狂愛サイリューム

須藤慎弥

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53❤︎やきもち

53❤︎⑨

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「じゃあ何? レイチェルはその記者から連絡もらって、すぐにセナに確認してきたって事?」
「そうなるな。とりあえずこの時間に詮索の連絡してきたって事は録音と着歴で残した。証人も三人居るし証拠としては充分だ」
「証拠だったら、この後と朝も取れるんじゃね?」
「フッ。……だな」


 聖南とアキラは不敵に笑い、レイチェルの行動に寒気がしたらしいケイタは自身を抱き締めて「うぅっ」と唸った。

 ともあれ、葉璃が居てこそのプランでまんまと相手を揺さぶる事が出来ている。

 今日のように、事務所の先輩後輩の間柄だと何ら違和感無い状況での葉璃との接触を、聖南は約三ヶ月かけてレイチェルと通ずるマスコミに追わせるつもりなのだ。

 その目的は、後々社長に真実を突きつける証拠という名目である。さらには、今後のヒナタの公表時にもこれは重要な切り札となる。

 食事をしながら、聖南はアキラとケイタにプランBについてを打ち明けた。

 彼らは聖南が提案したプラトニックラブの意味をすぐに察してくれて手前が省けたと同時に、録音内容を反芻したのか我が事のように憤りを覚えている。


「──なるほどな」
「ふむふむ。……あの様子じゃただフるだけじゃダメだよねぇ。しかもセナとハル君のこと疑ってて、しかもしかもマスコミと繋がって自分にとって都合の良いように吹聴してるだなんて。とんだお嬢様だ」
「報道規制が解除されたら一気に記事出すつもりなんだろうな」
「だろうねぇ。それがデビュー後だったらレイチェルにとってますます都合が良いもんねぇ」
「社長の姪って立場だと、セナが強く拒否れねぇの分かっててやってんだからな。まったく胸糞悪い話だ」


 ──こいつらマジでいい奴だ……。


 せっかくの食事の席でこんなにも私的内容の話をして申し訳ないと思いながらも、絶対的な味方である彼らにはどうしても直接打ち明けておきたかった。

 聖南にとって家族同然の二人は、面倒がらずに話を聞くだけでなく、協力出来る事は何でもすると平然と言ってのける。

 そして何より、聖南と葉璃の気持ちに寄り添ってくれる。

 聖南が説明している間、気配を消して黙々と料理に舌鼓を打っていた葉璃は、一言も口を挟んでこなかった。

 先程の通話で少なからず動揺したであろう彼の本心は分からないが、この状況でも無心で腹を満たす、そういうマイペースなところが聖南は好きなのだ。


「あの……」


 テーブルの下でそっと葉璃の左手に触れようとすると、それまで無言だった彼が突然声を上げて聖南の動きが止まった。

 最後に残ったデザートらしき四角い何かを見つめているので、謎の食べ物は口にしたくないのかと聖南は葉璃の顔を覗き込んだ。


「ん? それ食えない?」
「えっ? あ、いや違……」
「ゆず風味の水ようかんだ。甘さ控えめで美味かったよ」
「あ、そ、そうですか」


 聖南はそれをすでに食しており、なかなか美味しかったと感想を伝えるも、葉璃の表情を見るからにちぐはぐな回答をしたようである。

 だが聖南がそう言うならと、葉璃はおずおずとそれを一口で食べきった。

 戸惑いの原因は分からぬまま、手を合わせている葉璃の横顔に見惚れていると、対面に掛ける二人から聖南には耳の痛い事を問われてしまう。


「セナのプランは分かった。でもハルはどうなんだ。このプランはハルにとっては不快でしかないだろ」
「そうだよ。セナの独断であんな提案して事後報告だったとしたら、ハル君は呑むしかなくなるじゃん。ちゃんとハル君の気持ち聞いたの?」
「…………」


 それについてだけは、聖南が答えてやる事は出来なかった。

 聖南のプランに乗ってくれたはいいが、とてつもなく悪い方へ曲解していた葉璃の真意は図れない。

 形だけとはいえレイチェルを浮気相手にするなど、恋人の立場からすると不快だと思う。

 だからこそ頻繁に会って愛を囁く機会をたくさん設けるつもりで、且つ聖南の心身の安寧のためにもこれからの密会は欠かしたくないのだ。

 聖南は、葉璃を失う事だけが恐怖だった。

 そして彼女が、何よりも大切な葉璃が一番嫌だと思うことを切り札として掲げている事についての怒りは、報復するに値する。

 葉璃が協力してくれさえすれば、聖南はどれだけでも強く、冷たくなれる。


「あっ、それに関してだったら俺は大丈夫です! 最初はちょっと誤解しちゃって、俺が一番邪魔者じゃんって思って……。出来るだけやんわり別れ話してくださいって聖南さんに言っちゃったりしましたが……」


