191 / 223
19〝好き〟の違い
─迅─⑨
しおりを挟む意味不明すぎて目が点になった俺と、大真面目なツラで服を捲った雷はしばし無言になる。
──ヤシロアツトがベルトを欲しがった?
いやだって、……お世辞にも野郎が欲しがるような代物には見えねぇんだけど。
露呈したそれは、一見普通の焦げ茶色のベルトに見えるが雷のはちょっと違う。
猫好きなコイツらしい、バックルそのものが猫の足跡の形してんだよ。雷みたいなマニアにはウケそうなやつだが……これをヤシロアツトが欲しがったって?
てかそれ、いつの記憶?
輪姦されそうになった時の? それとも今日? ……って、話の流れ的に前者だよな。
ヤシロアツトの事はあんま覚えてねぇが、〝ベルトを奪われそうになった〟のは覚えてるってのが引っ掛かる。
もしかしてすり替えた記憶が戻ってきてんのかと、知らず眉間に皺を寄せながら聞いてみた。
「……ベルト? ……なんでベルト?」
「さぁな。俺のベルトって昔からこれなんだ。気に入ってるから、五年くらい前に十本一気に買ってんの。ストックがまだ六本あるから、そんなに欲しかったんなら一本くらいあげれば良かったかなー」
「……ヤシロアツトがこれを欲しがってたっての? はるばるこんなとこまで来て、雷にゃんを拉致るほど?」
「もしかして八代も大の猫好きだったとか?」
「知るか」
なんでこの特殊なベルトを、ヤシロアツトが欲しがってると思ったんだ。
雷は大マジだし、記憶を取り戻したにしては怯えてる様子も無え。輪姦されそうになった過去を持つヤツの言動じゃねぇんだよ。
俺は恐る恐る、雷を刺激しないようにさり気なく服を直してやりながら、さらに深堀りした。
「なんで、ヤシロアツトがソレを奪おうとしたって分かるんだ?」
「え? だって俺のベルト外そうとしてたもん。高一の時だ。喧嘩ふっかけてきたと思ったら、今日みたいに縛られて拉致られて、ビンタされて、目ギラギラさせてベルトに触ってきたんだよ。俺のベルトを欲しがってたとしか思えねぇじゃん。なぁなぁ、見てみろ、キャワイイだろ! これもうネットでも販売してねぇレアもんなんだぜ!」
「…………」
せっかく直してやった服をまた捲って、俺にバックルを見せびらかす雷はいたって平常。
饒舌に語られたのは、過去の忌々しい記憶じゃなくキャワイイベルト自慢。
……なんとなく分かった。
コイツ、記憶をすり替えたわけじゃなかったんだ。
犯されそうになった最悪な記憶を、ベルトを盗られそうになった不愉快なものとして、いい方に曲解して覚えてた……?
「はぁ……」
「えッ、迅? どした?」
「いや……別に」
重てぇため息を吐いた俺を覗き込んでくる雷の無邪気なツラに、毒気を抜かれた。
短絡的バカの思考回路は、相変わらず侮れない。
実際はどうだったとか関係なく、コイツがそう思ってんならいいかって結論に至るしかなかった。
わざわざ言う事でも無えし、勘違いしたままでいた方が幸せな時もある。
一つ気になんのは、ヤシロアツトが雷のことを好きだとか何とか言ってた事。
それを聞いても雷は、自分の勘違いに気付かなかったのか。ベルトを触ってたのは、奪おうとしてたわけじゃなくて脱がそうとしてたんだって……。
「なぁ、アイツ……雷にゃんのこと好きだったって言ってたじゃん。あれは初耳?」
「うん。迅が来る前、それを俺に熱弁してた」
「は? じゃあ何、俺が来る前に告白されてたって事?」
「そうなる、かな……?」
「ほんのり嬉しそうに言うんじゃねぇよ。イラつくな」
ポッじゃねぇよ。俺以外のヤツに告られてニヤニヤするなっての。
こういう時、恋人が無垢なバカだと困る。
そんで俺みたいな敏いヤツは、その表情を見ただけで雷の考えてる事が読める要らねぇ才能を会得した。
「だ、だだだだってな? 俺は迅と違って非モテ人生を歩んでたんだぞッ? 告白とか迅からしかされた事無えし……ッ!」
猫目をまんまるに見開いて慌てふためいた雷は、ちゃんと俺の嫉妬の目に反応した。
バカはバカなりに成長してるのが分かって褒めてやりたいとこなんだが、今後また誰かに告られた時も〝ポッ〟となるんじゃ、俺は少しも安心出来ねぇよ。
俺以外の人間からの好意はすべて拒絶しろ。
無邪気に喜ぶな。……バカ。
「それでいいんだよ。お前は俺から好かれてりゃいいの」
「いやそれはそうなんだけど! 告られたら誰だって嬉しいもんだろ!」
「先輩の店でバイトしてた時にも告られてたじゃん」
「あれは俺じゃなくて〝雷子〟だ! ギャルの格好で告られたのはカウント出来ねぇ! 不正になる!」
「……どうでもいい境界線だな」
「どうでもいいとは!?」
なんだよそれ。意味不。
そういやあの時も妙な勘違いして、告ったキモヒョロ野郎と〝よろしく〟しようとしてたよな。
雷は人当たり良いし、大声でキャンキャン喚きはするがよく笑って可愛い。相手が喧嘩する目的で近寄ってきたわけじゃねぇと分かるや、一瞬で心の扉がオープンになる社交的ネコ。
ヤシロアツトからの告白も、俺の到着が遅かったら情にほだされてた可能性もあるって事だ。
いつから好きだったのか? どこが好きなのか?
そんなもんを根掘り葉掘り聞いた日には、自分からベルトを差し出して〝お友達なら〟とか言って許容すんだ。
「雷にゃんさぁ……もっと危機感持ってくんない? 俺言ったじゃん。お前限定で嫉妬狂いの男なんだって、俺は」
「しっとぐるい、っすか……?」
格好とかどうだっていんだよ。
雷そのものに魅力がなきゃ、まず誰からも告られるわけねぇんだから。
でもな、俺が一番に目付けた。
俺が一番に雷の心を掴んだ。
雷の一番は、俺がもらってる。……はず。
うぶうぶな童貞処女は、どんな状況だろうが告られただけでニヤつくほど嬉しいのかもしんねぇが、俺の膝の上であざとく首傾げてる雷を〝可愛い〟と思ってんのが俺だけじゃねぇとなると、マジで心穏やかでいられねぇ。
「あームカつく。そのツラもクソ可愛い。すぐ調子に乗る雷にゃんのこと説教してぇのに……出来ねぇ」
「ピッ……!?」
「お前がそんなだから心配なんだよ。弱えのは俺がカバーしてやれるけど、雷にゃんが可愛いのは俺じゃ止めらんねぇだろ」
「なッッ!? ちょッ、迅さん……! そんなこと言われちまうと俺ドキドキすっからやめ……ッ」
「うるせぇ。黙って俺だけにドキドキしてろ」
「ぴッ、ぴぇッ……♡」
自分で自分が寒かった。
狼狽える雷を抱き締めて、クセェ台詞を平気で吐いちまうほど、俺は雷にメロメロなんだ。
耳まで真っ赤にして鳴き声を上げる雷をドキドキさせんのは、俺だけでいい。
俺が王子様なら、雷はお姫様って事になんだろ。お姫様は王子様から溺愛されるって相場は決まってんだ。
……いや、俺なに考えてんだろ。寒いって。
0
あなたにおすすめの小説
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる