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⑤御姉様
─迅─⑨
しおりを挟む早漏は時も場所も問わない。
キスを始めて五分、シコってからは三分で呆気なくイった雷の手足が、その瞬間 俺の首と腹回りを締め上げた。
そこまではまぁいい。 俺が促した事だし。
チン○も腰もぶるぶるさせて気持ち良さそうに果てて、俺の手のひらと腹に精液飛ばしてすぐ。
雷は全身の力を抜いて俺にしなだれ掛かりながら、こんな事を言いやがった。
「はぁ、……はぁ、ッ……迅、……お前やっぱうま過ぎ……ッ」
「何が?」
「ムード作り!」
「は? ……ムード作り?」
「あんなの、誰だって落ちるよな……! マジで俺カノジョ気分だったわ!」
「……はぁ?」
「あーぁ。 いっつも迅にはしてやられちまうなぁ。 俺すーぐその気に……んむッッ」
懲りないニブ発言を、唇で制する。
薄く開いた下唇を甘噛みして、舌を滑り込ませて怒りをぶつけた。
コイツ何言ってんの。 キスして男のチン○を扱くのが、何でムード作りに直結するんだよ。
……一瞬で気分を削がれた。
「お前それガチ?」
「ん、にゃッ?」
「ガチで言ってんの?」
「ンンっ、んッ……んッ……♡」
「だとしたら俺はずっと、スタートラインで足踏み状態だ」
「ふぁ……ッ♡ むぅッ……!」
キスの合間にも俺の不満が止まらなかった。
この俺が、人生で初めて思い出作りたいと思ったんだぞ。
そのためには、雷の歩幅に合わせてじわじわ攻めて、盛り上がるシチュエーションを利用してそれこそ出来たてカップルみてぇな、クソ甘ったるい空気を出してやろうとした。
雷が相手なら、恥ずかしげもなくそれが出来ちまうから。
なのにコイツときたら……性欲を満たしたいだけで、俺が雷に触るわけねぇじゃん。
「ふ、ん……ッ、迅ッ! お前ちゅーがねちっこい!」
「うるせぇ。 黙ってベロ動かせ」
「ンンーッ! むっ、んんんッ……♡」
「パッと洗ってサクッと出るぞ」
「んへっ? な、なんで、……? せっかくの温泉なのに? てか迅、またキレてんの? 意味分かんねぇ……気難しい野郎だな、マジで」
普段ならカチンとこない憎まれ口にも、イライラする。
その〝ねちっこいちゅー〟で散々啼きまくってるくせに。
どうすればいいんだよ。
どうしたらお前に、俺は伝説を捨てたってことを信じてもらえんの?
「──〝おばけ〟」
「ヒェッ!? なになになになにッ!? 見えた!?」
「かもな」
「やだぁぁぁぁ!! 迅ッッ! やっぱすぐ帰ろうッ? ここヤバいんだって! いわくつきのお宿なんだ!」
せいぜいビビって俺に縋りやがれ。
床におろしてやった雷がまた飛び付いてこようとしたのをササッと避けて、俺はカランから出る温水を檜で出来た湯桶に溜めた。
一発抜いてスッキリな雷をほったらかし、髪を洗う。
ここはいい宿だ。
シャンプーが薄まってねぇ。
「ちょっ、待て! 抱っこは!? 自分だけさっさと洗ってんなよ! 俺怖えんだってば!」
「俺に〝ごめんなさい〟言えたら抱っこしてやる」
「なんでだよ!! それ何の〝ごめんなさい〟!?」
「言っても分かんねぇだろうから、とりあえず詫び入れろ。 俺そこら辺の軟弱な口だけ野郎とは違って心が広いから、許してやらない事もない」
「はぁぁ!? もう全然、まったく、意味が分かりませんけど!!」
「じゃあ一人で風呂浸かって一人で寝れば」
「うぅーー!!」
俺が黙々と全身を洗ってる間も、〝おばけ〟に怯える雷が必死で訴えかけてくる。
可哀想だが、まるでこれまでの全部がプレイの一貫的な扱いをしたコイツが、俺も許せなかった。
てか、もどかしいって言いたかった。
謝らせても何にも意味は無いんだろうが、「なんで謝らなきゃいけないのか?」を少しでいいから考えてほしかった。
〝雷にゃんが欲しい〟って言った意味を、バカなりに飲み込んでほしかった。
「ふぅ、……」
俺は全身を洗い終えて髪をかき上げた。
立ち上がって、静かになった雷を振り返ると、不満そうにムッとしたまま俯いている。
これはまた、お得意の喚き散らしで誤魔化す気だろう。
そう思いながら俺も黙って雷を見下ろした。
「…………ごめんなしゃい」
「………………」
………………。
蚊が鳴くより小せぇ声がした。
素直に謝れてエラいな、って頭を撫でてしまいそうな言葉だった。
それはさすがに、あざと過ぎねぇか?
全裸で向かい合った俺達の間に、十月半ばの冷たい山の夜風が吹き抜ける。
唇を尖らせた雷が、じわっと俺を見上げてきた。
「…………噛んだ」
「ぷっ……! 詫び慣れてねぇから緊張したのか?」
「うるせぇ!! 謝ったんだから抱っこしろ!!」
「噛んだからやり直し」
「えっ!? 俺、明日には口内炎確定だからそれで勘弁してもらえない?」
「……冗談だ。 もういい」
「…………迅、機嫌直った? もう怒ってねぇ?」
……何コイツ。 ……可愛すぎ。
訳が分かんねぇと喚いてたわりにはちゃんと謝って……おまけに大事な一言を噛むとは。
俺の顔色を見て体にしがみついてきた雷を抱き上げてやると、腕にギュッと力が入った。 おばけも俺の事も、怖かったらしい。
笑っちまった俺の負け。
あざとい「怒ってねぇ?」の台詞にもニヤけちまった、俺の完敗。
雷相手だと怒りが持続しねぇ。
時々こうして俺の心を無意識にくすぐって離さねぇから、こっちは囚われたままだ。
心と体を同時に手に入れるのが、こんなに難しい事だとは思わなかったがな。
「……ん」
勝手に敗北感を味わっていた俺に、まだ唇を尖らせている雷が湯桶を指差した。
「もしかして俺に洗えって?」
「ベロを負傷したからなッ」
「それ口ン中だろ? どう関係あんだよ」
「つべこべ言わずに俺の全身をピカピカに洗え! 俺はベロが痛くておばけも怖くて八方塞がりなんだ!」
「……意味不明」
そんな威張って言う事かよ。 可愛いバカだな。
てか雷のヤツ、俺に二つ目のミッションを攻略するチャンス与えてくれてんじゃん。
洗えって言ったよな?
全身をピカピカにしていいんだよな?
トラウマに踏み込んでも文句言うなよ?
お前が望んだ事なんだからな、雷。
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