪だったと葉璃に言われた事に実はショックを受けていて、少しでも印象を良くしたい一心だったのだが、仕事の休み明けで反省している感も出せているようで安堵した。


「そりゃ良かった。 あーってか今日これどんだけ撮んの」


 担当から渡された企画書をパラパラとめくっていると、いつもの倍以上はあって驚いた。

 ちょうどそこへ担当者が入ってきて、驚く聖南にピースサインを向けてくる。


「セナさんの特集号です! 今月の予定記事二つ分のページ数、もぎ取ってやりましたよ!」
「もぎ取んなくていいって。 俺は少ーし出られれば十分だったのに」
「何をおっしゃいますか。 セナさん復帰の一番最初のメディア仕事が我がHottiでしょう? 顔が出ないラジオもお休みしてたようですし。 記念すべきセナさんの復帰号ですよ! 特集組まずにはいられません!」
「だからだな、取材まで入ってるって聞いて変だと思ったんだよ」


 いつもの撮影+簡単なミーティングであれば話は分かる。

 取材と聞いてこうなる事は何となく予想していたけれど、企画書を見る限り撮影自体も一日では撮りきれないかもしれない量だ。


「それですごく急なお願いなんですけど……予備日に二日欲しいんですけど、無理ですよね?」
「予備日で二日!? ま、まぁメディアの仕事はこれから入ってくるって段階だから今はいいけど……って事は、ロケもやる?」
「はい、もちろんです! 何たって巻頭特集ですから!」
「っつーと、元々のスケジュールが二日で、さらに二日って事?」
「出来れば……」
「了解。  長年お世話になってる媒体のHottiさんだから頑張るよ」
「やったぜ! だからセナさん好きです! 目標三十万部! 頑張りましょう!」
「そりゃ無茶だろ」


 気合いもやる気も十分な担当者の様子を見て、やれやれと肩を竦めながらも、あんなに世間を騒がせた聖南にこれほど期待し求めてくれるのは、正直この世界に長くいる者としては嬉しい限りだった。



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