迅雷上等♡─無欠版─

須藤慎弥

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⑦曲解

─迅─④

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… … …


 呪いじゃねぇ事が分かってスッキリしたのか、週末は俺ン家に泊まると頷いた雷のツラからは、戦にでも出掛けんのかってくらいの覇気を感じた。

 そこまでガチガチになられっと、もれなく俺にもそれが伝染る。

 何せ雷に触れるのは十六日ぶり。

 俺の下半身が暴発する寸前だったから、二日前に雷にゃんをとっ捕まえて尋問したのは大正解花丸だった。

 誰でも分かるようなウソも、「ハッ」の顔文字の真似して妙な事を色々言ってたのも、心臓がチクチクするっつって俺に無茶な治療を求めてきたのも、あれ全部が俺への好意そのもの。

 先に快感を覚えさせちまったせいで、まだ感情が伴ってねぇ雷に無理強いなんかしたくねぇ。

 表情にはまったく出てねぇかもしれないが、純粋な可愛さを連発してきて俺はノックアウト。 完全にフルボッコされた。

 だからって焦りはしない。

 雷の本心が分かった今、今度こそ包容力バツグンで寛大なカレシにフルモデルチェンジ。

 あの後ちょっとヤバい事があってヒヤッとはしたがな……。


「藤堂~、お疲れ~」
「……お疲れっす」
「また明日もよろしくな~」
「……っす」


 バイト上がり、店長への挨拶もそこそこにスマホで真っ先にする事は、雷の位置情報チェック。

 よしよし。

 ちゃんと俺ン家に黄色いピンが立ってるわ。

 四匹の猫と戯れてキャッキャして、存分に癒やされてるといい。

 俺は嫁さんには家に居てほしいタイプだったんだって、雷の監視を始めてからその事を自覚した。

 ……ん、嫁さんってのはつまり雷の事な。


『……はーい』
「バイト終わった」
『んー、お疲れー……』


 呼び出し音が長かった。 少し掠れた寝起きの声に、フッとニヤける。

 遊び疲れて寝てたのか。 可愛いヤツ。


「雷にゃんメシまだだろ? 何か買って帰るけど食いたいもんある?」
『んーそうだなぁ……』
「そのまま寝落ちしててもいいけど。 もっさんのメシだけは頼むぞ」
『カリカリならもうあげたよー。 ……むにゃ……』


 腹が減ってるはずなのにこんだけ睡魔に負けてんのは、もっさん達としっかり遊んで癒やされた証拠だ。

 雷の口調がやわらかい。 ピーピーニャーニャー鳴いてんのも可愛いけど、このギャップもたまんねぇからつい頭撫でちまうんだよな。

 ウトウトしてる雷はもっさん達みてぇにぬくいし、電話越しの声からも癒やしのオーラが漂ってくる気がする。

 ……早く帰りてぇ。

 瞬間移動出来たらいいのに。 ……って、非現実的なこと考えてる場合じゃねぇ。

 俺の可愛い猫が五匹も部屋で待ってんだ。 パパッとメシ買ってすぐさま帰ろう。 そうしよう。


「じゃ、なんか適当に買って帰るから」
『んー……おつかれさ……』
「……あっ、藤堂くんじゃーん!」


 ちょうど、雷との電話が終わってポケットにスマホを直した時だ。

 俺の目の前に、着飾った派手な女が物陰から突然現れた。


「…………」
「バイト終わったのっ? ミユも今バイト終わったとこなんだぁ、これからご飯でも行かない?」


 偶然を装ってんのがバレバレで寒いんだけど。 しかも待ち伏せと上目使いのコンボは気色悪い。

 早く帰りてぇが先に立つ俺は、話しかけられても歩みを止めなかった。

 隣について歩こうとする女のカツカツ音が速くなる。


「ねぇってばぁ!」
「……うるせぇな、お前誰?」
「ひどーい! たった三ヶ月エッチしてないだけで、ミユの事忘れちゃったのぉ?」
「……だから誰?」
「でもそのドライなとこが好きー! ねぇねぇ、せっかく会えたんだし、ご飯行こうよぉ」


 会えたんじゃなくて、思いっきし俺のこと待ってただろ。

 通行人が俺と女を避けて端を歩く様を見やって、「あぁ」と見当がつく。

 この女の馴れ馴れしさ。 人数の把握がしきれなかったセフレのうちの一人か。


「もぉ~藤堂くんっ、シカトはやめてよぉ! ミユが一番相性いいって言ってくれてたじゃーん! お腹空いてないならホテル直行でもいいよぉ?」
「………………」
「あっ、そっちにもラブホあるよね! 行っちゃう? 行っちゃう?」
「一人で行け」
「泊まりじゃなくてもいいよぉ?」
「………………」


 シカトだ、シカト。

 何回かセックスしただけでセフレって事になっちまう、世の中のシステムと女の脳ミソをどうにかしてほしい。

 以降、俺は待ち伏せ女とは口を利かなかった。

 コンビニで二人分のメシ買う時から俺ン家の最寄り駅までストーカーされてた風だが、さすがに家までついてきては……ない事を祈ろう。


「……あーうぜぇ……」


 今まで下半身で生きてた俺が、悪態つく資格なんか無えのは分かってんだけどな。

 雷に尋問したあの後にも似たようなことがあった。 ヒヤッとしたヤバい事ってのがまさにそれだ。

 心臓がチクチクする、と何回も俺を睨み付けてくる雷との帰宅途中、後ろから声をかけられた。

 さっきの女とは別人だったが、それもまた偶然を装っていた。






『あー、藤堂くーん! 久しぶりー! ねぇねぇ、全然既読つかないけどマユのことブロックした? てか垢消ししたよねぇ?』
『…………誰?』
『もぉ、マユだよぉ。 覚えてないのぉ?』
『………………』
『そこが藤堂くんのいいとこだけどぉ。 マユが一番相性いいって言ってくれてたのにー。 最近藤堂くんからの反応が無いって、みんな寂しがってるよぉ?』
『………………』


 あーそうですか。 そりゃそうだろうな。

 っつーか、最悪だ。

 雷と居る時に現れてんじゃねぇよ。

 諸々のアカウントもアドレスも変えて、登録してない番号からの着信は拒否れる設定にもしたんだから、寂しがってねぇで悟れっての。

 スマホには雷の連絡先さえ入ってりゃいいと思ってるし、女を切る事に何の未練も躊躇も無かった。

 突然現れた女の足止めにも当然、怯むわけがねぇ。


『藤堂くんっ、藤堂くーん! 連絡待ってるからねー!』


 女の声をフルシカトした俺の態度が気に入らなかったらしい雷は、『そんな冷たくしたらかわいそうじゃん』と呟きながら、何度も後ろを振り返った。

 何気なく隣を見下ろすと、雷は女を気遣いつつ心臓辺りをバッチリ押さえている。

 ──え、そこチクチクしてんの?とは、さすがに聞けなかった。

 ──嫉妬? もしかして今、絶賛嫉妬中?と聞くのも、不謹慎だと思った。

 だって俺が悪りぃから。


『雷にゃん、……』
『……迅、あの子……誰なんだ?』



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