狂愛サイリューム

須藤慎弥

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52★♣〝嬉しい話〟

52★④

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「何? なんの話?」


 三人での抱擁は苦しくて、それぞれ自然に各々の持ち場についた。

 分からない会話をしていた俺たちに、ルイさんが飲みかけのペットボトルに口をつけながら問うてくる。

 俺と葉璃は並んでパイプ椅子に。ルイさんは、置かれた長机にぴょんと飛び乗る。位置は俺と葉璃の間だ。


「葉璃、俺とルイさんが、仲良くしてると、モヤモヤっとするらしいです」
「なんで? 意味分からん」
「逆に、葉璃とルイさんが二人きりの時は、俺がモヤモヤっとします」
「はい~? 何やそれ。もっと意味分からん」


 二十歳手前の男二人がするには幼稚な会話だけれど、俺と葉璃には重大なことだ。

 でもルイさんにはまるで意味不明らしい。

 俺や葉璃に対する言動で、ルイさんがかなり気遣い屋さんだと知っているのに……本当に意味が分からないのかな。

 だとすると、ルイさんの気遣いには裏が無いという事になる。


「ルイさんはモヤモヤっとしないんですか?」
「何が?」
「俺と恭也に」
「モヤモヤっと? ……あ、今みたいなん? 俺のおらんとこでイチャついてたり、とか?」
「……? はい」


 ルイさんのそばまで腕を伸ばした葉璃は、番組側が用意してくれていた飲み物に手をかけた。

 お茶を二本取り、当然のように俺にも手渡してくれる。……嬉しい。


「無いことも無いけど、そんなんマジで気にしたことないなぁ。だって二人は裏表無いし、俺のことめちゃめちゃウェルカムやん。ほんまの意味で除け者やって感じたことないで」
「そう、ですか……」
「そう、ですか……」


 やや上を向いて語るルイさんをジッと見ていた葉璃と俺の声が、シンクロする。

 知り合って間もないのに、俺にはもちろん、特に葉璃とは昔からの知り合いのように親密になったルイさんを、ETOILEの新メンバーとして歓迎している気持ちに嘘は無い。

 オーディションで参加者から足を引っ張られていた事をつい最近まで知らなかった俺は、あの時の葉璃の激怒の意味をようやく知った。

 ルイさんは確かに巨大なコネでオーディションに参加していて、その最中もCROWNのバックダンサーをし、さらには葉璃の付き人まで行っていたから、誰が見てもデキレースに違いなかった。

