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4❥ライバル
4❥④
しおりを挟むいつもいつでも会いたいと思っているが、今日は特にそう感じる。
取材を受けていた葉璃は、恭也と共に夕凪社のロビーで聖南の迎えを待っていた。
これから映画の撮影に行くという恭也は、林マネージャーが迎えに来るとの事で、それまで聖南の車に乗車させて時間を潰させる。
会う度に精悍な顔付きになっていく恭也は、猫背でオタク風だった初対面時の印象から完全にかけ離れた。
「まーた恋愛映画なんだって? 漫画原作の」
出版社の駐車場に停めた聖南の車の後部座席に、葉璃と恭也が乗り込む。
なぜ葉璃も後ろに乗るのかと咎めようにも、心が狭いと思われたくなくて我慢した。
恭也とは約二ヶ月ぶりに会うので、林を待つ間に近況でも聞いてみようとしている聖南の視界の先で、いつもながら親友と呼ぶにはどうにもおかしい二人の距離感が目につく。
ルームミラー越しに目が合った恭也が、撮影のために綺麗にセットされた髪を揺らして聖南の問いに神妙に頷いた。
「はい、そうです。 俺は、恋敵役です」
「恭也が恋敵か。 主役食っちまいそうだな。 前回のが八月に封切りだっけ?」
「よく、知ってますね。 撮り終わったのは三月……だったかな。 それも、恋敵役、でした」
「なんだ、恋敵が恭也のハマり役なのか」
事務所のゴリ押しだとはいえ、デビューしたその年に二本も準主役級の役を貰えるとは、相当演技力を買われているのだろう。
聖南は映画全般、特に恋愛映画にはまったく興味はないが、後輩のものとなると話は別だ。
このゆったりとした話し方の穏やかそのものな恭也が、恋敵役を熱演するなど想像も付かないしで妙に面白い。
演技の世界はこれだから分からないのだ。
本来の自分とは違う者を演じる、それが出来なかった聖南はその才能が無かった。
恭也の俳優としての才能をいち早く見出した聖南は、勝手に鼻高々である。
「恭也は人のもの取ったりしないのにね。 でも一回だけ撮影現場見た事あるけど、恭也にあんな顔があるなんて知らなかったよ……」
「えっ? 葉璃が見学に来たのって、ちょうど俺が、主役の女優さんに迫るとこ、……だったよね……?」
「そうそう。 恭也が女優さん襲ってた」
「俺はあんな事、しないからねっ? 葉璃にも、してないでしょっ?」
「葉璃を襲おうとしたら俺が登場するぞ」
登場って何ですか、と笑う葉璃の隣で、恭也は苦笑を浮かべていた。
この恭也が強気で女優に迫るところなど、まるで想像出来ない。
「やだなぁ……。 続けて恋敵役なんてしてるから、俺がまるで……」
「分かってるよ、恭也。 恭也はそんな事しないもんね」
「……葉璃ー……」
「でもイメージってのは怖いからなぁ。 漫画原作の恋愛映画って中高生とか原作好きにはプチ当たりすんじゃん? 公開されてからの周りの反応楽しみじゃね?」
「聖南さん!」
けしかけた聖南は、気のおけない仲なのをいい事にククッと笑ってルームミラーを見た。
葉璃の一喝が飛んできて我に返ると、恭也が葉璃の手を握っている。
それだけならまだしも、葉璃の頭まで撫で始めた。
「いいよ、葉璃。 葉璃が俺の事を、分かってくれてたら、それでいい」
「うん! 俺は恭也の一番の理解者だ!」
「そうだよね。 葉璃が居てくれたら、俺は、何を言われても、平気。 だから葉璃も、落ち込まないでね。 ゆっくりゆっくり、成長したら、いいんだからね。 俺が、ついてるよ」
「……ありがと、恭也……っ」
おい!と声を上げる隙も無く、聖南の目の前で二人はひっしと抱き合った。
恭也の口振りからして、葉璃が成長出来ていないと嘆いた件を知っている。
つまりそれは、葉璃が聖南にまで隠そうとしていた件の話を、恭也には難無く打ち明けたという事を意味していた。
聖南にだけ吐露していればいいものを、この友達以上恋人未満の怪しい二人の間に隠し事は一切ないらしい。
葉璃に恋愛感情は無いときっぱり断言していた恭也相手だが、それでも嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
「……葉璃ちゃん、前に乗りなさい。 俺の前で抱き合うなんていい度胸してんなぁ、恭也」
「聖南さんが意地悪言うからでしょ!」
「ほんとの事言っただけだろー? はいはい、早くこっち来て。 俺の事もぎゅーして」
「前の席はこの黒いやつ貼ってないからダメです」
「なんで! じゃあ俺も後ろ行く!」
なぜ恋人である自分はダメなんだと、聖南は無理やり運転席から後部座席へ移動した。
スモークが貼られてなかろうが関係ない。
とにかく今すぐ抱き締めてほしくて、葉璃と恭也の間に割り込んだ聖南は両手を広げた。
「狭いですよっ」
「ふふふふ……っ、セナさんと葉璃、相変わらずラブラブで、いいですね」
「だろだろ~。 はい、ぎゅーして」
「しょうがないなぁ……」
ここまでしなくても……と呆れた葉璃は、クスクス笑う恭也を横目にワガママな恋人をぎゅっと抱き締めた。
今日は無性に葉璃に会いたい。 そう思っていたが、会えばますますその思いは強くなった。
強い瞳に撃ち抜かれた聖南には今や葉璃が必要不可欠で、その存在なくしては心が保てない。
背後で「あ、林さんだ」と呟いた恭也の声にも、聖南はしばらく振り返らずに小さな体躯を抱き締め続けた。
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