必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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~五・六月某日~(全五話)

♡新たな任務②

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 俺には血の繋がった双子の姉が一人と、血の繋がらないお兄さんが二人居る。

 恋人と、親友は、一人ずつ。

 大塚芸能事務所の社長室に、俺の大切なその人達が集合していた(春香は別事務所だから居ない…)。

 CROWNのマネージャーである成田さんと、ETOILEのマネージャー林さんも居て、ほんとに仰々しく大集合だった。

 二人がけの革張りのソファには俺と恭也が並んで座り、対面した同じ素材のソファにはアキラさんとケイタさんが腰掛けている。

 マネージャーの二人は社長の手前起立してるけど、秘書の女性のお盆の上にはちゃんと人数分のお茶がある。

 眼鏡姿の聖南はというと、ベッタリと俺の隣に居て、肘掛けにルーズに腰掛けて俺の髪を弄んでいた。

 この場のみんなは俺達の事知ってるからって、いつも聖南は大胆だ。


「悪いな、それぞれ忙しいところを集まってもらって」


 秘書の方が出て行ったのを見計らって、社長がそう口火を切った。


「重要な話なんだろ?」
「あぁ、かなりな。  スーパー極秘事項だ」


 社長の物々しい雰囲気に、聖南は眼鏡をクイッと上げた。

 何なんだろう……聖南も知らない極秘事項なんて、俺が聞いちゃっていいのかな…?

 映画撮影の現場で揉まれたからか、以前より精悍な顔付きになった恭也も、隣で緊張しているのが分かる。


「えっ、セナもそのスーパー極秘事項ってやつ知らないの?」
「セナは聞かされてんのかと思った」
「聞いてねぇよ。  葉璃と恭也、林まで呼び出すっつー事は、CROWNじゃなくてETOILEの事か?」
「まさしく。  正しくは、ハルに関連する事だ」


 ───え、え、……えぇ……!  俺っっ?

 それって、忙しい人達をみんな集めて話をしなくちゃいけないくらい、大事な話なの…?

 あ……もしかして俺、ETOILEを──クビになるの…?

 そ、そうだ、そうなんだ……!

 やっぱり、体を動かす事だけが取り柄の俺が、アイドルになんか向いてなかったんだ……!

 絶対そうだ!

 頭の中が「クビ」の二文字でいっぱいになって、視線が泳いだ。

 太ももに置いた手をギュッと握って、俺の不甲斐なさのせいで忙しいみんなの時間を割いてしまった事に猛烈な心苦しさを感じ始める。

 俺なりに精一杯頑張ってきたつもりだったけど、その頑張りが足りなかったって事なんだ……。

 こんな事になるなんて……。

 聖南に迷惑を掛けてしまった。

 恭也にも、アキラさんにも、ケイタさんにも、成田さんにも、林さんにも、───。

 視界が滲む。

 この世界に固執していた自覚はまるで無かったけれど、こんな事になって初めて分かった。

 俺はもう少し、もう少しだけでいい、頑張りたい。

 輝く世界を恭也と一緒に苦悩しながら味わって、自分の存在価値を確かめていたい。

 目標である聖南の背中はまだ見えてもいないのに、まだ一年目の俺にクビ宣告するなんて気が早過ぎると、俺は立ち上がって社長に直談判した。


「お、俺……っ、もっと頑張りたいです……!  せめてあと一年、新しいメンバーが入るまでは頑張らせてください!  まだ俺は目標の「も」の字も見えてないんです!  話も出来るようになります、あがり症も治していきます、だっ、だから……うぅっ……っ」
「おっ?  なんだ、ハル。  まるで私に辞めさせられてしまうような言い方だな」
「……葉璃……可愛い。  ぐるぐるしてる……」
「ハル君泣かないで!  ほら、ティッシュ!」
「社長がもったいぶるからハルがとんでもない勘違いしてんじゃん……可哀想だろ」


 右隣の恭也からは手を握られ、前方のケイタさんからはティッシュを二枚手渡され、アキラさんは社長を睨み付けている。

 みんな俺なんかに優しくしないで。  俺が悪いんだから。

 プロ意識の欠片もない、と誤解されてもおかしくないくらいの働きしか出来なかった俺は、頑張りたいって台詞もおこがましいんだ。

 俺はどうしようもない奴だ。

 ちょっとは頑張れてるかもって、なんでそんな自信が持ててたんだよ。  自分を買い被りすぎだよ。

 根暗野郎な俺なんかは世に出ちゃいけなかったんだ。

 俺なんかが───。


「おい葉璃、落ち着いて座れ。  大丈夫だから。  まーたネガティブ突っ走ってんぞ」


 ソファに促した俺の肩を抱く聖南が……優しい。


「うぅっっ、聖南さん……!  ごめんなさい……俺、クビって言われた……頑張りが足りなかったんだ……ごめんなさい、ごめんなさい……俺みたいな根暗は足を踏み入れちゃいけない世界だったんです!  ……ほんとにごめんなさい……っ」
「私はクビなんて一言も言ってないぞ!  聖南、アキラ、ケイタに恭也も、睨むのはやめなさい!  私は何も言っとらんじゃないか!」
「泣かせたのは事実だろ」
「ハル!  誤解だ、泣きやんでくれ。  ハルが泣きやまないとコイツらが私を睨み付けるのをやめないんだ」


 ───誤解……?

 え……でも社長……、俺の事なんかもうクビだって言って……?  あ、あれ?

 ケイタさんから受け取ったティッシュで涙を拭いて顔を上げると、恋人と親友とお兄さん二人が社長に厳しい視線を向けていた。

 社長は男達の視線から逃れるように、くるりと体を向こうに向けてしまってる。

 ど、どうしよう……!  また俺一人でぐるぐるしちゃってたんだ……!

 言ってない、確かに社長は「クビ」なんて言ってない───!


「葉璃の超ネガティブって突然始まんだよなぁ。  一回頭ん中見せてよ」
「何を呑気な事を!  私は生きた心地がしなかったぞ!  ……まぁ、ハルの熱い気持ちは聞けたから、良い返事がもらえるものと期待は持てたがな」
「良い返事?」


 一人で誤解して突っ走って、恥ずかしいったらない。

 無駄な興奮と自らの失態で、顔の熱がなかなか引かないよ。

 俺は穴があったら入りたい状態だったから、とにかく俯いて、「すみません…」とだけ呟いてからは社長と聖南の声を聞くに留めた。

 もう、黙っとこう……。

 ETOILEじゃなく、俺にだけ関連する話というものを、黙って聞いておこう……。


「ハル、来月から半年間、別グループも兼任してもらいたい」



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