必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 CROWNが三人揃っているとすぐ分かるな、と入室と同時に社長が笑った。


「スタッフもそわそわ、室内からもざわざわ、事務所内が落ち着かん」
「お疲れーっす!  あけましておめでとうございますっ」
「あけましておめでとうございまーす」
「あけおめ~」
「おう、セナ、アキラ、ケイタ、今年もよろしくな」


 幼い頃から知り、かつ三人ともがまともな休暇も取らず第一線で働いてくれている事で、社長も彼らを大事な息子達のように思っている。

 ドカッと革張りのいつもの椅子に掛けた大塚社長は、にこやかに三人へ笑顔を向けた。

 聖南に限っては、父親が父親なのでこの社長が親代わりと言って良かった。

 中学三年の大切な進路相談にも父親のフリをして来てくれた事を思うと、芸能人だからといって金髪で素行も悪かった聖南の親代わりとして教師と対面した罰の悪さがあっただろう。

 今になってそのありがたみを感じ、そして聖南は決して独りではなかったと改めて強く思った。


「で、なんだ?  三人揃って挨拶など今まで無かったじゃないか。  重要な話でもあるのか?」


 熱いお茶を啜って社長がそう切り出すと、聖南はようやくサングラスを外した。


「あぁ。  ツアーに葉璃と恭也も同行させようと思うんだけど。  二人は四月から高三で学校も疎かには出来ねぇだろうから、バックダンサーとしてCROWNの曲を二曲だけな。  あと、ツアー最終日……確か八月末だったと思うんだけど、二人にそこでデビュー曲をやらせようと思ってる」


 アキラとケイタは、社長の反応をしばし見詰めていた。

 腕を組み、うむ、と何やら難しい顔でお茶受けを見ていたかと思うと、直後、非常にあっさりと頷いた。


「うん。  いいんじゃないか」
「だろ。  よし、決定な」
「早っ」
「早っ」
「スタッフにはセナから話してやってくれ。  近々の方がいいだろう」
「おっけー」


 葉璃と恭也のユニットが、CROWNとは完全に切り離して考えていない事を伺わせるほど即答だった。

 社長と、そしてCROWNのプロデューサーを含むスタッフ達、葉璃と恭也のデビューで動いているスタッフに話を通せば本決まりとなり、すべてが動き始める。

 近々の方がいいと社長も言うように、はじめからその体でしたと言わんばかりの企画概要変更だったが、聖南はその全権を任された。

 葉璃と恭也が何の弊害もなくデビューし、上がり下がりはあるかもしれないが後に大成する事を心の底から夢見た。

 社長へ話をし、OKを貰った事で聖南の中でもようやく仕事モードのスイッチが押された。

 葉璃に会えない期間はそれ相応に聖南もきちんと仕事をしていかなければ、アキラが言うように、前進し続ける葉璃から見捨てられてしまう。

 昔の自分とは違うのだから、葉璃を心の糧に日々邁進していこう。

 スイッチがオンになった聖南は、スタッフと話をしなければとサングラスを掛けて早くも社長室を後にしようと立ち上がった。


「あのな、セナ。  年末ともう一度同じ事を言うが、嫌がらずに聞いてくれ。  主管の渡辺と、お前の父親と会食の話がある。  以前も話した通り一度断ったのだが、時期をずらして春辺りはどうかと再度打診してきた。  どうする」


 社長は、立ち上がった聖南に父親との接触はどうするかと尋ねてきた。

 父親が社長になって直接関わるようになったら腹を括ると言っておいたので、ひとまず二度目の誘いがあった事だけ伝えておこうと思ったらしい。

 黙って聞いていたアキラとケイタは、聖南の生い立ちを知る数少ない人物なので、社長は二人の前でも構わずその話を出した。

 聖南の反応は分かっていると言いたげに、「断っておくから」と社長は言いかけたのだが……。


「いいよ」


 聖南は扉のノブに手を掛けながら、社長を振り返る。

 予想外の反応に、社長は驚いて椅子から腰を浮かせて身を乗り出した。

 心境の変化にしては大きすぎるそれに、驚きを隠せないのはアキラとケイタも同じであった。


「いいよって、お前……この間は嫌だの一点張りだったではないか」
「……ん、いいかなって思っただけ。  後回しにしてもどうせ会わなきゃなんないなら、早い方がいい」


 聖南と父親との確執は、アキラとケイタも幼い頃から常々その目で直接見てきた。

 育児放棄と言っていいレベルの放任により、愛情を知らない聖南が時折記憶障害を引き起こしている事も目の当たりにしているので、特にアキラは聖南の返事に耳を疑った。


「……春の会食、そう返事を出しておくが。  本当にいいのか?」
「いいって言ってんじゃん。  とりあえずは仕事相手として会うだけだろ?  俺の父親です、なんて自分から言うわけじゃないし、向こうもそのつもりで来るわけねぇだろうからな。  いいんじゃないの、別に」
「分かった。  日程はまた改めて連絡しよう」
「よろしく」


 短く返事をすると、聖南は社長室を出た。

 広報部へ行ってスタッフに会うと、葉璃と恭也の件を口頭のみで伝えて、後から企画書持ってくるからと言い残して早々に車へと戻る。


『……ま、大丈夫だろ』


 動揺していないと言えば嘘になるが、会う事を拒絶しなかったのは、大いに葉璃の存在のおかげだった。

 聖南が過去を話した後、分かりやすく動揺した姿を葉璃自身に見られてしまったけれど、それでも葉璃は受け止めて優しく髪を撫でてくれた。

 聖南から離れないと強く言ってくれた葉璃が心に居るのなら、父親と対面する事だって出来るはずだ。

 今までの事を水に流そうなどとは思わないし、あの人を父親だとは思えないという気持ちは一切変わらない。

 けれど、拒否し続けても何も変わらないという結論に至った。

 どういう経緯、気持ちで聖南を見捨てたのかは分からないが、かけてもらった事のない親としての愛情はすでに諦めが付いているので、仕事として割り切ればいい。

 聖南ももう大人だ。

 心が成長しきれていない、大人。

 かけてもらえなかった愛を目一杯注いでやりたい恋人がいる今、聖南は父親に縛られなくてもよくなった。

 たとえ愛情を受けてこられなくても、与えられる愛が聖南の中には確かにある。

 それが分かっただけでも、父親と対面する事など怖くない。




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