必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 登校中の生徒からの視線を避けるため、ちょっと離れた所で聖南と別れた俺は、まんまるのコンビニ袋を持って教室へ入ると、それを待ってたかのようにすぐにのそっと現れた恭也に「何それ?」と笑われた。

 一緒にレコーディングスタジオに行った日、俺は自分の気持ちを伝えて聖南と丸く収まった事を一番にこの恭也に話したから、何となく察したみたいだ。


「昨日、終わったら急いで、帰ってたよね。 それ、セナさんからだね」
「そう……食い切れなかったらあげてって言われたんだけど、俺友達は恭也しか居ないし……」
「でもさ、ほら……そんなの持ってるから、視線感じるでしょ? クラスの中で、孤立してるって思ってるのは、葉璃だけだよ」


 だから話し掛けてみれば、って恭也は言うけど、そんなのいきなり言われても俺にはハードルが高過ぎてどうしていいか分からない。

 今まで一度たりとも、俺から誰かに話し掛けるなんてした事がないんだ。

 でもせっかく聖南が買ってくれたものを無駄にはしたくなくて、恭也にもいくつかお裾分けしたあと、物凄く勇気を振り絞って立ち上がる。

 強くならなきゃって思ったばっかりなんだから、ここでウジウジしてたらダメだ。

 そう思ってはみたものの、何名か固まって話している輪の中に入るなんて手が震えてしまう。

 心細くて振り返ると、恭也は俺の席に座って事の次第を見守っていた。

 ……こうなったら、もっと先で使う予定だったかき集めた勇気をここで使うしかない。


「あの……これ、今朝知り合いが買ってくれたんだけど、とても食べ切れる量じゃないから貰ってほしい……迷惑じゃなければ……」


 ポツポツと1人ずつに声を掛けるのと、派手そうな数名の男女グループに声を掛けるならどちらがいいかと考えて、派手なグループの方を選んだ。

 この人達に言えば周囲にも自然と伝わるから、一回の頑張りで済むと思った。


「……え?」
「何なに~?」


 ドキドキしていると、男子生徒の方は急によく知りもしない俺から話し掛けられて戸惑っているみたいだったけど、女子生徒は袋の中身を覗いたりしていて好感触だ。


「おにぎりとかサンドイッチがいっぱいだよ!」
「ほんとだー!」
「これ貰っていいの? 全部?」


 このグループはいつも話し声が大きいので、聞きつけた似たような人達も袋の中身を見に来て「マジで?」「貰っていいのか?」と何人もが聞いてきた。

 それにいちいち頷いてたけど、俺の勇気メーターが早くも底を付いた。


「それ、あの……良かったらみんなで分けて。 貰ってくれてありがとう」


 誰とも視線を合わせる事なく、袋に群がる生徒達へペコッと頭を下げて俺は逃げるように恭也の元へ戻ると、彼は前髪の奥で微笑んで待っていた。


「よくできました」


 みんなが居る前で嬉しそうに頭を撫でてきた恭也は、あっちに夢中だから誰も見てないよ、と俺の心を読んでそっと席を立った。


「…………うん」


 間もなく担任がやってきてHRが始まり、俺は味わった事のないドキドキに胸を押さえていた。





 休み時間の度に来ていた恭也が、今日に限って一度も来てくれなかった。

 その代わり、朝の出来事で俺の壁が低くなってたせいか、色んな人から声を掛けられてどうしていいかわからなかった。

 地味目な生徒から派手な生徒まで、名前も分からない人達に俺の席を取り囲むようにして包囲され、逃げ場を失った俺は何とか愛想笑いで乗り切ったつもりだ。

 その日から俺は、少しずつクラスに溶け込んでいくようになった。

 まだ自分から話し掛けるなんて出来なかったけど、周りから自然と「おはよう」や「また明日な」って声を掛けられ、それに対応していくのに精一杯だ。

 でも、怖い怖いと怯えていた日々から考えれば、とてつもない変化だった。


「孤立してると思ってるのは、葉璃だけだって、言ったでしょ。 葉璃と話してみたいのに、話し掛けにくいって、周りが言ってるの、俺ですら知ってたよ」


 大塚事務所でのレッスン帰りに立ち寄ったファミレスで、いつものようにココアを持ってきてくれた恭也がそう笑顔で言った。


「そんなの知らないし……」


 ありがと、とココアを受け取ってストローを挿し、ちびちび飲みながら困惑する。

 話しかけてみたいと思われていたなんて、とても信じられなかった。


「いつかこうやって、葉璃がクラスに馴染める日がきたらなって、思ってたけど、俺じゃ役に立てないし……。 だから、本当に嬉しいよ。 セナさんのおかげだね」


 俺と一緒に居る恭也は誰に話しかけられても相変わらず無口だったけど、そういう人なんだと認識されたみたいで、俺の横に居ても違和感なく毎日を過ごしている。

 恭也は話すのが苦手でゆっくりゆっくり考えながら喋るから、周囲の会話のスピードについていけないと言ってたけど、それは今の俺も同じだった。

 ただそれでも、そんな俺と恭也の特異性を認めてくれたクラスメイト達の事を、怖い存在ではないかもしれないと思えるようになったから物凄い進歩だ。

 絶対に俺一人じゃ食べきれない、袋いっぱいの食べ物を買った聖南が、クラスの奴らにあげてと言った真意は定かではないけど、確実にそれがこの大変化のきっかけになっている。


「そう、だね……」
「セナさんの作戦、だったりして」
「作戦?」
「うん。 俺たち、来年か再来年にはデビューするって、決まってるでしょ? 俺も、葉璃も、この性格を何とかしないといけないじゃない。 最初のうちは特に、色んな仕事をこなさないといけないと思うから、少しでも他人との接触の免疫、付けてあげたいと、思ったのかも」
「そこまで考えてたらスゴイよね……」
「そうだね。 あのコンビニの袋一つでこうなるって、予測できてたとしたら、凄いことだね」


 聖南はあの時、コンビニ楽しい、と他意が無さそうに言ってたから、果たしてそこまで考えてたのかは分からないけど。

 変わり始めた俺なら、クラスの奴らに声を掛ける事も出来るだろって聖南なら言いそうだ。

 俺が変わろうと思えたきっかけも、関わることを恐れていたクラスメイトとの接触も、そういえば何気なくそうなるように仕向けている、無言の聖南の後押しだったのかも。

 聖南とまだ知り合う前、「男が惚れる男」という見出しの雑誌に聖南が取り上げられていた事を、その時ふと思い出した。




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