狂愛サイリューム

須藤慎弥

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9★ ─SIDE 恭也─

9★10・ETOILE一年生

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 デビューから一周年の日を迎えた。

 公でのお祝いは、林さんと俺達とで相談してその件については触れないように番組側にお願いしておいたので、それほど世間にはその意識がないと思う。

 俺達はそんな、大々的に祝ってもらえるような立場にないと二人の意見が合致し、林さんにも理解してもらった。

 収録中、ほんの少しだけ触れられて一言コメントを求められはしたけど、大袈裟にはしゃぐタイプでもない俺達はいつもと何もテンションが変わらなくて、めでたい記念日にも控えめな返答で留めて共演者達の笑いを誘った。

 何せ、俺はデビュー 一周年を盛大に祝う心境じゃない。

 新メンバー加入のためのオーディションが再来月には行われると知った俺は、ETOILEが激変するかもしれない不安と、時期尚早感でいっぱいだ。

 限りなく正反対なところに居た俺達でも、眩しく新しい世界に足を踏み入れた事の実感だけは確かにあって、一年間大忙しな毎日を過ごした日々が今もまだ夢の中の出来事みたいで信じられない時がある。

 俺は畑違いの役者という仕事をしていて、人見知りな上にあがり症な葉璃は、隠し通さなきゃならない影武者を自身の責務だとストレスを溜め込みながら完璧にやりこなそうと奮闘している。

 どんなに先行きが不安でも、これまでもずっと俺の心の拠り所は葉璃だった。

 俺には、「葉璃も頑張ってるんだから、俺も頑張らなきゃ」と奮い立たせてくれる、何よりも大切な親友がついてる。

 葉璃は俺だけを見てると言ってくれて、ぎゅっとしていい親友は俺だけだって約束してくれた。

 それなのにこんなにも狼狽えてしまうのはやっぱり……葉璃を大切に思う気持ちが、デビューしてさらに、急速に強くなってるからだろうな。

 ───こんな事セナさんが聞いたら「ほんとに下心ないのか?」と怒られてしまいそうだ。





 ルイさんが運転する車の後部座席に、俺達は並んで掛けていた。

 林さんは一足早く事務所に戻らなくちゃならなくて、番組収録を終えた俺と葉璃はこれからレッスンスタジオに向かう。

 一週間後に迫ったドームでの生放送特番で披露する二曲を練習するためなんだけど……もはや完璧に体に馴染んだ二曲は、どれだけ葉璃とシンクロさせられるかという喜ばしい域に入っている。

 ルイさんは車を駐車してくるとの事で、俺と葉璃は先にレッスンスタジオに入った。

 ロッカールームでレッスン着に着替えて(もちろん葉璃の方は見なかった)、大きな鏡が壁一面に張り巡らされた独特なスタジオの分厚い扉を開けた。

 次の瞬間だった。


「一周年おめでとー!!」
「おめでとー!」
「おめでとー!」


 はじめに入った俺に、パンッと弾ける音と共にクラッカーの紙ひもや紙吹雪が降りかかる。

 音に驚いて俺の背中に張り付いた葉璃の肩を無意識に抱いた。

 俺も一瞬、何が起きたのか分からなかった。


「ETOILE一周年、おめでとう。 葉璃、恭也」


 腕を組んでふっと微笑んでいるセナさんを見て、中身が空になったクラッカーを持つアキラさんとケイタさんが視界に入ると、ようやく事態を飲み込んだ。

 その場に居たのは、CROWNの三人と成田さん、林さんだった。


「えっ!? わ、わぁ……っ!」
「………………っ」


 驚きと喜びの混ざった声を上げた葉璃が、俺の背中から離れていく。

 セナさんとアキラさん達を順に見ると、同じく状況を理解した葉璃は胸元を握って口元をへの字に歪ませた。


「みなさん……なんでここに居るんですか」


 泣き出してしまいそうな涙声で、葉璃は「ありがとうございます……」と呟いた。

 CROWNの三人はそれぞれ別の仕事で忙しいはずなのに、ここに集まってくれている事の意味が分からない俺達じゃない。

 事務所に居た林さんから俺達へのメディア対応の事情を聞いたのか、先輩である彼らだけは祝いたいと思ってくれたに違いなかった。


「この一年、デビューした二人の頑張りは俺達が一番よく見てきた」
「うんうん。 事務所ゴリ押しで、しかもCROWNの後輩ですなんて宣伝されて相当プレッシャーだったと思うんだけど、二人はそのキャラで見事にETOILEを自分たちのものにしたね」


 アキラさんとケイタさんが、成田さんにクラッカーを手渡しながら俺達に向けてそんな温かい言葉を掛けてくれた。

 俺は、葉璃と一緒に盛大に感激し沈黙してしまう。

 こういう時、咄嗟に言葉が思いつかない。

 何かと顔を合わせる事の多いこの先輩達は、普段はこんな事絶対に言わないんだ。

 現場で会うと他愛もない話をして緊張を和らげる事に専念してくれて、事あるごとに、何があっても俺と葉璃の味方だから好きに言動していいとまで言ってくれていた。

 芸歴が長くても、どれだけ光を放っていても、決して驕る事のない三人が世間から受け入れられる理由なんか火を見るより明らかだ。
 
 見習うべきところが多過ぎる。 俺は後輩という立場も、未熟者という謙遜さえもおこがましい。


「恭也と葉璃はこれからもっと伸びていくんだ。 そのままでいろ。 成長はいくらしたっていいけどな、お前達の内面はずっとそのままで居てくれ。 きっとそれが……」
「───何ですって!? はい、……ちょうど今、CROWNとETOILEみんな揃ってスタジオに居ますので! えぇ、もちろんケイタも居ます! すぐに向かいます、はい、……はい、失礼します!」
「……おい、成田さん。 俺めちゃくちゃいい事言ってた最中だったんだけど」


 話の腰を折られたセナさんが、スマホを持ったままケイタさんに走り寄って行く成田さんをじっとりと追う。

 セナさんはまさに、俺と葉璃のこの先の指標となるべきお話をしてくれていたんだけど。

 一方の成田さんの様子もただ事ではなくて、耳打ちされたケイタさんも「えっ!?」と驚きの声を上げた。

 どうしたんだろう。 何かあったのかな。

 ……などと考える間もなく、ケイタさんとアキラさん、セナさんの三人は成田さんに急かされてバタバタとスタジオをあとにした。

 残された俺と葉璃、林さんは、揃って顔を見合わせる。


「……どうしたのかな」
「何か、あったのかな?」
「あの様子だと緊急事態っぽいね」


 首を傾げながら見上げてきた葉璃に、俺も首を傾げてみせる。

 俺達を祝うために、わざわざ忙しい合間を縫って駆け付けてくれたのかもしれないから、俺はあまり気に留めていなかった。

 みんな居なくなった事だし……と、遠慮なく葉璃をぎゅっと抱き締める。

 俺はこの時、葉璃と同じ心持ちで今日の日を迎えられた事の方が、何よりも重要だった。


「葉璃、ETOILE一年生、おめでとうだね」
「……うん、おめでとう。 恭也、……これからもよろしくお願いします」
「……こちらこそ」


 世間にはとても大々的になんか言えない、お互いの「おめでとう」。

 俺達の間には必要だった。

 いつ言おうかと迷っていた葉璃へのお祝いが、俺にも返ってきた事が嬉しくてたまらなかった。



 ……葉璃、…… ″恭也″ を、これからもずっと、ずっと、ずっと、好きでいてね。





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