狂愛サイリューム

須藤慎弥

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50❤︎束の間の逢瀬

50❤︎②

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❤︎



 今日は長い一日だ、と聖南はふと笑った。

 〝葉璃に会いたい。もう無理だ。我慢できない。〟

 自身の不調も相まって、藁にもすがる思いで〝会いたい〟とメッセージを送ったことで、同じ気持ちでいてくれた葉璃と会う事が出来た。

 会って何をしよう、とはあまり考えず、とにかく一目見て、抱きしめて、葉璃を感じたかった。

 レイチェルの件はほぼ二の次と言って良かったのだ。

 聖南は、まさか自分が葉璃を置き去りに寝入ってしまうとは思ってもいなかったが、おかげで現在頭が冴え渡っている。

 やはり人間たるもの、適度な睡眠は必要らしい。

 葉璃不足に陥ると当たり前の事さえ忘れてしまう聖南の悪い癖を、会うなり叱られたばかりなのだが──。


「──マジでいい加減出て来いって。この時間がもったいねぇよ。聖南さん、葉璃にぎゅーしてほしいなぁ」
「……すみません……」
「それもういいから!」


 しつこいほどに謝り倒す葉璃だったが、しびれを切らした聖南の一喝でようやく、ぴょこんと頭だけを出した。


「あ、出てきた」


 どうしていいか分からないといった表情の葉璃を見た聖南の目尻が、だらしなく下がった。

 みのむしというより、背中に布団を背負ったカタツムリのようだったのだ。


「…………」
「かわいーな、葉璃」
「…………」


 じわりと聖南を見上げた潤んだ瞳と目が合うと、相も変わらずキュンとする。

 今にも泣き出してしまいそうな表情の葉璃の顔面は真っ赤で、それは籠城による暑さからなのか、羞恥によるものなのかは判断がつかない。

 だがおそらく後者だろうと、聖南は両腕を広げて「おいで」と笑いかけた。


「…………っ」


 聖南が怒っていないと分かるや、頭だけを出していた葉璃が俊敏にその腕に収まる。少しばかり勢いのついたそれは、聖南の上体を傾かせた。


「聖南さん、ごめんなさい……っ」
「何のごめんなさいか分かんねぇ~」
「……聖南さんの聖南さん、借りてました……」
「ぶっ……!」


 熟れたりんごのように真っ赤な顔は見られたくないらしく、聖南の胸に鼻先を擦り付けながら「すみません」の意味を白状した。

 あまりにも正直過ぎるそれに、柔らかな後ろ髪を撫でていた聖南は思わず吹き出してしまう。


「あはは……! 借りてたんだ? 俺のコレ、もう一生葉璃のだし。いつでもどうぞ?」
「…………っ!」
「フェラしたかったの?」
「…………はい」
「なんで?」
「なんっ、なんでって……あの、……その……」
「うん?」


 どうせ白状するなら、すべてを聞かせてほしい。こんなにも可愛くて不埒な白状は、聖南の笑みしか生まない。

 口ごもる葉璃にとっては意地悪な質問なのかもしれないが、どういう気持ちで〝聖南さんの聖南さん〟を借りようとしたのかは彼の口から聞きたかった。濁されることを承知の上で。

 ……だったのだが、どこぞの勘違い女性よりもはるかに純粋無垢な葉璃は、聖南から意地悪に問い詰められてすんなりと吐露し始める。


「む、む、ムラムラ、もんもんと、しまして……」
「……っ、うん」
「聖南さんの聖南さんを借りて、あの……」
「うん」
「うぅーっ!! もぉ無理ですー! ごめんなさいーっ!!」
「あはは……!」


 可愛かった。たまらなかった。

 羞恥に耐えかねて聖南にしがみつくところはもちろん、これほど愛おしい白状の仕方があるのかと胸がキュンキュンした。

 本当に悶々としていたと知って微かな罪悪感が再燃したものの、愛おしい、大好きだという想いがそれを凌駕した。


「ごめんごめん、追い込むつもりは無かった……って言ったら嘘になるな。葉璃ちゃんの本音が聞けて、聖南さん嬉しい」
「なんで嬉しいんですか……」
「そんなの決まってんじゃん。葉璃が積極的だから♡」
「むぅ……!」


