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4❥ライバル
4❥⑩
しおりを挟むまるで緊張感なくCROWNの楽屋へ入ってきたルイに驚き、ケイタが立ち上がる。
聖南は缶コーヒーの持ち手を変えて、ルイに右手を上げた。
「よぉ、ルイ」
「CROWNのバックダンサー付くのは来月のアリーナ特番だろ?」
「そうなんすけど、大塚社長に見学行って来いって命令されちゃって」
「見学?」
「見学?」
「……見学?」
ルイは空いていたケイタの隣に腰掛けると、首を傾げた三人に構わず「これ貰っていいっすか?」とミネラルウォーターのペットボトルを手に取った。
大塚の所属タレントでもないルイを、一人で生放送の見学に寄越すとは、長年の付き合いである聖南達にも社長の意図が見えない。
半分ほどを一気に飲み干し、蓋を閉めながら語られたルイの言葉にまたもやケイタが、そしてアキラまでも驚愕する。
「俺、ETOILEの新メンバー候補らしいっす」
「えぇぇっ!? ルイが!?」
「マジでか!」
事前にETOILEの加入候補メンバーが揃った事を知っていた聖南には、そこまでのサプライズ感は無かった。
正直、ETOILEの色とルイ個人の共通点は見付けられないが、たった一度共演しただけでその実力は十二分に解っている。
多くのレッスン生の中から聖南、アキラ、ケイタの三人を抜粋し、CROWNとして売り出した社長達の目利きがここでも発揮されようとしている、という事なのだろうか。
まだ本決まりではない話にも関わらず、それを知った聖南はなんとなく、ルイはETOILEに加入する運命にあるような気がしてならなかった。
しかし、当の本人はそう思っていないらしい。
「へぇ……ルイが候補に入ってんのか」
「俺は断るつもりなんすけどね」
「なっ、なんで!? ルイってダンスはもちろんだけど歌もかなり……!」
「ケイタさんは知ってますよね? 俺ブレイクダンス専門なんすよ? CROWNの振付けはアクロバット入ってるし好きだから踊りたいと思えるけど、ETOILEはザ・アイドルって感じやん。 俺の雰囲気もETOILEと合わんやろし」
なるほど、と聖南は腕を組んで小さく頷いた。
ブレイクダンス出身であれば、ETOILEの振付けに若干の抵抗を示しても致し方ない。 ETOILEは、CROWN以上にリリカルヒップホップ色が強いからだ。
歌詞に沿ったそれは、スタンドマイク前でも歌を魅せられるような振付けに拘っている。
これはデビュー曲のsilentを担当した振付師の意向と、聖南の強い要望によるものだ。
サビでの同じ振りの繰り返しが印象的な、まさにアイドルらしい振付けは確かにルイは好まないかもしれない。
「それならそうと社長に言えばいいじゃん」
「言いましたよ。 踊りたいダンスじゃない、俺の雰囲気とETOILEは合わない、もし俺が入ったらデビューしてから今までのETOILEのイメージぶち壊しますよって」
「ぶち壊しはしねぇだろ」
「社長もそう言うんすよー! ま、とりあえずETOILEの二人が候補者絞るって話聞いたんで、会った時に俺の気持ちは伝えるつもりっす。 半端な気持ちやと他の候補者に悪いしやな」
初対面での人懐っこさは健在で、ルイはETOILEのプロデューサーである聖南の前でも平気で自己主張してきた。
嫌なものは嫌だと言える者が貴重な世界だ。
自らと重なるルイの人柄に好感を持っている聖南は、直接的な言葉にも不機嫌になる事は無かった。
「潔いな。 ルイは売れたいとか儲けたいとか無いんだ?」
「無いっすね。 ダンスで食っていければいいとは思ってるけど、子役やってたから分かるんす。 ここがそんな甘い世界じゃないって事は」
「……なまじ経験あるとそうなるのかもな。 ダンスが好きならこれからもCROWNのバックダンサーとして居たらいい。 ルイの才能は埋もれさせとくには勿体無え」
「俺はその方がありがたいっす!」
子役として活動していたらしいルイには、夢を追い掛けたい気持ちよりも鮮明な「現実」が見えている。
それほど歳は変わらないが、ルイの感性と人柄にはやはり惹かれる部分が多々あって、本当に骨のある奴が入ってくれたと、聖南はフッと笑顔を零す。
二人の会話を静かに見守っていたアキラとケイタがホッと胸を撫で下ろした矢先、楽屋内にノックが三回響いた。
「おはよう、ございます」
「……おはようございます」
『葉璃っっ♡』
別の局での音楽番組の収録を終えた葉璃と恭也が姿を見せるや、聖南の視界が一気に華やいだ。
アキラとケイタも笑顔で出迎え、初見であろうルイに至ってはゆらりと立ち上がって二人の元へ歩んでいる。
「あっ、恭也、ハル君!」
「恭也、ハル、おはよ」
「お疲れ。 そこにETOILEの衣装も来てっから確認しとけ。 台本はここにあるからな。 林マネが合流したらすぐ打ち合わせ入るらしいぞ」
「はい」
「はい、分かりました」
リハーサルまで一時間も無いので、LilyとETOILEの両方をこなさなくてはならない葉璃にはゆっくりしている暇などない。
頷く葉璃も、恭也も、この番組出演が決まった日からそれは分かっている。
矢継ぎ早に、聖南が衣装のある位置を指差しながらの説明を終えるのを見計らい、一分一秒を争う葉璃の前に立つルイが、自己紹介を始めた。
「お疲れっす。 俺、ルイって言います。 CROWNのバックダンサーなんすけど、今日は訳あって見学に」
「あ……はじめまして。 恭也です。 よろしく、お願いします」
「…………っ!」
「握手、せんのか? ハル」
「…………っっ」
恭也とルイは見た目こそ真逆だが、同じような背丈で握手を交わす。
その様子を微笑ましく見ていた聖南だったが、いくらCROWNと接点があるとはいえ、葉璃が初対面であるルイと握手をするなどもってのほかだろうと笑う。
沈黙した葉璃を弁解してやるべく立ち上がった聖南だったが、……違和感を覚えた。
『なんだ、……? 葉璃、なんであんなルイの事見てんだよ』
固まった葉璃は、ルイの顔を凝視していた。
初対面の者とは目も合わせられないはずの葉璃が、驚きの形相で一心にルイを見詰めている。
聖南だけが浴びていたい最終兵器の瞳が、別の者を映している。
華やいだ視界が急に、胸騒ぎでいっぱいな胸中からグラグラと揺らいでいくようだった。
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