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5♡すれ違い
5♡
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─葉璃─
「……ル、イ、……?」
CROWNの、バックダンサー……?
……バックダンサー……?
この人、ズバズバ言う系の俳優さんじゃなかったの……?
「あ、く、しゅ」
「…………っ」
差し出された手が上下に揺らされて、その声にハッとした俺が渋々と手のひらを差し出すと、思いの外ギュッと握られてぶんぶんと大きく振られる。
これからの生放送で頭がいっぱいだった俺は、まさかあの憎きチャラ男がここに居るなんて思いもしなかったから……一瞬、自分がどこに居るのか忘れてしまった。
「あのな、ルイ。 葉璃は極度の人見知りなんだよ。 慣れたらめちゃくちゃ喋ってくれるから今は……」
「知ってますよ。 ETOILEのデビュー会見も、音楽番組とかバラエティも、ちょくちょく見てるんで」
「………………」
近付いてきた聖南を振り返る事なく、俺を見下ろして意味深にニヤッと笑ったチャラ男はまだ手を握ったままだ。
聖南に打ち明けて以来すっかり怒りも消え失せてたけど、この顔を見ると嫌でもあの時グサグサ言われた言葉達が脳裏に浮かんでくる。
「甘えてる」「成長出来てない」、初対面であんなにも失礼な事が言える無神経さが、俺には到底受け入れられなかった。
今もそうだ。
手を離せってめちゃくちゃ腕を引いてるのに、全然離す気配がない。
俺が人見知りで無言を貫いてると勘違いしている聖南が、せっかくフォローを入れてくれたのに……林さんが楽屋に走り込んでくるまで、俺はチャラ男に捕まっていた。
繋がれた手を無理に引き剥がす事をしなかった、精一杯我慢していた聖南の強い視線を浴びながら──。
「恭也くん、ハルくん、打ち合わせ別室らしいから行こうか」
「あっ、はい……! 恭也、行こ!」
「……うん」
勢い良く楽屋が開いたのに驚いたフリをして腕を振ると、やっとチャラ男から逃れられた。
不機嫌を顕にした聖南から無言で台本を渡されて、少し寂しい気持ちになりながら俺は林さんに付いて行く。
「……葉璃、ルイって人、知り合い?」
「え、っ? なん、なんで?」
「いや……葉璃が、知らない人をジッと見てるのって、あんまり見た事がないから」
「あぁ……あの、……」
そんなにジッと見てたっけ……?
確かに時が止まったみたいな感覚にはなってたけど、見詰めてた意識は全然無かった。
恭也がそれに気付いたって事は当然……間近で見ていた聖南にもそう見えてたって事だ。
だからあんなに不機嫌な顔してたんだ、聖南。
……あ、あとが怖いな……。
「その様子じゃ、何か、あるね?」
「……うん……」
チャラ男に出くわしたからって心乱されてる場合じゃないのに、明らかに動揺して台本を握り締めた俺の背中を、恭也がトントンと優しく叩いてくれた。
スタッフさんとの打ち合わせを巻きで終わらせてくれようとする林さんを見ていると、今日はほんとに、それどころじゃないんだって思い知らされる。
Lilyの影武者任務が決まってすぐに貰ったスケジュールに入っていた、ETOILEとLilyの出演が被った今日の生放送。
いつものスタイルで番組進行をしていくのではなく、二時間特番としての放送だから、お灸を据えられている最中のLilyは例によってトーク無しの曲披露だけだ。
俺は、この打ち合わせが終わったらETOILEとしてのリハーサルをこなして、それからLilyの楽屋に向かう。
運良くLilyの出番が先だから、ETOILEの本番までヒナタで居続けられる。 出番までスタジオでのひな壇待機も無くてさらに助かった。
もし順番が逆だったら、リハーサルでハルからヒナタになって、本番ではETOILEのハルに戻って、それから大急ぎでLilyのヒナタに……って、考えただけで大パニックだよ。
俺だけじゃなく、影武者を知ってる人達にも大迷惑を掛けてしまうから、出番順を見た俺は「これなら何とか大丈夫かも」と思った。
春夏秋冬、歌番組の特番常連であるCROWNも一緒だし、漠然とした不安はあっても実はあんまり心配していなかったりする。
俺がドキドキなのは、影武者がバレないかどうかと、カメラの前に立つ本番が二回もあるって事。
番組スタッフさん達にももちろん内緒の、ヒナタの正体は絶対にバレちゃいけない。
今月は歌番組が一回あったから、少しはLilyとしての立ち回り方は分かってる。
冷たい視線に耐えての練習の甲斐あって、ダンスに関してもほとんど不安を感じなくなった。
……でも、緊張するものは緊張する。
バレたら一巻の終わりで、この影武者で動いてる人達の努力も労力も全部水の泡になるんだ。
俺だけの戦場だった前回に比べて心強いのは確かだから、あとはもうやるしかないってモチベーションを三日前から保ってた、のに……。
「ハルくん、こちらへ」
打ち合わせを終えたその足で私服のままリハーサルをこなし、恭也と話をする間もなくLilyのマネージャーである足立さんが帽子とマスクを持って待っていた。
一度だけ恭也を振り返って頷き、心配そうに見守ってくれてる林さんにも同じように頷いてみせる。
何も考えちゃダメだ。
余計な事は、一切考えない。
ヒナタがバレないように、いま俺に出来る最善を尽くす。
「……はい」
今日は聖南がついてる。
アキラさんも、ケイタさんも、恭也も居る。
味方ばかりの影武者は初めてじゃない。 あの時と同じ……いやそれ以上の重圧がかかってるけど、俺はやらなきゃいけないんだ。
……やらなきゃ。
「……ル、イ、……?」
CROWNの、バックダンサー……?
