迅雷上等♡─無欠版─

須藤慎弥

文字の大きさ
23 / 223
③無防備

─迅─3

しおりを挟む




 学生最後の夏休みが、あと一週間で終わる。

 今年はほぼ毎日雷と居たせいで、例年よりあっという間だった。

 おかげで宿題には手を付けていない。 俺も雷も、遊びと毎夜開催される大会とで忙しいからだ。

 夏休み期間中、俺はバイトのシフトを増やされたが懐が潤うのは悪くない。

 いつでも金欠な雷に食いもん与えられて、遊びにも連れてってやれる。 夏休みが明けたらさらに今月の頑張りが数字となって表れるし、そうすればもっと雷をあちこち連れて行ける。

 親の躾がいいのか、雷は俺が奢る度に「ありがと」と律儀に礼を言うんで気まずい。

 俺がしたくてしてる。 だから礼なんていらねぇ。 黙って奢られてろ。 ……とか、俺様でヤリチンな発言をすると、アイツは変な顔で俺を見るだろうから言えないでいる。

 いやいやいや、そんな事はどうでも良くて。 マジで夏が終わるのが名残惜しい。

 初めてだ。

 女にもダチにも目もくれずひたすら同じ奴と過ごした事も、この毎日が終わるのがこんなに寂しいと思うのも。


「藤堂、そこ検品終わったら上がっていいぞ」
「あざっす」


 モール内にあるメンズ服売り場 “charmant” (フランス語で魅力的だか何だか)でバイト中の俺は、地下倉庫で検品作業中だった。

 バイトを初めてもうすぐ二年半。

 入れ替わりの激しい社員より長く勤めてっから、表で必死こいて客を掴まえる役回りは去年あたりで卒業した。

 そしたら今度は、発注やら商品管理やら本社との新作搬入の打ち合わせやら裏方まで手伝わされるようになって、普段は週末しか出勤しねぇのに気付いたら責任が倍増。

 でも俺はあんまりプレッシャーってかそういうのを感じるタイプじゃねぇし、まぁまぁ何でもソツなくこなせちまうんで頼られるのは致し方ないのかも。

 「藤堂は卒業したらすぐうちに来るんだよな?」とゴリゴリのヤンキー上がりな店長の方から就職を切り出してくれた時は、普通に嬉しかったしありがてぇと思った。

 姉貴と兄貴も家を出て手が離れた事だし、親もそんな若くねぇから早く自立したかった。

 進路なんてぶっちゃけどうでもいいと思ってたんだけどな。

 こんな風に考え方がオトナになった俺、さらにモテてしょうがねぇっての。


「こんなもんか」


 最後の棚まで検品を終えて、パソコンに必要事項を入力して、パパッと狭いスタッフルームを掃除して、今日のバイトは終わり。

 ちなみに掃除は俺の意思でやっている。

 どうも散らかってるのが好きじゃなくてな。


「……あ、お疲れっす」
「おー。 藤堂、お疲れ。 今上がりか」


 社員専用通路を出たところで、同じ職場の四つ上の先輩、堀北さんと出くわした。

 堀北さんは正社員じゃなくて俺と同じ気ままなバイトだ。 見た目からして、二十歳を超えてもまだヤンキーを引き摺ってる若干痛い人。


「はい」
「なぁ藤堂、こないだのチビまた連れて来いよ」
「え、なんでっすか」
「アイツなんか可愛いじゃん。 小せぇしよく笑うし人懐っこいし。 首輪付けて散歩してても違和感無くね? あ、犬の方な、犬」


 たった一回、雷連れてここに挨拶来ただけでもう気に入られてんのか。

 堀北さんも、よく知りもしねぇくせに雷のことを犬呼ばわりしやがって。

 雷に首輪してリード繋いで散歩したりなんかするわけねぇ…………まぁ、似合うけど。 髪色とか懐っこさとかはまさに犬感ありまくりだけど。

 ただ俺は、雷の事を犬だとはどうしても思えない。


「…………アイツはネコなんで無理っすよ」
「ぶはっ、お前が言うとタチネコの話に聞こえるな」
「そういう意味でもありますね」
「お、マジかよ。 もしかして藤堂、ついに女に飽きたのか」
「飽きてないっすよ。 相変わらず好みはCカップっす」
「ははっ、分かる。 デカ過ぎんのもなぁ、持て余すんだよな」
「Cカップが一番揉みやすい」
「それそれ! ……っと、店長がお呼びだ。 じゃあな藤堂」
「はい。 お疲れっす」


 休憩時間だった堀北さんからは、すれ違い様にタバコの匂いがした。

 外の喫煙所での一服を許したはいいが、なかなか戻ってこない問題児をスマホで呼び出さなきゃなんねぇ店長の気苦労には合掌だ。

 ブランドイメージ的にそこそこイケてる男しか雇わねぇのは分かるんだが、責任感が無いってか仕事をナメてる奴が多くてあんま続かねぇのは考えもんだよな。

 俺が働く "charmant" は、ちょっとチャラめな若い男向けのベーシックファッションブランドだから、必然的に身なりを気にする女好きの男性店員しか居ない。

 話が合うからついつい、俺も余計な事を言っちまう。

 好みはCカップの美乳。 くびれはあるにこした事はないが、ガリガリは萎える。 そして俺にはもう一つ、誰にも言ってない性癖というか願望があって。

 まぁそれは置いといて、だ。

 バイト中は俺ん家でグータラ過ごしてるはずの金髪ネコに、まずは「お疲れ」と言わせねぇと。

 外に出た瞬間、夜でも関係ナシな蝉の鳴き声と熱気を浴びたくなくて、俺はスマホ片手に社員専用の出入り口前で立ち止まる。


「……は? なんで出ねぇの」


 呼び出し音だけがむなしく鳴り続ける。

 寝てんのか? まだ夜の九時だぞ? 保育園児?

 いや、スマホ中毒の雷はもし寝てたとしても、意外と着信音や通知音でパチッとすぐに目を覚ます。

 膨大な量の検品作業に夢中で、そういや今日は二時間おきの監視忘れてたな。

 五回かけても出やがらなかった。 これは明らかにおかしい。

 俺はすぐさま位置検索アプリを開いて雷の居場所の特定を始める。 案の定、目印となる黄色いマークが俺ん家に無い。


「アイツ……」


 あれだけ自由行動禁止っつってただろ。

 コンビニに行くにしても、雷を示す黄色いマークは俺ん家どころか全然違う場所で止まっている。

 フラフラッと出掛けてまた喧嘩を引き寄せでもしてねぇか、道に迷ってんじゃねぇのか、……束バッキー先輩のとこ行ってやしねぇか、こんなに俺が監視してやってんのにアイツは何にも分かっちゃいねぇ。

 夏休みも終わろうかっつーのに、てか昨日まではおとなしく言うこと聞いてたじゃねぇか。

 今さら反旗を翻すってのか?

 上等じゃねぇか。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

処理中です...