必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
175 / 541
32❥

32❥4




 二人ともの唇周辺が大変な事になっている


 楽屋だからあるだろうと踏んでいたメイク落としで、聖南は急いで葉璃と自身の口元を拭った。


「もう!  聖南さんいっつもこれ!」
「悪かったって。  そんなかわいー格好してる葉璃がいけねぇんだろ。  俺は少ししか悪くねぇ」
「俺も悪くないです!  てかもうすぐ本番なんですよ!  ヤバイよ~口紅どうしようっ」
「落ち着け、調達してきてやるから」


 本番間近だというのは聖南も分かっていたが、我慢出来ないほどに葉璃が可愛過ぎた。

 何かあるとすぐに拉致される葉璃が不満に思うのも仕方ないのかもしれないが、とにかく可愛い過ぎたのだからしょうがない。

 それしか言い訳がないのだ。

 壁時計を見ながら狼狽える葉璃を残し、さすがにここには施す物が無いのでメイク室へ行こうと聖南は飛び出す。

 するとそこに、偶然アキラとケイタがスタジオに向かおうとしている所に出くわした。


「わっ!  ビックリしたぁ。  セナこんなところで何してんの?  あと十五分でmemoryの出番だよ?  見に行こー」
「悪い、メイク室行って赤系の口紅何でもいいから持ってきて。  ぷるぷるするやつ」
「えぇ?  何それ、セナが塗るの?」
「…………もしかしてそこにハルいんの?」
「頼むから急いで!」


 事態を呑み込めていないケイタはそのままそこに居たが、一方のアキラが「呆れた」と呟いてメイク室のある方へ走り出した事で、聖南はホッと胸を撫で下ろす。

 長男気質の彼は非常に察しが良かった。


「ねぇ、どういう事?」


 いつも自分は置いてけぼりだと不貞腐れたケイタは、若干イラついた目で聖南を見た。


「こういう事」


 聖南は仕方無しに周囲を確認した後、楽屋の戸を開けた。

 そこには壁際でしゃがんだ葉璃が、まだ「どうしよう、どうしよう」と唸っていた。


「あ、! ハル君!  ……ん、ハル君??」
「……今はハルカです……」


 葉璃を見付けたケイタが首を傾げながらそこへ駆け寄ると、しゃがんだまま "どうしよう" の顔で訂正していて聖南は咄嗟に笑いをこらえた。

 大人としてあまり良くない事ではあるが、もし万が一本番に遅れようとも何とかしてやる力はある。

 そのため聖南はそれほど慌てていないけれど、いくつものプレッシャーを抱えた葉璃は先刻の聖南とのキスすら後悔していそうだった。

 社交的なケイタはしゃがみ込んでその顔を覗こうと躍起になっているが、葉璃はあからさまにその視線から逃げている。

 思えばケイタと葉璃はまだ、挨拶以上の接触がないからかどことなく壁があるのかもしれない。


「ハルカ君?  あ、いや、影武者中だからハルカちゃんって呼んだ方がいいのかな」
「………………」


 ケイタと葉璃は歳が近いので仲良くなれるだろうと思ったが、根本的な性格が違うのでまだまだ時間がかかりそうだと、堂々巡りな二人を眺めていた聖南は苦笑した。

 何度も葉璃の顔を覗き込むケイタと、ぷいっ、ぷいっとそれから逃れる葉璃は見ていて微笑ましいとは思った。

 聖南の相手が男である葉璃だと判明した際、ケイタは何の偏見も見せずに「セナはやっぱ最先端いってる」とすぐさま応援姿勢に入っていた。


「ケイタ、出番まであと何分?」
「えっとねー……、あと十一分」
「余裕だな。 五分前に前室滑り込めばオッケー」
「ま、大丈夫だね」


 聖南が赤のスパンコールならケイタは紫のスパンコールで、どちらも肩口にもふもふを装備し長いマントを携えた綺羅びやか過ぎる二人は、狼狽える葉璃とは違いのんびりしたものだ。

 葉璃はしゃがむのをやめて床にペタンと座ると、体育座りで足の間に顔を埋めた。


「オッケーじゃないですよ、もう……」


 そう言いながらも、リップグロスを持って走り込んできたアキラも交えての狭い楽屋内での一騒動は、葉璃の緊張をかなりなくしてくれたようだった。

 口紅はどうやって塗るんだとそこで初めて慌てる聖南と、こうやるんだよ!と根拠のない自信で奪うアキラ、さらにそれを奪ったケイタが、「舞台でいつもやってるから」と最終的に葉璃へ紅を施してやっていた。




感想 3

あなたにおすすめの小説

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。