狂愛サイリューム

須藤慎弥

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52★♣〝嬉しい話〟

52★③

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 メモを取りたかったほど情報量の多かった、セナさんによるレイチェルさんを諦めさせる作戦とやらは、葉璃の説明だけではルイさんと推理するのもなかなか難しい。

 話を聞いた直後、俺とルイさんは二人して顔を見合わせた。そして、「今の説明で分かりました?」、「いや全然分からん」と視線だけで会話をした。

 葉璃がちゃんと理解しているなら、それをもっと細かく聞きたいと思っていて、あの日から三日後の今日そのチャンスが訪れている。

 お昼のバラエティー番組に出演した俺と葉璃は、たった今、番組終盤に新曲披露と告知を終えた。

 二日前や今日みたいに、ETOILEとしての新曲発売の度にこういう機会を頂けているんだけれど、葉璃にとって短いスパンでの本番はかなり精神的にこたえるらしい。

 例によって葉璃を落ち着かせる役目を担っている俺は、本番前はもちろん、エンディング後に楽屋に戻るなり微かに震える体を優しく抱きしめた。

 いつも思うけど……本当に葉璃は、抱き心地がいい。


「……震え、止まった?」
「……うん。……いつもありがとう」


 ごめんね、と苦笑いで見上げてくる葉璃に、出来ているか不安な笑顔を向ける。

 葉璃の上がり症は、デビュー直後に比べるといくらかは治ってきているものの、相変わらず緊張し始めるとぷるぷると震えだす。

 楽屋の隅っこで負のオーラをまとっていじいじしなくなっただけ、まだマシだ。


「何のために、俺がいると思ってるの。謝らなくて、いいんだよ」
「……ありがとう……」


 今だけは、俺のことをセナさんだと思ってていい。これは、物凄く渋々ではあったけれど、セナさん公認の抱擁なんだから。


「林さん、あと三十分は、かかるんだって」
「そうなんだ。最近さらに忙しそうだね」
「うん。……ルイさんは、今、お手洗いじゃないかな」
「あ、うん」


 今日ははじめから俺たちに付き添ってくれているルイさんの姿が見えないと、視線で探している葉璃にそう言った。

 葉璃を抱きしめたまま喋ることにも、ずいぶん慣れた。

 はじめは俺が妙に緊張していて、葉璃を落ち着かせながら自分にも〝落ち着け〟と言い聞かせていたっけ。

 そう考えると、緊張するどころか葉璃の背中を擦ってあげる余裕まで出てきた俺の中で、ちゃんと順応性が育っているんだろう。


「恭也、まだその……ヤキモチある?」
「うん? なんの?」
「一昨日言ってたよね。ルイさんにまだヤキモチあるのかなって」
「あぁ、その事?」


 葉璃の口数が減り始めるまで、本番前の時間をたっぷり使って二人で語らった二日前、情けない胸中を打ち明けたことを思い出す。

 あれから俺は、その日のうちに林さんに連絡した。ドラマの仕事を受けると返事をすると、迎えに来た林さんにすごく喜んでもらえて、葉璃にも背中を押してもらえた俺は、無事にやる気が湧いている。

 ただそうなると、やはり必然的に葉璃とルイさん、二人きりの時間が増える。

 もちろん妬かないことはない。

 今は大丈夫だと大口を叩いても、日を追うごとに寂しさと焦りは募っていくと思う。

 でも、……。


「まったく無いって言ったら、ウソになる。でも前ほどは、ヤキモチ焼いてないよ」
「そ、そうなんだ?」
「ルイさんも、気遣い屋さんでしょ。俺が、二人の仲に妬いてるの、見抜いてると思うんだよ。だから、葉璃が居ないところで、二人きりになると、積極的に話しかけてくれる」
「そっか、……そっか……」


 考えてみると、葉璃が居ない時、俺とルイさんの二人になる事があっても気まずさや遠慮があまり無かったのは、ルイさんがかなり気を回してくれていたのだと気が付いた。

 口下手な俺に、口達者なルイさんが話題を振ってくれて、しかもそれは主に葉璃についてだった。

 二人の共通点が葉璃だから、というのもあるんだろうけれど、それを自然に言動で示してくれていたルイさんには、もうあまりヤキモチを焼くまいと決めたのだ。


「安心した?」
「うん……うーん、……」
「どうしたの? 煮え切らないね?」
「うーん……なんだろ。ヘンなの」
「え?」


 あまりにもみっともない心境を打ち明けたからか、葉璃は俺を気遣って問うてくれたのだと思ったんだけれど……様子がおかしい。

 「ヘンだよ」ともう一度呟いた葉璃は、それを自身に言っているように聞こえる。


「何がヘンなの?」
「二人が仲良くなるのはすごく嬉しいんだけど……今度は俺がヤキモチ焼いちゃってるかもしれない……」
「えぇっ?」
「ヘンだよねぇ……」
「…………」


 それはえっと……? ……ん?

 葉璃の一番の理解者であると自負する俺でも、理解するのに数分かかった。

 俺とルイさんが二人でいると、葉璃がヤキモチを焼く……?

 分からない。あり得ない話だ。

 でももしそれが本当なら、葉璃はまた妙な妄想に走っているという事で、何なら自分は遠くからそれを眺めてムムッと口をバッテンにして俺たち二人に妬いている……そう解釈していいのかな?


「葉璃、可愛い……っ」
「うぐっ……!」
「それはどっちに? 何に、ヤキモチ焼いてるのっ?」
「分かんないよ! なんかモヤモヤっとするだけ! 二人はすごくいい感じなんだよ、並んでると絵になるっていうか……! いつでもどこでもステージの上にいるみたいになるっていうか……!」
「絵になる、ねぇ……」


 あ、あぁ……そういう意味か。

 なんだ。単なる妄想で突っ走っているのかと思ったら、とても現実的なヤキモチだったな。

  勢い余って葉璃を抱きしめた俺は、葉璃の発言に首を傾げるしかなかった。

 俺はともかく、子役を引退して以降 芸能活動をしてこなかったとは思えないくらい、ルイさんはとても華があると思うよ。

 対して俺は……ルイさんと並ぶと気配が消える気がする。俺に華なんて無いし、並ぶと絵になると言われても……。

 頭の中で俺とルイさんが並んでいるところを想像しても、俺の顔にだけ靄がかかる。やっぱり、葉璃のヤキモチは「ヘン」でしかないよ。


「あ゛ぁ! また俺のおらんとこで二人でイチャつきよるー! 俺もまぜて! 俺も!」


 俺が苦笑いを浮かべたその時、足音まで賑やかなルイさんが勢い良く楽屋に入ってきた。


「うわっ、……!」
「うぷっ!」


 そして、抱き合う俺たちに被さるようにしてぎゅぎゅっと抱きついてくる。

 ルイさんは、俺と葉璃の抱擁を見るとすぐにこうして三人でのハグをしたがる。

 出番前もそれでひと悶着あって、意識が飛びそうな葉璃を俺とルイさんで代わる代わる抱きしめた。

 葉璃を常に独り占めしたいとは思っていない俺は、その悶着が楽しくて仕方がなかった。


「ふふっ……。葉璃、これでもまだ、妬けちゃう?」
「……ううん。今は全然」
「そう。良かった。あぁでも、葉璃がモヤモヤっとするのは、俺とルイさん、二人きりの時なんだっけ」
「そうそう、そうなんだよ」


 もっと付け加えると、葉璃が言いたいのは〝俺とルイさんが並んでるところが絵になる〟から、妬いちゃうんだよね。

 俺にはちょっと、分からないヤキモチだけれど。



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