必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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~三月某日~(全九話)

5❥変調



 ──なんだか体が熱い。

 さっきからやたらと動悸がする。

 まるで風邪でも引いて熱が跳ね上がった時のような、顔と首の火照りも感じる。


『なんだ……?  熱あんのか、俺?』


 聖南は風邪とは無縁の男で、これまでもほとんど体調不良というものを感じた事がない。

 寝不足で気分が悪いというのとはまた違う、唐突な自身の体の変調に首を傾げた。

 葉璃のためのココアをテーブルへと運んでいる最中も、ドキドキが治まらない。

 一分毎に体の熱が上がっているような気がする。

 しかもその熱はどうも下半身へと集中し始めていて、ココアをテーブルに置いたと同時に聖南はだらしなく椅子に腰掛けて項垂れた。


「……?  聖南さん?  大丈夫ですか?」
「…………ん」


 戻ってきてすぐに葉璃の目の前で俯いた聖南へ、心配そうに声を掛けてくれるが顔を上げられない。

 椅子の背凭れナシでは体を支え切れなかった。


「セナどうしたんだよ」
「あ、アキラさん。  あの……聖南さんがココア取りに行ってくれて、戻ってきてから……なんか体調が悪そうです」
「え?  セナが?  大雨でも降んのか」
「なんでですか?」


 向こうで会話をしていたアキラが戻ってきたようで、葉璃と共に項垂れた聖南の顔を覗き込んできているようだが瞳が開かない。


『くそっ……なんなんだよ、これ……!』


 眠いわけではなく、体が火照ってどうしようもないのだ。

 言うなればそう、……とにかく、一刻も早く、セックスしたい。

 可愛い黒猫の仮装をした葉璃を、大勢のギャラリーの前でも平気で押し倒してしまいそうで、聖南は必死で自制の効かない欲と戦っていた。


「セナが体調悪いって、ハル絡みでジメジメしてる時しか聞いた事ねぇんだよ。  ……てかうるせぇなケイタ、お前飲み過ぎだろ」
「へっへっへっ~!  うるせぇって言うな!  魔法かけちゃうぞ~!」
「こんな泥酔するまで飲むかよ、バカじゃねぇの」
「……ケイタさん、飲み過ぎですよっ。  それでおしまいにしてください!」


 荻蔵との楽しい酒に酔ったケイタがケラケラとうるさい。

 アキラと葉璃の制止する声が聖南の耳に入り、薄っすらと瞳を開けると黒いブーツがどこかへ移動しようとしていた。


「……どこ行くんだよ」
「……っっ!?」


 か細い腕をガシッと掴み、立ち上がった葉璃の顔を歪ませる。

 加減が出来なかった。

 聖南は左目だけを開けて眩しそうに葉璃を捉えると、もう一度低い声で問うた。


「どこ行くんだっつってんの」
「……っせ、聖南さん……っ?」
「おいセナ、大丈夫かよ。  具合悪いなら上で寝てろ。  社長には言っといてやるから」


 そう言うとアキラは、明らかに様子のおかしい聖南を立ち上がらせた。

 賑やかしい場が嫌いではない聖南がよもや仮病など使うはずがないと分かっているので、アキラは真剣に、フラつく聖南を支えてやる。

 ギリギリと強く掴んでしまっていた腕を解放し、聖南はゆらりと歩んだ。

 この変調は尋常ではないと、聖南本人が一番よく分かっていた。


「……そうするわ。  アキラ、あとで葉璃送ってくれ」
「部屋に、だろ。  分かってるけど出て来なかったら自分の部屋行かせるからな。  セナ疲れが溜まってんだろ、明日フリーだしこんな時くらいゆっくり休め」
「聖南さん……?  大丈夫ですか……?」
「分かんねぇ」


 眉を顰めて見上げてくる心配気な眼差しに、聖南は苦笑を返してパーティー会場を後にした。

 エレベーターに乗り、自分が何階の部屋だったのかも思い出すのに数秒を要した。


「熱ちぃ……」


 どうしようもなく体が熱を持っていて下腹部が疼き、シャワーを浴びて冷やそうにもそれも億劫でベッドに腰掛けてまた項垂れる。


「……んだよ、これ……」


 体調が悪いわけではない。

 ただひたすら、無性に葉璃を抱きたい。

 それはいつもいつも思っている事だが、こんなにも昂ぶるのは初めてでおかしくなりそうだった。

 水をがぶ飲みしても、冷水で顔を洗っても、熱は冷めない。

 眠る事さえ出来ずに部屋の中をウロウロして、どうしたらいいんだと途方に暮れかけていると、突然部屋のチャイムが鳴った。


「……聖南さん……」

『────!!』


 そして愛しい者の声が聞こえた瞬間、必死で制御していたはずの聖南の中に滾っていた欲が見事に溢れ出てしまう。

 理性の切れた聖南は大股で扉まで歩み、葉璃の姿を確認するとすぐさま肩に担ぎ上げてベッドに放った。


「わっ、……っ、ちょっ……聖南さん!?」
「壊したらごめん」
「え、え!?  何を……っま、待って、シャワー浴びてな……」
「一秒でも離れたら全身縛り上げるからな」
「縛、る……?  縛るっ!?」


 押し倒した葉璃の衣装を脱がせていると、聖南から逃れようと上体を起こしたのが気に触り、華奢な体をグッとベッドに押し付けた。

 愛する葉璃に手荒な真似はしたくないのに、黒猫のナリで戸惑うばかりで聖南を抱き締めてくれないのが猛烈に歯痒い。

 聖南は、葉璃の前開きコスチュームのファスナーを一気に引き下ろし、下着もろともショートパンツを取り去って据わった目で葉璃を見た。
 

「なんか分かんねぇけど俺ヤバイ。  葉璃……あとでめちゃくちゃ謝るから少し我慢して。  ……俺の好きにさせて」



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