必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
512 / 541
〜十二月某日〜(全六話)

4♡〜赤面な打ち上げ〜①




   嫌だ、って言われたらショックだな……と、元来ネガティブな俺が緊張しながら「ケイタさんの車に乗せて下さい」って言ってみたら、それだけでケイタさんは上機嫌になってくれた。

   すっかり忘れてたけど、一回だけケイタさんに家まで送ってもらった事があったんだ。

   それ以来二人っきりで話をする機会がなくて、CROWNの中でケイタさんに慣れるのが一番遅かった事がどうやらイジけに繋がってるみたいで、しかも、


「俺と目が合うと、まだハル君ビクッてするんだよね……」


って、遠い目をしていた。

   知り合ってすぐなら分かるけど、この一年以上、何かと顔を合わせてるのに……目が合ったら無意識に肩を揺らしてたなんて俺は気付かなかった。

   拗ねてたケイタさんの気持ちを知って、そこまで俺と仲良くなりたいと思ってくれてたなんて嬉しくて、料亭に着いてからは自らケイタさんの隣に着席してみた。

   聖南が来るまではいいよねって事で、アキラさんも珍しく笑顔いっぱいだ。

   すでに五人分の料理が並んでるこのお座敷は、聖南のパパと対面した日に四人で食事した事のある、いわば思い出の個室だった。

   アキラさんとケイタさんがあの時の懐かしい話に花を咲かせてるのを、俺は烏龍茶を飲みながらウンウンって聞いてる。

   ……早く王子聖南来ないかなって思いながら。


 ──コンコン、。


「こんばんは。 お疲れ様です」


   控え目なノックの後、顔を見せたのは二日ぶりくらいに会う恭也だった。

   映画の撮影終わりだからか、ちょっとだけ疲れてる印象を受ける。


「っ恭也!」
「お、恭也お疲れー」
「お疲れー!」
「すみません。 セナさんの、ミュージカル初日に、同行出来なくて」
 

   恭也は撮影の名残なのか、綺麗な黒髪にゆるくパーマをあてられている。

   去年よりさらに背も伸びたし、なんか俺……置いてかれてるなってつい寂しさを覚えちゃうくらい、恭也はこの一年で大変貌を遂げた。

    そんなイケメン恭也は、空いてたアキラさんの隣に腰掛けながら二人に申し訳無さそうに詫びて、それから俺に視線をくれた。


「撮影なら仕方ないって」
「現場はどうだった?」
「そうですね……。 初めての事ばかりで、俺は、言われた事をこなすだけ、って感じです。 お芝居も、出来てるのかどうか、自分では分かりません……」
「最初はそんなもんだよ。 俺とアキラもドラマより映画が先だったからよーく分かる」
「ただ俺とケイタは舞台で芝居の経験あったからまだ良かったけど、恭也はレッスンからいきなりだろ」
「そうなんです……。 迷惑掛けないように、とにかく台詞を、覚えて行く事しか、今は出来なくて……」
「これもね、ハル君のあがり症と同じで慣れるしかないんだよねー」
「あぁ。 場数こなすと余裕出て来て、視野が広くなるから今とは比べもんにならないくらい色んな事が見えてくる。 ガチガチなのは今だけだ。 心配すんな」
「はい。 ありがとう、ございます。 明日からまた、頑張れそうです。 ……葉璃、久しぶり」


   テーブルを挟んだちょうど反対側から、恭也がニコ、と微笑んできた。

   恭也……初めての撮影に一人で悩みを抱えちゃってたんだ……っ。

   俺が無神経に背中押してしまったから、それが決定打になってその映画の仕事を引き受ける事にした恭也が、二人に励まされてるのを俺はうるうるしながら聞いていた。

   俺も現場について行けるもんならついて行ってあげたい……何にも役に立たないだろうけど……。


「葉璃? 目が潤んでない? 大丈夫?」
「……ううんっ、大丈夫。 恭也、お疲れさま……! あの、その……が、がんばってね。 俺そばにいてあげられないけど、映画楽しみにしてるから! 恭也なら出来るよ!」
「ふふ、ありがとう。 頑張るね」
「……すごいな、一瞬で二人の世界じゃん」


   見詰めてくる恭也の瞳を真剣に見ながら、ロクな事が言えない自分が嫌になってしまうけど……恭也なら出来るって思ったのはほんとだもん。

   隣に居るケイタさんの呟きは聞かなかった事にして、もう一度烏龍茶に口を付けた。

   温かいホット烏龍茶を美味しく飲み干したその時、前触れもなく引き戸が開いた事でみんなが一斉に扉へと注目した。


「お疲れー」
「………………っ!」


   ────っ!!

 聖南だ……! 聖南が来た!

   金髪ポニーテールの王子聖南が現れると、靴を脱いで一番遠い席へと向かうその数秒でさえ俺はうっかり見惚れてしまった。


「ケイタと葉璃、場所変わって」
「お疲れー! って、早速かよ」


   唯一誰とも対面しない奥の席に腰掛けた聖南が、俺が隣に来るようにって席替えを要求するとケイタさんは苦笑しながら立ち上がった。

   当然だよ……面倒掛けてごめんなさい、ケイタさん……。


「ていうか俺が上座でいいの? まぁこの五人だしそんなの気にする事もねぇか」


   そんな事を言いながら笑う聖南が、着席した俺の頭を撫でてくる。

   何気ないその動作にも、王子聖南にやられてるだけだっていうのに異常に照れた。

   聖南到着と同時にアキラさんが店のスタッフさんを呼ぶとすかさずやって来て、テーブル上の固形燃料五つに火を付けてしまうとそそくさと去って行った。


「葉璃、ミュージカルどうだった?」
「…………っ! お、お疲れさまです……!」
「あ、あ? お疲れ。 ……いや、感想を……」


   王子聖南にまったく慣れない俺は、美しく盛られた料理に視線を落としたままとんちんかんな返答をする。

   不思議そうに俺を見てきてる視線を感じると、どうしようもなく顔が熱くなるから横目だけで聖南を見た。

   するとアキラさんには俺のドキドキがバレちゃってたらしい。
   

「おいセナ、見ろよ。 ハルの目がヤバイ」



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。