 尖った唇にちゅっと音を立てて口付けると、あからさまに照れた葉璃がさらに聖南にしがみつく。

 せっかく顔を上げたと思いきや、それは数分にも満たなかった。

 寝ている聖南に迫った事も、この状況も、葉璃にとっては耐え難いほどに恥ずかしいのだろう。

 抱き締めた体全体が熱を持っているように感じるが、それは燻り続けている欲も大いに関係ありそうだ。

 聖南の性器を大事そうに両手で持ち、音を立てて夢中でしゃぶっていた姿が目に焼き付いている聖南も、葉璃が籠城している時から盛大に煽られている。

 二人の思う所は同じだ。

 ただ、すぐにでも葉璃の体を堪能したいのは山々なのだが、その願望を叶えるには少々都合が悪かった。


「でもなぁ、ここでヤるのはリスクがデカいんだよな」
「…………?」
「ほんとはスイートを二部屋取りたかったんだけど、葉璃が怒るじゃん? もったいないです!とか言って」
「それは……もったいないです……」
「だろ?」


 過去の経験から、葉璃は豪華な施しを嫌う傾向にあると知っているので、一晩の密会のためだけに云十万はくだらないスイートルームを二部屋取るのは気が引けた。

 葉璃が絶対に喜ばないものだからだ。


「それにな、考えたんだよ。世間の遠距離恋愛中のカップルはこういう部屋でイチャイチャするんだろうなって。俺はあんま馴染みが無えけど。ダブルベッドで葉璃とくっついて寝るのもいいなと思ったんだ」
「そ、そうだったんですか」
「……にしても狭いよな。色々と」
「そうですか……?」


 簡単には街を歩けなくなった葉璃も芸能人の仲間入りを果たし、聖南が管理している口座には彼が見たらひっくり返るような金額が毎月振り込まれている。

 しかし葉璃は、良い意味でも悪い意味でもまったく欲が無い。

 豪華で贅沢なものや暮らしを嫌い、これまでの感覚を好む葉璃には世間の常識の方が喜ぶだろうと聖南は気を回した。

 さらにここは都心から離れ、雑然としていない場所に建つ。マスコミに嗅ぎつけられにくく、〝ハル〟はおろか〝セナ〟まで泊まっているとは考えにくい、不必要に従業員の居ないこのホテルをわざわざ選んだ。

 葉璃と会えば我慢できなくなるというのは分かってはいたのだが、あいにく聖南は庶民の感覚を持ち合わせていない。

 世のカップルのように、とは言ったものの、いざセックスするとなると『ここで……?』と不満が湧く。


「ここのバスルームだと声が響くだろ。セックスの時の葉璃の声ってマジかわいーから、隣近所のオヤジ共のおかずになりかねない」
「い、いやそんな……っ」
「だったらベッドでヤるしかねぇんだけど、俺らいっつもベッドをグチャグチャにすんじゃん。……タオル用意しときゃいけるか?」
「えっ……」
「んー……」


 そういう問題でもない気がする、と戸惑い顔の葉璃が聖南を見た。


 ── バックはダメだろ、葉璃ちゃんいっぱい出すだろうし。じゃあ正常位? いやこれもダメだ。いつもベッドがグチャグチャなってる。……いっそ立ってヤるか? 駅弁なら……って、前に家でヤって廊下の床がヒドい事になったっけ。


 腕を組み真剣に悩み始めた聖南を前に、葉璃は態勢を整えて正座した。

 まさか、極力二人の体液を残さない形で致すにはどの体位がベストかを考えているなど露知らず、葉璃の瞳が綺麗な聖南の真顔に見惚れている。


「──葉璃、上乗れる?」



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