狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
90 / 632
8❥関係性

8❥5

しおりを挟む



 何の脈絡もなく突然ベシッとおでこを叩かれて、聖南は我にかえった。


「楽しかったか?」


 起立したアキラに冷たくそう言われ見上げると、冷めた視線が向こうからも飛んできていた。

 菓子パンを頬張ったケイタである。


「そのハガキ、セナの指圧でヨレヨレになってる」
「え……」


 左手にあったリスナーからのハガキが、ケイタの言う通りの形状になっていた。

 おかしい。  今の今まで葉璃と熱い夜を過ごしていたはずなのに。

 アキラが「行くぞ」とスマホの画面を見せてきた時刻に、聖南は今度こそハッとして勢い良く立ち上がった。


「うわ、もう本番始まるじゃん!」
「十分前、五分前もセナに声掛けた」
「そうそう~でもセナ、どこか遠くに行ってたもんね~」


 呆れ返ったアキラと、しみじみ聖南にぼやくケイタによって、聖南が今「遠く」に行っていた事を自覚させられた。

 仕事の現場で時間も忘れて回想に耽るなど、聖南にとってもなかなかある事ではない。

 葉璃に思いを巡らせてキュン…♡とはしても、きちんと仕事をしないと嫌われてしまうのでタイムスリップには気を付けていたのだが。


「悪りぃ、完全に飛んでたわ」
「だろうな」
「いいなぁ~いいなぁ~俺にもそんな相手欲しい~!」


 アキラとケイタは、聖南がどこへ飛んで行っていたか語らずとも知る。

 一枚目のハガキしか目を通していない聖南を含む三人は、急いでブース内に入り、スタッフらに合図をして所定の位置に掛ける。

 聖南は時刻を確認した後に台本を開き、ケイタはノートパソコンを広げ、アキラは台本と控え室から持ち込んだハガキを目の前に置いていった。

 そしてそれぞれがマイクの微調整を行った頃、スタッフから一分前の指示が飛んでブース内が静まり返る。


『こんばんは~時刻は二十一時五分を回りました。 土曜の夜、皆さんいかがお過ごしですか』


 番組タイトルコールから続けてCROWNの持ち歌が一曲流れた後に、聖南はマイク越しにリスナーへと語り掛ける。

 回想によって準備を怠った後ろめたさから、台本通りの堅苦しい文面を読み上げたのだが、これが二人の失笑を買った。


『セナらしくない! もっとおちゃらけなよ!』
『真面目に仕事に取り組もうと思って』
『いい心掛けだけどな、いきなり過ぎて気味悪い』
『なんでだよ。  俺は……じゃなくて、どうも、セナでーす』
『ケイタでーす』
『アキラでーす』
『三人合わせてぇ、……はいせーの、CROWNでーす』


 一度手を打ってのケイタの「せーの」に、アキラと聖南は顔を見合わせた。

 なんだそれは、とケイタを見やり、聖南はBGMのボリュームをやや下げる。


『おいケイタ、それなんかダサイ』
『ちょっとちょっと、なんで言ってくんないの』
『いやそんな事言うの初めてじゃん。  三人合わせてCROWNでーすなんて。  見ろよセナのこのドン引き顔』
『せーのって言ったよ?  俺達もう十年以上の付き合いなんだから、そこは阿吽の呼吸でいこうよ』
『分かるか、そんなの』


 アキラの突っ込みにケイタは肩を竦め、もう一度手を打つ。  気持ちを切り替えたかったらしい。

 台本通りに進行していくべく、聖南は足を組んで手元のボタンを押した。

 軽やかなBGMと、聖南のタイトルコールの声にエコーが掛かる。


『えーっとな、今日はみんなも大好き恋愛相談特集でーす』
『大好きなのはケイタだけじゃね?』
『恋愛相談は大好物だね!  片想いも両想いも最高じゃん!  役柄的にスパダリ系多いからさぁ俺。  どんな悩みもズバッとビシッとお答えするよ!』
『今リア充なのはセナなんだから、セナが答えた方がいいだろ』
『えぇっ!  俺にも答えさせてよ!』
『はーい、まずは一通目のお便りアキラよろしく』


 促されたアキラが、事前にピックアップしていたハガキを手にマイクに向かう。

 対面位置に居る聖南は水を一口飲んだ。


『ラジオネーム、"アキラ推しからセナに変更"さん』
『おっ?  この子前送ってきてくれたアキラ推しの子じゃね!?  俺にしろって言ったの聞いてくれたんだ』
『俺からセナに鞍替えしたんだ。  ふーん、そうなんだ。  読むのやめよっかな』
『アキラ拗ねんなって~セナが喜ぶだけだよ?』
『はっはっはっ!  やっぱ俺の魅力には敵わなかったっつー事だな』
『……次送ってくる時は「セナからアキラに最終変更」な。  信じてるぜ』
『うわ、見てよセナ。  アキラのガチ拗ね』
『男の嫉妬は見苦しいぞ、アキラ』
『セナは絶対それ言えねぇだろ。  お前ほど嫉妬狂いの男見たことねぇよ』
『それは認める』
『認めちゃうんだ!』


 聞き覚えのあるラジオネームにはしゃぎ、聖南とケイタはリスナーには見えもしないのに腕を組んで大袈裟に頷いた。

 鞍替えされたアキラは聖南をひとイジリして満足し、ハガキに視線を戻す。

 CROWNのラジオ番組は放送開始から八年が経った今も、度々話が脱線傾向にある。


『話逸れた。  えー…私には今好きな人が居ます、相手は六つも年下で、職場の後輩です、仕事上では普通に話したり出来るんですがプライベートでの関わりが一切ありません、どこから進めばいいか分からないので、CROWNの皆さん、アドバイスと喝をお願いします……との事です』
『年下かぁ。  しかもそこまで仲良くない感じ?』
『みたいだな。  連絡先交換するほどではない仲?』


 ケイタとアキラが頷き合っているのを横目に、聖南はチラと葉璃を蘇らせていた。

 来月の葉璃の誕生日までは七歳差ではあるが、聖南と葉璃も六つ歳が離れている事を思い出したのである。

 しかも職場の後輩で、連絡先も知らないなどとは思い当たる節があり過ぎた。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...