 ここは葉璃の回答を待つべきだろうと黙り込んだ聖南の代わりに、ネガティブながら芯のある恋人が勇んでアキラとケイタに答えた。


「……ハルはそう捉えるだろうな」
「ハル君……なんて健気なの……」
「そんないいもんじゃないですよ! 出来れば別れたくないですけど、仕方がない時もあるかなって最初から分かってたんで……。相変わらずぐるぐるはしちゃいますけど、その時がきたら俺は……覚悟出来てます。でもなるべく傷付きたくないので、やんわり言ってくださいって伝えたら怒られました」
「ハル君……」
「……ハル、心配するな。天と地がひっくり返ってもセナがハルを離すわけない。でももしも、もしもだ。その時があったら俺がちゃんと責任取る」


 葉璃は誤解していた事を自覚しているようなのだが、やはりまだ卑屈な思いがわずかに残っていた。

 聞き捨てならない聖南は、そんな覚悟など要らないと説得にかかるつもりで体ごと葉璃の方を向く。

 ただアキラが、明らかにおかしな事を言い出した。それはかなり、聞き捨てならないレベルを大幅に越えた、タブーとも取れる発言である。


「責任取るって何だよ」
「俺がハルを貰うってこと」
「えっ!?」
「はぁっ?」
「えぇっ? アキラ、大胆だねぇ!」


 クール一徹な彼らしくない大胆な発言に、三人は一様にギョッとした。

 葉璃とケイタは、軽率にそんな事を言うタイプではないアキラの宣戦布告まがいの台詞が、まさか彼から発せられたとは到底信じられなかった。

 聖南に至っては相手がアキラなので反発しようが無く、沸々としてしまう。


「何でそうなるんだよ! 葉璃はやらねぇからな! 絶対!」
「分かってる。セナ、それくらい危機感持てって言ってんだ。何かあった時……そのもしもが不本意だとしても現実になった時、俺じゃなくてもハルを掻っ攫いたいと思うやつが居るって事を忘れるな」
「あ、あの!! こんな空気の中で言いにくいんですけど……! ちょっとトイレに行ってきていいですかっ? もう漏れちゃいそうで……!」
「あはは……っ、ハル君我慢しちゃダメだよ。早く行ってきな! 出て左を真っ直ぐね」
「分かりました!」


 すみませんっ、と言うなり、限界まで我慢していたのか葉璃は小走りで出て行った。

 ついさっき彼が言い淀んだのは、お手洗いに行きたかったが席を外していいものか迷っていたからだったらしい。

 途端に花のような明るい存在が居なくなり、部屋がシックなカラーに染まったような気がする。

 聖南の心もまさにそんな風で、悔しいかなアキラの真剣さが胸に響いていた。


「……言われなくても分かってる。俺の行動、活動理念の底には常に葉璃が居る。葉璃が居なくなったら俺は生きてる意味が無くなる。……てかアキラ、葉璃のこと掻っ攫いたいと思ってんの?」
「まさか。俺はお前のことも大事なんだぞ、セナ。でもまぁ、あわよくば、が無いことを祈ってるよ」
「……っ、いやそれほぼ答えみたいなもんじゃん!」
「ははっ、やっぱセナは察しがいいな」
「アキラ……もうその辺でやめときなって……」
「うるせぇ。俺は大真面目に忠告してやってんだ。分かるだろ、セナ」
「あぁ、ちゃんと分かってる。お前だからヒヤッとすんだよ。マジで鞍替えされそうで」
「セナを相手にしてるハルが、俺で満足するはずが無い」
「ププッ……言えてる。誰が相手でもセナに勝てるわけない。無理だよ」


 ──それはどういう意味だ。褒められてる気は全然しねぇぞ。


 馬鹿にされてもいないのだろうが、二人の表情が言葉通りに受け取らせてくれない。

 ……という事は、おそらく聖南はアキラとケイタから言外に発破をかけられつつ、さらに揶揄されたとなり、言葉を失った。

 気のおけない仲だからと、言葉の裏を読まなくてはならない会話はあまりしたくはないのだが、悪感情の無い二人だから許せる事もある。









 
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