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19〝好き〟の違い
─迅─⑦
しおりを挟む俺は常識人だから、オッサンに〝良さげなラブホまで〟とはさすがに言えなかった。
とりあえず乗ったところで降ろしてもらい、ピカピカ光る電飾が飾り付けされた木に沿って歩道を歩いた。
イルミネーションを前に、雷の目がキラッキラしてたからだ。
このまま真っ直ぐ行くと閉店後のモールに戻っちまうが、その先に行けば深夜でも開いてるファミレスがあるし、もっと先に行くといわゆるラブホ街もある。
雷の見立てにしてはかなりユニセックスな服装をしてやがるから、まぁラブホで止められる事は無えだろ。
クソッたれアツトに雷念願のクリスマスデートを最悪な形で邪魔されたんだ。
今日は出来る限り、雷の望みを叶えてやりたい。
「──柴田達はともかく、先輩の集会には行かなくてよかったのか?」
すれ違うカップル達と同じ気分に浸りたがってた雷は、俺が手を繋ぐとニマニマして可愛かった。
それに水を差すように束バッキー先輩と柴田から交代で何回も電話がかかってきて、それぞれに「今日はありがと。もう大丈夫」と俺らしくなくソフトに断ったのはすべて雷のためだ。
「いいって。修也先輩以外よく知らねぇ人ばっかだし」
「そうなのか」
雷を溺愛している束バッキー先輩は、とにかくしつこかった。
集会に来ねぇなら雷の顔を見せろとビデオ通話で安否確認までさせられ、あの雷が引き気味だったんだぞ。
昔の事があるから過剰に心配してんのも、ビデ通でメイクが崩れるまで泣いてた気持ちも分かるが、クリスマスに〝集会〟は無え。
……にしても、俺たちは薄情だ。
二人揃ってダチや先輩よりデートを優先した。
「柴田達も駆け付けてくれようとしたんだろ? クリスマスなのに悪かったなー……」
「お前の事が心配だったんだろ。ヤシロアツト側に番号教えちまったっつー罪悪感、ヤバかったと思うぞ」
「あー……」
タクシー内で聞いた雷のヘタクソな説明によると、俺をモールまで迎えに来てたところに知らねぇ番号から着信があったらしい。
そいつは何のミラクルなのか〝村上〟と名乗り、知った名前で安心したとこで俺の名前を出され、〝藤堂がサプライズを用意してる〟だ何だというウソにまんまと引っかかって駅前で拉致られた……ってアホか。
「迅が人を使うわけないと思った」と言うわりに、なんでそんなウソに乗っちまったのかを聞くと、もっと脱力した。
〝迅はムードとかシチュエーションにこだわるロマンチストイケメンだろ〟
──そうでした。俺は雷限定でクセェ演出にこだわるロマンチスト野郎でした。
経緯を聞いたところではなから雷を責めるつもりなんか無かったが、これまでの俺の行動でそんな勘違いをさせたとなると若干の責任を感じてしまった。
ヤシロアツト側が、俺の名前を出して雷を釣ったのも辻褄が合ったしな。
アイツがのたまった〝好き〟は、俺に勘弁してもらうために出た咄嗟の言葉じゃなかったって事だ。
──マジだと分かると、余計ムカつく。
繋いだ手に力を込めると、初見のイルミネーションにはしゃいでキョロキョロしてたはずの雷が、いつの間にかショボンと肩を落としていた。
「迅、……」
小せえ手が、俺の手を握り返してきた。
いくらか赤みの引いたほっぺたをプクッと膨らませて、何か言いたそうに俺をジッと見てくる。
「どうした? やっぱ今日はやめとく?」
立ち止まって問うと、雷は「ううん」と首を振った。
じゃあなんでそんな浮かねぇツラしてんの?
何分も歩かせちまったから疲れた?
それとも寒い?
拉致られた後じゃ気が乗らねぇか? って、俺があんましつこく心配すると雷は照れるからな。
手だけは頑として離さず、雷の言葉を待つ。
「雷にゃん?」
「……あのさ、なんか……」
「うん?」
「なんか、今さら怖くなってきて……」
「…………」
俯いた雷のつむじを見ていた俺は、何も言えなかった。
読み通り、雷は戸惑ってたんだ。
タクシーん中でもオッサンに絡んで異常にハイテンションだったが、あれはナチュラルハイに近い状態だった。
……いや、そりゃそうだろ。当たり前だ。恐怖感じるの遅いくらいだぞ。
俺だって焦りまくった。
柴田が連絡くれなかったら。束バッキー先輩がたまたまそこに居合わせなかったら。馴染みのオッサンがヤンキーの溜まり場を知らなかったら……。
マジで、俺だけじゃ無力だった。
一匹狼でいたって、トラブルメーカーな雷を助けられない。
でもこれだけは言える。
「大丈夫だ。何があっても、これからも俺が助けに行く。絶対に」
歩道のド真ん中で、俯いた雷を力いっぱい抱き締めた。
行き交うカップル達から黄色い声が上がるも、俺と雷には関係無え。
シチュエーションとか状況は微妙だが、イルミネーションの下のハグはムード満点だろ。
他の誰も、俺はこんな人前で抱き締めた事なんか無いんだ。
雷は俺が守る。
他人に頼ってでも、情けなく頭を下げる事になっても、雷が俺を必要としてなくても、俺は勝手に助けに行く。
「もう大丈夫だ。大丈夫だからな」
声を掛けながら、雷をひっしと抱き締めて励ました。
こんな往来で……と笑うヤツは周りに一人も居なかった。
何たって今日はクリスマスだからな。
どこまでも〝らしくない〟俺を引き出すトラブルメーカーの小せぇ背中を撫でてやると、「うん」と素直に頷いた雷の腕が背中に回ってくる。
「助けに来てくれたの、マジで嬉しかった。王子様みたいだった」
「王子様……」
「迅さんってば、逆に俺を攫いそうな風貌だったけど。コートボロボロなのにイケメン過ぎて、ビジュアル系のバンドマンの衣装みてぇだし」
「……おい」
口の減らねぇチビだな。
しょんぼり気落ちした声で言えば、俺が何も言わねぇとでも思ったか。
……言えるはずねぇだろ。
総合すると、俺は王子様らしいからな。
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