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しおりを挟む成田の運転する車の後部座席で、聖南は足を組んで不機嫌さを顕にしていた。
「クソっ……あいつ干してやろうか」
「やめとけ。 帰る間際もすごく謝ってきてただろ? もう許してやれよ」
「許せるかよ! 動くなって何回も言ったのに……!」
切れた唇にリップクリームをこれでもかと塗りたくっている聖南は、未だ怒りは治まらないでいた。
あの後、麗々はマネージャーと共に詫びにやって来たが、聖南は許さなかった。
カップル撮影を断る、と言った事で編集担当まで慌てて走り込んできたが、その話は後日にしてくれと聖南は怒りのままに成田の車に乗り込んで、今に至る。
「セナ、怒ってるところ悪いが仕事の話な。 ツアー終わりにセナにミュージカルの話きてるけど」
「ミュージカル? 受けなくていい。 俺芝居ムリ」
「ミュージカルだから芝居は少しだぞ? 向こうサイドがぜひセナにお願いしたいって言ってきてるんだけど……」
「………………」
そう言われても、聖南は芝居が大の苦手だった。
小学校低学年までは舞台で頑張ってきたが、演じきる事が不得手だと自覚してからはドラマも映画も舞台もミュージカルも、芝居関係はオファーがきてもすべて断っている。
台詞を覚えて役になり切るという事の難しさは、聖南にとっては克服できない唯一の仕事だった。
そこでふと、ある人物が脳裏によぎる。
怒りを落ち着かせようと別の話題を出してきた成田への申し訳無さもあり、聖南は幾分気持ちを沈めて返答した。
「あ、……その話、恭也はどう?」
「恭也君? どうしてだ?」
「あいつのあの歌唱力と腹筋あれば舞台上でも問題ないだろ。 タッパもあるし。 あと、恭也の目利きすげぇから役者も向いてると思う」
「目利き?」
「そう。 葉璃の影武者、テレビ見てて一瞬で見破ってたらしい。 口パクもな」
「へぇ! 世間を騙せてる葉璃君のあの影武者を!」
まず、恭也があのパーティー会場の壇上で緊張していない様子だったのが、役者に向いてるかもと思ったきっかけだった。
その後、友達だからとあの完璧だった葉璃の影武者と口パクを見破っていたと知って、聖南の中で確信に変わった。
舞台の上で自分の言葉を発する難しさは誰よりも知っている。
それを飄々と、表情に少しの緊張も見せずにやりきったのは才能という他ない。
アキラとケイタのように恭也も、役者としての素質があると、聖南はあの時からぼんやりとそう思っていた。
「恭也が受ける受けないは別にして、マネージャーに話してやってみてよ。 恭也が進路どうするかにもよるし、そのミュージカルの監督がどう言うかは分かんねぇけど」
「分かった。 セナの口添えって事を念押ししておくよ」
「その方がいいなら、俺の名前どんどん使っていいから」
先刻の怒りを削ぐ話題に、聖南の表情もいくらか穏やかになった事に成田はホッと胸を撫で下ろした。
聖南の面倒見の良さは兼ねてから分かっていた事なのであまり驚きはしなかったが、知り合って間もない恭也の事をも真剣に見てくれていると知って、見た目とは違ってやはり聖南は真面目だなと思わずにはいられなかった。
ただ、今回の件はそう容易く下火にならないだろう。
これまで一度たりとも途中で仕事を投げ出す事の無かった聖南が、ここまで怒り心頭なところを初めて見たからだ。
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