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9★ ─SIDE 恭也─
9★9・驚愕の新メンバー候補
しおりを挟む葉璃が俺の服を掴んだまま、離さない。
この甘えるような手のひらの熱と、何か言いたげな視線……セナさんが言ってたのはこれだね。
見るからに無意識でやっちゃってるから、俺やセナさん以外にもこんな風に甘えたら相手は確実に勘違いするよ。
今は俺だからいい。
いずれ加入する新メンバーの人達に、葉璃が心を許すまでは俺とセナさんだけの特権だ。
思うところは色々あるけど、動揺しているのは葉璃もきっと同じなんだから、俺がしっかりしないといけない。
葉璃と俺は、これからも支え合おうねって約束したんだから。
「……社長。 今年の上半期、あらゆるジャンルの雑誌の表紙掲載順位、ETOILEは第三位です。 二人はまさに素人同然だったというのに、世に広まって認知され、定着し、受け入れられるまでが非常に早かったです。 二人のキャラと危うく見えてしまう距離感によって、想定外のファン層も掴みました」
俺と葉璃の口数が少なかった事で、場の空気が重たくなりかけた時だ。
林さんが社長に向かってこんな嬉しい事を報告し始めた。
決して前に出て意見を言うタイプでは無い林さんが、気を抜いていた社長をたじろがせる。
「おぉ、おぉ、そうだな。 それはスタッフからも秘書からも聞いているぞ」
「恭也の初出演映画が八月に公開されるにあたって、番宣絡みのメディア活動が下旬から公開前にかけて連日入っています。 特番を除く歌番組のゲストにもいくつか呼ばれています」
「おぉ、そうだったな。 林もあっという間に仕事を覚えて逞しくなったじゃないか。 三人は共に成長したと言えるな」
「そうですね。 ですが僕はまだまだで、力不足を痛感しています。 CROWNを育て上げた成田さんのようになるべく精一杯頑張ります。 僕は二人のマネージャーである事を誇りに思っていますので、新メンバーが加入された後も引き続き担当させて頂きたいです」
今まで聞く事のなかった林さんの思いを聞いた俺と葉璃は、「もちろんそのつもりだ」と応えた社長にホッとしたような笑みを向けた立派なマネージャーの横顔を、感謝を持って見詰めた。
「林さん……」
「いつも、ありがとうございます、林さん」
新メンバー加入の件で狼狽えた俺達に気付いた林さんを、もう、新人マネージャーとは誰も呼ばないだろう。
タレントとマネージャーは二人三脚だから、と成田さんが意気揚々と語っていた言葉が、そっくりそのまま俺達と林さんにも当てはまった。
俺と葉璃だけでは、とてもじゃないけどETOILEは伸びない。
林さんや、周囲のスタッフさんにたくさん助けてもらいながら、デビューして一年目を迎えるという事を肝に銘じておかなくちゃ。
「……葉璃、新メンバー候補決まったの、もしかして、知ってた?」
「えっ、あっ……うん……実は……」
社長室を出た俺達は、セナさんがいつも作詞をする際にこもるという個室に通された。
一台だけあったパソコンを起動させて、飲み物を用意すると言って出て行った林さんが居ない隙に葉璃を問い詰めると、すぐにしょんぼりと白状した。
「そうなんだ。 セナさん経由?」
「……うん……。 ごめんね、恭也……怒った?」
「どうして俺が、怒るの?」
「な、なんか……怖い顔してるから……。 黙ってた事、怒ってるのかなって」
「え……怖い顔、してる?」
「……かなり」
「そう……」
……どうしよう。 俺、別に怒ってないよ。
この話は、こうして社長の口から聞くのが筋だったと思うし、葉璃も口止めされていたのかもしれないから怒るわけない。
葉璃の無意識の「可愛い」と同じで、怖い顔をしてたなんて全然意識してなかった。
「俺、怒ってるわけじゃないよ。 驚いたけど、怒ってはない」
「……ほんとに?」
「うん。 怒ってるというか、不安でいっぱい……かな」
「…………それは俺もだよ」
「俺にはまだ、そんな余裕ないのに、ってね。 あと、葉璃と俺だけの、ETOILEだったのに、よそ者が入ってくる感じは……ちょっと、複雑」
「よそ者って……っ」
「ごめんね。 言い方悪いの、分かってる」
何と言えばいいのか分からなかったんだからしょうがない。
葉璃に隠しておく事でもないから、俺の本心を曝け出したまでだ。
葉璃を、ETOILEを、取られちゃう。
何にもない俺が親友の座から陥落したら悲しいなって、我儘な事を思っただけ。
「さーて、じゃあ僕も一緒に拝見させてもらうね」
「はい」
「はい」
飲み物を調達してきてくれた林さんと俺達は、三人仲良くパソコン前に密集した。
資料と映像とを照らし合わせて、計十人も居る候補者を次々と見ていく。
皆それぞれ何かに長けている、いかにもアイドルを目指している明るそうな人が多かった。
歌もうまい。 ダンスもうまい。 外見も容姿も、みんな申し分ない。
ここから三人に絞るだなんて、かなり難しいよ。
ETOILEの色がガラリと変わりそうな気配に、俺と葉璃の口数がまたもや減った最後の最後。
十人目の候補者がパソコンの画面に映った瞬間、俺は今度こそ驚いた。
「…………あれ、これ、って……」
「あっ!? ルイくんじゃないか! 彼、ETOILEの新メンバー候補だったのか!」
「………………」
俺と同じく驚いた林さんは、知らなかった。 対して葉璃は全然動じてない。
ルイさんが新メンバー候補、なんだよ?
社長がルイさんに「葉璃の人となりを見て勉強しろ」と言っていた本当の意味が、ようやく分かった。
よくよく考えれば、あの場ですでにルイさんは「ETOILEに入らない」と言ってた事を今さら思い出した俺は、久しぶりに会う葉璃にあの日も盛大に浮かれていて、大事なところを聞き逃していたらしい。
「葉璃、……もしかして、これも知ってたの……?」
「……うん……」
「今度こそ、妬いていい?」
「え!? なんで!?」
「俺以外の人を、見ないで」
「えぇっ!? 恭也っ?」
「本番前に、葉璃をぎゅってしていいのは、俺だけ。 今、ここで、約束して」
「えぇぇ……っ?」
「ハルくん、恭也の言う通りにしてあげて。 ハルくんを取られちゃいそうで不安なんだよ、恭也は」
「…………恭也……?」
「約束して、葉璃」
俺はどこまでも親友以上恋人未満にこだわる。
葉璃はよそ見しちゃ駄目。
親友は俺だけで、甘えていいのも俺とセナさんにだけ。
ルイさんと仲良しなところを見せ付けられると、妬けて妬けてしょうがないんだって事を今言っておかないと、葉璃はそのうち彼に心を許してしまいそうで心配だった。
「……分かった。 約束する」
葉璃への異常な愛情を知る林さんの援護射撃の甲斐あって、葉璃は意味が分からないと顔にしっかり滲ませて頷いた。
……それでいいんだよ、葉璃。
俺と葉璃は、無二の親友なんだからね。
他の誰も、入る余地なんか、ないんだからね。
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