……バックダンサー……?
この人、ズバズバ言う系の俳優さんじゃなかったの……?
「あ、く、しゅ」
「…………っ」
差し出された手が上下に揺らされて、その声にハッとした俺が渋々と手のひらを差し出すと、思いの外ギュッと握られてぶんぶんと大きく振られる。
これからの生放送で頭がいっぱいだった俺は、まさかあの憎きチャラ男がここに居るなんて思いもしなかったから……一瞬、自分がどこに居るのか忘れてしまった。
「あのな、ルイ。 葉璃は極度の人見知りなんだよ。 慣れたらめちゃくちゃ喋ってくれるから今は……」
「知ってますよ。 ETOILEのデビュー会見も、音楽番組とかバラエティも、ちょくちょく見てるんで」
「………………」
近付いてきた聖南を振り返る事なく、俺を見下ろして意味深にニヤッと笑ったチャラ男はまだ手を握ったままだ。
聖南に打ち明けて以来すっかり怒りも消え失せてたけど、この顔を見ると嫌でもあの時グサグサ言われた言葉達が脳裏に浮かんでくる。
「甘えてる」「成長出来てない」、初対面であんなにも失礼な事が言える無神経さが、俺には到底受け入れられなかった。
今もそうだ。
手を離せってめちゃくちゃ腕を引いてるのに、全然離す気配がない。
俺が人見知りで無言を貫いてると勘違いしている聖南が、せっかくフォローを入れてくれたのに……林さんが楽屋に走り込んでくるまで、俺はチャラ男に捕まっていた。
繋がれた手を無理に引き剥がす事をしなかった、精一杯我慢していた聖南の強い視線を浴びながら──。
「恭也くん、ハルくん、打ち合わせ別室らしいから行こうか」
「あっ、はい……! 恭也、行こ!」
「……うん」
勢い良く楽屋が開いたのに驚いたフリをして腕を振ると、やっとチャラ男から逃れられた。
不機嫌を顕にした聖南から無言で台本を渡されて、少し寂しい気持ちになりながら俺は林さんに付いて行く。
「……葉璃、ルイって人、知り合い?」
「え、っ? なん、なんで?」
「いや……葉璃が、知らない人をジッと見てるのって、あんまり見た事がないから」
「あぁ……あの、……」
そんなにジッと見てたっけ……?
確かに時が止まったみたいな感覚にはなってたけど、見詰めてた意識は全然無かった。
恭也がそれに気付いたって事は当然……間近で見ていた聖南にもそう見えてたって事だ。
だからあんなに不機嫌な顔してたんだ、聖南。
……あ、あとが怖いな……。
「その様子じゃ、何か、あるね?」
「……うん……」
チャラ男に出くわしたからって心乱されてる場合じゃないのに、明らかに動揺して台本を握り締めた俺の背中を、恭也がトントンと優しく叩いてくれた。
スタッフさんとの打ち合わせを巻きで終わらせてくれようとする林さんを見ていると、今日はほんとに、それどころじゃないんだって思い知らされる。
Lilyの影武者任務が決まってすぐに貰ったスケジュールに入っていた、ETOILEとLilyの出演が被った今日の生放送。
いつものスタイルで番組進行をしていくのではなく、二時間特番としての放送だから、お灸を据えられている最中のLilyは例によってトーク無しの曲披露だけだ。
俺は、この打ち合わせが終わったらETOILEとしてのリハーサルをこなして、それからLilyの楽屋に向かう。
運良くLilyの出番が先だから、ETOILEの本番までヒナタで居続けられる。 出番までスタジオでのひな壇待機も無くてさらに助かった。
もし順番が逆だったら、リハーサルでハルからヒナタになって、本番ではETOILEのハルに戻って、それから大急ぎでLilyのヒナタに……って、考えただけで大パニックだよ。
俺だけじゃなく、影武者を知ってる人達にも大迷惑を掛けてしまうから、出番順を見た俺は「これなら何とか大丈夫かも」と思った。
春夏秋冬、歌番組の特番常連であるCROWNも一緒だし、漠然とした不安はあっても実はあんまり心配していなかったりする。
俺がドキドキなのは、影武者がバレないかどうかと、カメラの前に立つ本番が二回もあるって事。
番組スタッフさん達にももちろん内緒の、ヒナタの正体は絶対にバレちゃいけない。
今月は歌番組が一回あったから、少しはLilyとしての立ち回り方は分かってる。
冷たい視線に耐えての練習の甲斐あって、ダンスに関してもほとんど不安を感じなくなった。
……でも、緊張するものは緊張する。
バレたら一巻の終わりで、この影武者で動いてる人達の努力も労力も全部水の泡になるんだ。
俺だけの戦場だった前回に比べて心強いのは確かだから、あとはもうやるしかないってモチベーションを三日前から保ってた、のに……。
「ハルくん、こちらへ」
打ち合わせを終えたその足で私服のままリハーサルをこなし、恭也と話をする間もなくLilyのマネージャーである足立さんが帽子とマスクを持って待っていた。
一度だけ恭也を振り返って頷き、心配そうに見守ってくれてる林さんにも同じように頷いてみせる。
何も考えちゃダメだ。
余計な事は、一切考えない。
ヒナタがバレないように、いま俺に出来る最善を尽くす。
「……はい」
今日は聖南がついてる。
アキラさんも、ケイタさんも、恭也も居る。
味方ばかりの影武者は初めてじゃない。 あの時と同じ……いやそれ以上の重圧がかかってるけど、俺はやらなきゃいけないんだ。
……やらなきゃ。
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