狂愛サイリューム

須藤慎弥

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5♡すれ違い

5♡9

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 ひな壇待機がない分、前室には出演アーティストが揃い踏みになる。

 俺はその場にヒナタで居なきゃいけない。

 Lilyの出番が終わるまで、ETOILEのハルが居ない事をどれだけ他のアーティストさん達に勘付かれないようにするかが問題だ。

 こういう番組構成は初めてじゃない。

 多数のアーティストさん達と同じ前室待機の場合、俺はいつも恭也の影に隠れて気配を消してるし、そもそも俺が居なくても気付かれるどころか居ても居なくてもどうでもいい存在だと思う。  

 だから問題ってほどの問題じゃない気もする。  現に今、「ETOILEのハル」が居なくても前室はまったく違和感がない。

 このだだっ広い前室にはテレビが二台、離れた位置に設置されていて、それには出番を控えた生放送中の番組が映し出されている。

 聖南の差し金なのか、LilyはCROWNとETOILE、そしてもう一組別のアイドルグループ(何人組だか分からないけどいっぱい女の子が居る)と密集し、同じテレビに向かっていた。


「セナさんかっこいぃぃ……!」
「アキラさん素敵ーーっ」
「ケイタさん笑顔封印してるぅぅっ」
「見て見て、ETOILEの恭也くんだよっ」


 間もなく自分達も出番を迎えるというのに、進行中の番組などそっちのけで代わる代わる男性アイドル様達に視線を送る彼女等は、すっかり普通の女の子に戻っていた。

 いくら大人数アイドルの子達が周囲にも聞こえるようにザワつこうとも、聖南達は聞こえてないフリで真剣にテレビと向き合っていて、珍しい事に会話もしていなかった。

 物々しいと言うとオーバーだけど、俺にはそう見えた。

 女の子達を挟んだ向こう側にCROWNの三人と恭也が居て、俺を気にする素振りも見せないのはさすがだけど、あまりにも普段と違うから逆に目立ってしまってる。

 セナさん達 緊張してるのかなぁ?なんて小声で言われてるし。

 一方、外面はすこぶる良い、俺を取り囲んだLilyの面々はというと、全員ともが不自然なくらい黙り込んでテレビに釘付けだ。

 あの後、楽屋に戻った俺は案の定メンバー達から冷たい視線を浴びた。

 また何か言われるんだろうなって覚悟しながら壁際族で気配を消してると、前室に呼び込まれるまで一つも悪口が飛んでこなかった事が何だか……逆に不気味だ。

 リカ達も言い過ぎたと思ってるのかな……と一瞬だけ良い方に考えてはみたものの、向けられたキツイ視線はとてもそうじゃなさそうだから、もしかすると本番後にたっぷり浴びせられるのかもしれない。

 聞くに耐えない、耳を塞ぎたくなるような中傷が待っているかと思うと、決意も新たにした俺だって憂鬱になる。


「Lilyの皆さんお願いしまーす」


 気持ちばかりのノックと、勢いよく開いた扉にビクッと肩が揺れる。

 ADさんの声に、腰掛けていたLilyのメンバー達は立ち上がった。

 ほ、本番だ……。


「ヒナタ、行こっか」
「行こ、ヒナタ」
「………………」


 椅子から立ち上がった瞬間、慣れないヒールによろめいた俺は、ミナミさんとリカに両サイドから支えられた。

 ミナミさんはともかく、リカからこんな風に優しくされた事なんてない。  ビックリを通り越して怖くなってきた。

 女の子って変わり身が凄いんだ。

 この世界は外面良く見せるのも大事なのかもしれないけど、こんなに普段とのギャップがあると俺はどっちが本当のリカなのか分からなくなる。


「………………」


 声が出せない俺は、二人に頭を下げてちょっとだけ不気味な腕から逃れた。

 本番前の緊張とはまた違う恐ろしさを目の当たりにしてしまって、無意識に後ろを振り返る。

 チラと伺った聖南達四人ともが、俺をジッと見てくれていた。

 ……思ってた通り、聖南やアキラさん、ケイタさん、恭也が視界に入るだけで安心感が違う。


『がんばっておいで』


 目が合ったその一瞬で、みんながそう瞳で激励してくれた。

 震えそうな手のひらを握り込んで、スタジオまでの廊下を歩みながら頭の中で本番のイメージを膨らませる。

 何も考えないで、とにかく楽しめって聖南が言ってた。

 ヒナタもハルも俺がやらなきゃならない「仕事」なら、いっその事楽しんでしまえって。

 俺を受け入れられないという姿勢を崩さないメンバー達の言動は、今に始まった事じゃないんだ。

 だったらそろそろ、割り切らなきゃ。


「よろしくお願いしますっ」


 重いスタジオの扉が開かれると、六人組の男性アイドルグループが本番中だった。

 小声でスタッフさん等に声を掛け、Lilyのメンバー全員で一礼してからもう一つのステージ上で持ち場につく。

 事務所からお達しが出ている通り、LilyはCM明けで司会者の女性によるタイトルコールがあると即座に曲が始まる。

 ADさんが手のひらを俺達に向け、カウントダウンを開始した。

 俺はステージ上では右側の二列目の位置に居て、二番のAメロで左側二列目に移動する。

 そこからCメロ前の間奏でリードボーカル二名の周りを俺達他のメンバーがぐるっと一周し、大サビで俺はセンターだ。

 ……手汗も、震えも、止まるんだよなぁ……。

 五台のカメラがLilyを撮っていて、今この映像が各々視聴者に行き渡っているなんて毎度信じられない。

 曲の間だけは無心でいられる、俺の謎の本番スイッチは壊れていなかった。

 たとえ素がどれだけ意地悪でも、プロ意識を持ったメンバー達と踊るのは決して嫌いじゃない。

 むしろ、難易度の高いダンスをバシッと揃えられた時の喜びは相当なもので、大人数グループでないと味わえない独特の悦がある。

 大サビでセンター位置にやってきた俺を、中央のカメラが抜いた。

 絶対にカメラ目線はしないと決めて(これはETOILEでもそうだ)、無心で口元を動かしながら踊った。

 アウトロではイントロの位置に戻り、スタッフの合図があるまでラストポーズを崩さない。

 メロディーが完璧に流れ終えると目前から合図がきて、ふっと全身から力が抜けていく。  そしてまた緊張の波が始まる俺は厄介としか言いようが無い。

 ───だけど……。


「Lilyの皆さん、ありがとうございました!」


 ───楽しかった。  やっぱり俺、踊る事が好きだ。  楽しいよ。  嫌な事なんか忘れてられるよ。

 聖南、……俺、楽しそうに見えた?

 蝶みたいにとは言わない。  綺麗に、舞うように、心からダンスが好きだって思い乗せて、踊れてたかな……?



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