必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
526 / 541
~三月某日~(全九話)

3❥荻蔵の悪戯




 聖南がいつこの公の場で葉璃を押し倒すか分からないと、アキラは獣寸前の聖南の背中を押して会場内へと強引に向かわせた。

 そうやってあえて葉璃から遠ざけようとしたにも関わらず、それでも聖南は葉璃の隣から一瞬たりとも離れない。

 黒猫葉璃と大天使恭也は、今年も二人にとっては先輩にあたる者達から様々声を掛けられていて、その都度恭也がきちんと対応していた。

 そしてそんな二人と行動を共にする、一応プロデューサーという肩書きの聖南は「過保護だな」と笑われたが何も気にする事はなく、ただただ葉璃から離れないように努めた。

 こんなにも可愛い恋人を知らぬ間にウロチョロさせたくない。

 社長の挨拶が済んだと同時にテーブル席の方へと移動し、CROWNとETOILEは仲良く固まって時を過ごしている。

 そこへ、空気の読めない賑やかな人物がズカズカとアルコール片手にやって来た。


「おー!  ハル、今年は黒猫かー!  可愛いなー!  ETOILEの活躍見てるぜー!」


 ズイ、と聖南と葉璃の間に割り込んできたのは、狼男に扮した荻蔵であった。

 その姿と行動にムカついて眉間に皺を寄せた聖南同様、大きな声に驚いた葉璃も少々鬱陶しげである。


「こ、こんばんは。  荻蔵さん……」
「うーわ、なんでお前ここに居んの」
「セナさん、その嫌そうな「うーわ」って言うのやめてくださいって。  俺だって傷付くんすよ?」
「荻蔵お疲れー。  今年も呼ばれて良かったねー」
「ケイタさんまでヒドッ」
「荻蔵、プチ謹慎言い渡されて去年は冬の単発ドラマ一本だけだっただろ」
「そうなんすよ~アキラさん。  でも謹慎中も映画の撮り入ってたんで、丸々休んでたわけじゃないんす」
「あ、そうなんだ。  仕事入れてもらえて感謝しなよー」
「それが、俺謹慎中でも女と遊んでたのがバレちゃってー。  仕事入れとかないと余計遊ぶだろって言われちまった」


 屈託なくニカッと笑う荻蔵に、一同が唖然とした。

 女性絡みのスキャンダルが頻繁過ぎ、社長や幹部達の怒りを買って謹慎にまで追い込まれたというのに、彼はまったく反省していない。

 さらなるスキャンダルを恐れて、謹慎処分が解かれないまま逆に仕事をさせられるとは、もう少し人気俳優としての自覚を持ったらどうかと葉璃でさえ思ったに違いない。

 呆れた聖南は、水を飲みながら荻蔵のあっけらかんとした顔を見た。


「どんだけ貞操観念低いんだよ」
「セナさんにだけは言われたくねぇー!  ……っと、ハル、昔の話だからな?  セナさんの貞操観念低かったのは昔の……」
「荻蔵!  うるせぇぞ!  余計な事言うなら向こう行け!」


『こいつ……!  葉璃の前なの分かってて言ってんだろ!』


 荻蔵は空気が読めない上に、葉璃を見付けると聖南が居ようと居まいと猫可愛がりするので油断ならない。

 葉璃を欲望の対象としては見ていないと分かっていても、口を滑らせた荻蔵に一瞬殺意が湧いた。

 だがこの男は聖南の一喝には怯まない。

 「そんな怒んないでくださいよ~」と言いながら、後ろのテーブル席から椅子を一脚拝借し、アキラと聖南の間に腰掛けてニタリと笑う。


「ちょっといいもん手に入ったんすよ」
「なんだよ、気持ち悪りぃな」
「耳貸してください」
「あ?」


 荻蔵は聖南の肩に手を回し、そっと耳打ちしたが周囲がうるさくてうまく聞き取れなかった。


「なんつった?」
「媚薬。  いいの手に入ったんすよ」
「はぁ?  なんでそれを俺に言うんだよ」
「えっ、何?  俺にも教えてよ!」
「アキラさん、ケイタさんにこれ回してください」


 意味が分からない。

 荻蔵がニタニタしながら聖南に耳打ちした内容とは、「媚薬が手に入ったんですよ」という報告だったのだが……なぜそれを自分に報告するのか。

 ただ自慢したかっただけなのか、荻蔵はアキラにも耳打ちした後、小さな小瓶を渡してケイタの手にそれが渡った。

 恭也と葉璃は二人の世界に入っていてちょうど良かったが、ふとした時にやましい単語を未成年の二人には聞かせられない。

 荻蔵には早々に立ち去ってもらおうと口を開きかけたものの、小瓶を見たケイタまでもニタニタし始めている。


「これアレじゃん。  俺持ってるよ」
「マジっすか、ケイタさん!  どうでした?」
「興味本位だったんだけど、マジですごいよ。  使用が一滴だけだから朝まで引き摺らないのがいいんだよね。  高いだけあって効果は抜群!」
「マジでー!  俺も早く使いてぇ!」


 アキラと聖南は、二人の下話に顔を見合わせて溜め息を吐いた。

 それが手に入った事がよほど嬉しかったらしい荻蔵は、ケイタと散々際どい話をした後、聖南に向き直って葉璃に見えないように小瓶をチラつかせる。


「セナさん、どうっすか」
「どうって何が」
「使ってみます?  ハルたんに」
「ハルたん言うな。  使わねぇよ。  そんなもん俺らに必要ないからな。  ……あ、やべぇ。  社長から呼び出しだ。  葉璃、行くぞ」
「へっ?  あ、はいっ」


 少しも離れていたくない聖南は、なぜ自分も?と不思議がる葉璃の腕を取った。

 恭也に「行ってくるね」と声を掛けたのを見計らい、着信のあった社長の元へ急ぐ。

 聖南と葉璃が居なくなったテーブルには、何食わぬ顔をして小瓶の蓋を開けた荻蔵がまだそこに居た。



感想 3

あなたにおすすめの小説

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