 とはいえ実力が伴っていなければ最終選考にも残らないはずで、これは俺と葉璃ではどうしようもなかった事。

 葉璃とルイさんは、犬猿の仲から一転して彼のおばあさんの件を境に急速に仲良くなった。

 それに対し俺とルイさんは、お互いの本質を探り合いながらゆっくり親しくなった経緯がある。

 葉璃が倒れて病院に運ばれたあの日、その場に居たルイさんが助けを求めて連絡してきたのは俺だった。少しずつでも、俺との絆も深まっていると思う。

 はじめは〝葉璃が認めた人なら〟という一歩引いた考えだったけれど、今は〝ルイさんなら〟と考えを改められている。

 それに何より、ルイさんが言うように本当に俺と葉璃には裏が無いんだ。まだ業界に染まっていないからかもしれないけれど、俺たちには縁遠い話だからそこは心配要らない。

 ルイさん本人がそういう思いでいてくれたのなら良かった、と胸を撫で下ろした次の瞬間。


「ハルポン、おいで!」


 長机からジャンプして下りたルイさんが、大股で三歩進んだ先で立ち止まり、両腕を広げて葉璃を呼んだ。


「はいっ?」
「早う! おいで!」
「は、はい……っ!」


 えっ? と戸惑う葉璃は、両腕をブラブラさせて急かされた事でスクっと立ち上がり、訳が分からないままルイさんに収まりに行った。

 ルイさんはそんな葉璃を、ひっしと抱きしめている。


「……な? こうやってすぐ来てくれるようになったやろ? 最初は恭也やないとヤダー言うてたのに」
「そうでしたっけ……」
「そうでした」


 フッと笑うルイさんにぎゅっと抱きつく葉璃は、表情こそ見えないけれど後ろ姿だけでも戸惑いが感じられて、可愛かった。

 俺に抱きついている時も、あんなに儚げなんだろうか。

 突然ハグを求められた葉璃は、訳が分からないと首を傾げながらルイさんから離れた。


「そんじゃ次。恭也、ほれ」
「え?」


 微笑ましい光景を見守っていた俺はというと、完全に油断していた。

 先ほど同様、両腕を広げてブラブラさせているルイさんから「早う」と急かされる。

 いったいこれは何なの……。

 両腕を広げているという事は、俺も葉璃みたいに抱きつきに行かなきゃいけないらしい。

 これで何かを図ることが出来るならと、俺はゆっくり立ち上がり、ルイさんとハグをした。

 俺と同じ背丈の男性とハグをするなんて抵抗があるかと思いきや、そんな事もなく。

 海外での文化を真似たこれは、親愛の情を無言でも伝えられる。なかなかいいものだという感想を抱いた。

 俺とルイさんの抱擁を、すぐそばで見ていた葉璃はやや違った見方をしていたのだが。


「う、うわぁ……! いい……! ほらやっぱ絵になる! わぁ、わぁ……! ちょ、ちょっと写真撮っていいですかっ?」
「……写真?」
「あっ、スマホあっちだ! 取ってくるんで、二人はそのまま! 動かないで!」


 小さな手のひらで口元を隠した葉璃が、何やら興奮し始めた。

 私服のポケットにあるというスマホを走って取りに行き、こちらに戻って来る時もなぜか小走りだ。


「ハルポン何を興奮してんの?」
「俺とルイさんが並ぶと、絵になるそうです。いつでもどこでも、ステージの上にいるみたいになる、とか……。葉璃いわく、ですけど」
「ふぅん……」
「ルイさんはともかく……俺は、ありえませんよ」
「そうかぁ? 俺はハルポンの言うてること分かるけどな」
「え?」


 動かないで、と言われたものの、そのまま抱き合っているのはちょっとどうかと思い、謎の肩組みをした。

 葉璃が興奮しているのは可愛くていいんだけれど、どう考えても俺は被写体には向かないというのに、ルイさんまでも葉璃に同調している。

 意味が分からない。


「あっ、なんでハグやめちゃってるんですか! はい、ぎゅっして! ……そのまま! そのまま! ムフッ! わぁ、いい! めちゃくちゃいいです! 二人ともカッコいい!」
「あはは……っ、ハルポン……っ」
「…………っ、……っ」


 大興奮でスマホのレンズを向けてくる葉璃に、ルイさんも俺も笑いが止まらなかった。

 こんなに機敏な葉璃は、見た事が無い。しかもずっと「えへっ」、「むふっ」とニヤついていて、笑うなという方が無理だ。

 俺たち二人共を持ち上げてくれていた発言は、どうやら偽らざる気持ちだったみたいで、まさに今それを体現している。


「どんだけ撮るねん。もうええやろ」
「よくないです! あとは俺が堪能する時間です!」
「堪能……?」
「あかん……っ、ハルポンがスケベなカメラマンみたいなっとる!」
「あはは……っ! 確かに」
「スケベなカメラマンって何なんですか!」


 いやいや、言い得て妙だよ。

 シャッター音をかき消すほど「むふっ」と大興奮していた葉璃は、この機を逃すまいとばかりに満足いくまで俺とルイさんをハグさせ続けたんだよ。

 まぁ俺たちも、嫌だったらそもそもハグなんてしないし、なんと言っても活発な葉璃を見ることが出来て楽しかったからいいんだ。

 ていうか、こんな事で良ければいつでも被写体になったのに。

 葉璃限定で、だけれど。




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