狂愛サイリューム

須藤慎弥

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4❥ライバル

4❥⑤

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 夕食を済ませ、満腹でご機嫌な葉璃を言いくるめてバスルームに連れ込む。  それから二人で長い間そこにこもった。

 お仕置きと称して洗浄シーンを見てからというもの、今までの分を取り返すように聖南は葉璃との入浴が楽しみで仕方がない。

 勿体無い数カ月を過ごしてしまった。

 跪いた葉璃が、小さな手と指先を駆使して中を洗おうとする姿を目の当たりにした聖南の理性は……瞬殺だった。

 我慢って何だっけ状態に陥り、自ら鼻血の確認を何度もしたが出血には至っていない。

 洗浄を手伝い、喘ぐ葉璃を腕に抱いて聖南が手を出さないはずもなく、今日も順調に「二時間」愛した。

 バスルームでのセックスはのぼせるから嫌だとぼやく葉璃は、現在ベッドでくたりと横になっている。

 ──聖南にそっぽを向いて。


「葉璃ちゃん、水飲む?」
「いらないです」
「気分悪いのか?  てか顔見せてよ」
「…………イヤ」
「えー……また俺を拒否んの?  それとも、煽ってる?」
「あ、あっ?  煽ってないですよ!」


 グイと華奢な肩を掴んでこちらを向かせると、葉璃のほっぺたがまん丸に膨らんでいた。

 中性的で可愛らしい顔がさらに可愛くなるこの癖は、何度見ても一瞬息を呑む。


「やっぱ煽ってんじゃん。  俺がその顔に弱いって分かっててやってんだろ?  葉璃ちゃんのエッチ♡」
「違っ……!  聖南さん明日五時起きだって言ってたでしょっ?  エッチしてる場合じゃないですよ!」
「いやでも、まだ十一時だからさ?  あと二時間延長したい」
「ダメです!」
「どうしても?」
「どうしても!  さっきのでのぼせちゃって体ふにゃふにゃなんですよ、俺」


『ふにゃふにゃって……かわいー表現すんなぁ。  ふにゃふにゃ葉璃ちゃんそそるんだけど』


 葉璃を抱き締めていると、欲望に忠実な我が分身が今にもムクムクと頭をもたげそうになる。

 しかし、引き際を心得ていないと葉璃は本気で聖南を叱りにかかる。

 まだ一度もシていないのであれば流されてくれるのかもしれないが、バスルームでふにゃふにゃになるほど愛した後なだけに、それはそう簡単な事ではない。

 葉璃は、自身が思っている以上に真面目ちゃんだからだ。


「分かった分かった、そんなかわいー顔で睨むなよ。  背中トントンして、葉璃ちゃん」


 言いつつモソモソと薄手の毛布の中で態勢を変えていく。

 葉璃の腕に頭を乗せた聖南は、細い体にぎゅっと抱きついて甘えた。

 忘れようにも忘れられない、レイチェルからの痛い言葉が未だぐるぐると頭を巡っていたのである。


「……今日はそういう日ですか?」
「ん。  そういう日」


 そうですか、と呟いた葉璃の声は、就寝間際でまどろんだ落ち着いた声音だった。

 葉璃の手のひらが穏やかに聖南の背中を打つ。  一定のリズムで、例えるならそれは赤ん坊を寝かし付けるそれである。

 セックスで自身の気を紛らわせようとしたわけではないが、これ以上はダメだと葉璃が言うのなら従うしかないわけで、そうなると聖南は珍しく狼狽えた今日の出来事にぐるぐるする羽目になる。

 そうならないように葉璃に支えてもらおうと、体と口が勝手に「そういう日」とした。


「聖南さん、姪っ子さんと会えました?」
「……あ、あぁ」


 まさにその者によって心をかき乱された聖南は、葉璃の問いに内心ドキッとする。

 狼狽えてなどいないと思いたかったのに、葉璃からその話題を出されて僅かにも動揺した自身を信じたくなかった。


「会ったよ。  見た目日本人じゃねぇけど日本語ペラペラだった」
「そうなんですね。  ……歌、全然違和感無かったですもんね」
「あれだけの技量がありゃ日本だけじゃなく世界に通用すると思う」


 口撃については語らなかったが、聖南は至って普通通りに率直な第一印象を葉璃に述べた。

 レイチェルの声質、歌声には文句の付けようがない。

 葉璃も幾度となく聖南の隣でレイチェルの歌う姿を画面越しに観ていただけに、なんの疑いもなく頷いた。


「そっか。  あんなに素敵で才能溢れる方だと、聖南さんの腕が鳴りますね」
「……まぁな。  楽しみなのと、プレッシャーが半々」
「聖南さんがプレッシャー?」


 背中をトントンしてくれていた手が止まる。

 言うまいと思っていたはずの余計な事まで言ってしまった。  

 聖南の弱さは葉璃にならいくらでも見せられる。  情けなく大きな図体を丸めて葉璃に抱きついている今まさに、聖南の狼狽を表していた。

 きっとこのまま寝かし付けてくれたとしても、葉璃に言えないまま落ちたところで夜中に必ず目を覚ますだろう。

 いくら考えを改めてやる気満々になっているとしても、聖南にとっては考えないようにしていた事案そのものだ。

 聖南は創りたいものを創っている。

 事務所やレコード会社、世間、何より大切にしなければならないファンに喜ばれるものを、一つとして外す事なく世に出してきた。

 だからこそ今の地位がある。

 この世界でしか生きていく術がないのなら、すべてを慮るしかない。

 幸いな事に、いつからか好きが高じてプロデュース業までこなしている聖南には、不可能はないと自身でも強く信じ切っている。

 たとえ今までにないほどの重責がのしかかり、目を背けざるを得なかった核心に触れられたとしても、聖南はそのプレッシャーさえ力に変えなくてはならない。

 
「俺に出来るかなーっつープレッシャーじゃねぇよ。  絶対にやらなきゃなんねぇプレッシャー、だな」




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