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10♡緊急任務
10♡6
しおりを挟むマッサージが終わってすぐから、ダンサーさん達が集まって来始めた。
みんながデジカメを指差して「何あれ?」と首を傾げてたのを見て、すかさずルイさんが走り寄って行って事情を説明している。
時間は取らせないから、と言ってるのが聞こえてきた。
もうすぐ聖南達も来ちゃうかもしれないし、何度も撮り直すなんて出来そうな空気じゃない。
「そんじゃサクッと撮ってまうか」
「えっ、もう撮るんですか……!?」
「いやいや、ハル太郎が言うたんやないか。 俺らのダンス撮って送ってたもれって、佐々木氏からメールきてたんやろ?」
俺にはケアしろってうるさかったルイさんが、自分は喋りながら簡単なストレッチしかしてない事に気が引けた。
突然始まった、俺へのマッサージに時間を取り過ぎたんだ。
春香達の二曲の振りは、覚えたてだけど多分スイッチが入れば大丈夫。
でも一発本番なんて聞いてない。
「そうですけど……リハとか無いんですか? 合わせ練習もしてないのにいきなり撮るなんて……」
「そんなん要らん要らん! ハル太郎は踊りだしたら人格変わるやん。 あれにはマジでビビってんから」
「それは……スイッチ入るんです」
「スイッチ? どこにボタンあんの? ハル太郎は着ぐるみなんか? ファスナーどこ?」
なんの気無しに言った「スイッチ」に食い付いて、わざわざ話広げるとこが意地悪なんだってば。
俺の背中を覗き込むルイさんを見て、ダンサーさん達も脇で笑ってて恥ずかしい。
「違いますよ! そんなの無いです! スイッチっていうのは、……えっと……うまく説明出来ないですけど、曲がかかれば自然と入るんです。 やらなきゃスイッチが」
「なるほど。 つまり、 ″やる気スイッチ″ をパクってるって事やな」
「なっ……!? パクってないです!」
「くだらん事言うてないで撮るで。 音はスタジオ内に流れるようにしてくれてんよな? 林さん」
「うん、準備出来てるよ。 パソコンからスピーカーに音飛ばすから、スイッチ入れたと同時に流れる」
「よっしゃ、いこか!」
「えっ? えっ?」
ちょっと待って……! いきなり!?
ルイさんに腕を取られて、林さんの合図でデジカメで全身が映る位置に移動した数秒後───曲が流れ始めた。
春香達が大苦戦していたという、ハウス系ダンスの基礎がたっぷり盛り込まれた二曲を連続で踊ると、すごく息が上がる。
その上、上半身の振付けはやっぱり女の子のアイドルグループらしく動きがワンフレーズごとに細やかだ。
俺とルイさんは、この二曲の振りとステップを三日で完璧に会得した。
ほんの一、二時間の練習を週に三日、多い時で四日は春香達と踊った事を思い出しながら、隣で音に乗るルイさんと呼吸を合わせていく。
認めなくないけど、ダンスに関してはほんとに……息が合う。 これは練習してる時からだ。
今や他事務所である俺に、振りを見てほしいとワガママを言ってきた春香を決してバカにしたり笑ったりしなかったルイさんは、俺よりも場に馴染んで真剣にmemoryのみんなと向き合っていた。
チャラチャラした見た目に反し律儀なところも、俺のマネージャーとして動いてくれてる最中に嫌というほど見ている。
見た目や性格はともかく根は真面目そうだし、何よりこんなに真摯にダンスと向き合ってる同世代の人を見るのが、俺は初めてかもしれなかった。
毎日接してると、ルイさんの裏のない言葉の数々に信憑性が増していく。
だから……ルイさんがETOILEに加入するかもしれないと知った直後の気持ちと比べると、今はそんなに抵抗感がないんだ。
……うん、……やっぱりまだ認めたくない気持ちも大いにあるけどね。
「ふぅ。 どんなもんやろ。 ハル太郎、確認しよか」
「……はい」
ダンサーさん達、恭也と林さんに見守られる中、二曲連続で踊った映像をルイさんと確認してみた。
ここへ来てまったく合わせる事のなかったダンスが、見事にシンクロしてる。 撮り直す必要の無さそうなそれは、とても一発本番だとは思えない完成度だった。
ルイさんも同じ気持ちみたいで、満足そうだ。
林さんがデジカメと机を撤収しているのを見て、ダンサーさん達がスタジオ内にバラけて各々ストレッチを開始した。
「マジでやらなきゃスイッチ入るなぁ、ハル太郎。 それって一種の才能やん。 トーク出来んからアイドルらしくはないけど」
「……分かってますよ」
「分かってんの? ほんとか? いつまでも甘えん坊やでおったらいかんよ? ずっと俺がハル太郎の付き人でおってやれるわけやないんやから、せめて仕事で付き合いのある人とは自分で喋れるようにならんとダメや」
「………………」
「まぁスイッチがあるってのはええ事やんな。 希望があるわ」
「…………ふんっ」
「そんな怒るなや。 最後にフォロー入れたったやん!」
「あ、靴ひもが解けそう」
俺は、端で体育座りをしていた恭也に近付くとわざとらしく屈んで、解けてもいない靴ひもを触ってルイ節から逃れる。
せっかく気持ちよく一回で撮り終えたのに、また始まった。 耳が痛いよ。
「あー! シカトしやがった! ハル太郎、シカトはイジメと一緒なんやぞ! 俺が泣いてもええんか!」
「恭也~~」
「はいはい。 おいで」
ルイさんがうるさいよ~とこれみよがしに恭也にくっつくと、すぐにぎゅっと抱き締めて俺にだけ聞こえるように「お疲れ様」と囁いてくれた。
聖南と同じ、いつでも俺に甘くて優しい恭也。
マイナスだったルイさんの印象がほんの少しプラスに転じたとしても、俺は叱咤されるだけだとネガティブに沈むだけだから、ルイ節ばっかりは聞いていたくない。
「俺にはそんなんした事ないやん! えこひいきもダメや!」
「ルイさんが言ったんでしょ、甘えるのはダメだって。 でも俺は元々が根暗で卑屈だから、味方で居てくれる人の前では自分を飾りたくないんです」
「まともに返してくるなや! ほれほれ、俺の腕もあいてるけど? 一発OKを讃え合おうや」
そう言って両腕を広げるルイさんを、恭也と共にじっとりと見詰める。
二人で顔を見合わせて、俺は恭也に問うた。
「……讃え合った方がいい?」
「ぎゅってするのは、セナさんと俺だけ……でしょ?」
「……うん……」
うわぁ……恭也ってば、こんな事サラッと言えるようになっちゃってるよ。
俺にしか聞こえないように囁いたり、瞳を覗き込むようにして顔を傾けられたり、……ついつい照れちゃったじゃん。
「たった今一糸乱れぬダンスをした相方をないがしろにするんはよくないやろがぁ!」
「ルイさんうるさいです」
「ルイさん、お静かに」
「なんや二人して!」
喚くルイさんの両腕は、寂しく宙をブラブラした。
俺と恭也はいつもの無表情で、同時に人差し指を唇にあてて「シーッ」と窘める。
その動きも見事にシンクロしていて、俺は一人でこっそり笑った。
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